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賢者の叡智なコレクション  作者: 永頼水ロキ
第四章 賢者の角灯
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38-2 聖職者の冠

 聖職者の冠を広げ、ダイヤモンドを見つめた。


 ……聖人としての役目を私に?……これからどう変わっていくことになるのだろう。


 残りの荷造りを始めた。聖職者の冠を胸元へ、ランタンの代わりに懐に入れた。それから。


「これ」


 日守聖域の宝物エリアから手に入れていた木製のブレスレッド。少し考えて自分の右腕にはめた。

 魔力がないためか特に何も感じなかった。けれど、これを見ると、メリッサたちに認めてもらえたあの時のことを思い出すことができて、私に勇気を与えてくれた。


 それから朝の支度を整えるとカズマサのもとを訪ねた。彼の執務室に入るとそこにはカガリも待っていた。


「来たか。では、これからのことについて詳しい説明をするからよく聞くように」

「はい」

「カガリ殿の身に起きたこと、そして、我々に嘘の情報が回っていたことを考慮すると、双方の国に裏切者がいることになる。よって、これよりは他家に対して秘密裏に進める必要がある」


 頷いた。


「また、カガリ殿が生存していることを月の国は把握していないだろう。それらを考慮して次のように進める」


 表向き戦争準備は進めるものの、シドウによってその進行は遅延される。


「父上が時間を稼いでいる間に我々は月の国へ入る。そこで我が先方の状況を把握し、その情報と月の国の人質役を連れて帰る」

「アイリは人質役として俺と残ってもらう。俺は俺で、月の裏切者をまず叩くことにはなるだろうな」


 カガリを後ろから切りつけた者達はわかっている。まさか彼が生きて帰ってくるとは思っていないだろうということで、月の国の裏切り者についてはカガリが帰還すれば片付けることができる。


「我は太陽の国に帰還後に月の国の無実を証明し、こちら側の裏切者に対して牽制しつつ裏を探ることになるだろう。その後に思惑が外れた裏切者がどう動くか……それから、魔物の暴走についても検討を要するが、カガリ殿によれば当面は魔物の襲来はないとのことだったな」

「ああ。外国の友人が対応してくれた」

「冒険者か?」

「そうだ」


 エマが対応してくれる。


「とはいえ、魔物を暴走させる技術などどこから得たのか……」

「その件は裏切者が明らかとできれば確認することになるだろう。まずは国のことを優先して進める――」


 ――早速月の国に向かう私たちは世界樹を回り込むように動いていた。


 南側は世界樹の根っこが山の尾根を作っていていくつかの丘のような地形になっている。

 いくつかの集落があって、私たちは国境の町を目指していた。日守聖域とは世界樹を挟んで逆の位置にあって、こちら側は魔物の脅威もないために農耕地が多く、町以外にも人が住む場所が道沿いに点在していた。


 戦時中でなければとても平和な場所。


 私たちはその集落に向けて馬に乗って移動していた。荷物はアイテムボックスに入れているので、三人とも身軽な装いで動くことができていた。


「――よし、あの集落がこちら側の最後の町だ」


 もうすぐ日が暮れる。


「ここでは戦争の準備が進めているはずだ。我はそのためにやってきたことになっている。カガリ殿は身分を隠しておいてもらい、アイリもこれで顔を隠しておけ」


 そういうと私に顔を覆うための布を渡してきた。間者やそば仕えが身に着けるものだ。


「付き人のふりをすればいいんだな」

「そうだ。着いたら我は軍団長に会いに行き、父上からの伝令を行う。その間、二人は宿に行くふりをして移動し国境を越えて先の岩場に先行しておいてくれ。地図を渡しておくから確認しろ。後で合流する」


 渡された地図には町中を移動し国境を気づかれずに超えることができる抜け道と、それから集合場所が書かれていた。


「町では我が対応するから二人は黙っているように」

「わかった」

「承知しました」


 ――門番が見えて、カズマサを視認すると一礼してきた。馬を止めてみんなで降りた。それからカズマサが門番に声をかける。


「順調か?」

「いつでも月の国を滅ぼすことができるでしょう!」


 ここから見える町中は殺気が満ちていて、おそらく普段いない兵士達がたくさん見えた。町の人は息を殺して家にこもっているのかもしれない。


「軍団長は?」

「は!町長の家にて待機しております」

「分かった。案内してくれ」


 カズマサは私たちに向き直ると。


「お前たちは先に宿に向かえ」


 黙って頷いた。


 キン!キン!

 その時、金属音が聞こえた。聖職者の冠の呼び出し音。


 カキン!


『もしもし。聞こえてる?』

「は、はい」

「ん?どうした?」

「あ……」


 隣のカガリが不思議そうな顔を向けてきたので慌てた。


『こっちが勝手にしゃべるから聞くだけ聞いて』


 カガリにティターニアの声は聞こえていないようだった。


「失礼しました、何でもありません」

「先を急ごう」

「はい」


 二人で町を抜ける道に入った。裏道で、目立たないように移動する。


『いろいろとあるんだけど……将来的にやってほしいことと、今やってほしいことと、そのための準備なんかを伝えていくから』


 カガリの足が速いのでついていくのがやっとだった。


『やってもらいたい仕事はそっちの世界の私の目となり耳となること。そのために、いずれは教会に行ってもらう必要がある。教会の聖人となれば貴族以上の立場になって世界の中枢に入り込めて、あらゆる監視ができるようになる。時には私のために手足にもなってもらいたいわけ』


 力のない私にそれほどの大役が務まるのか不安がつのった。


『で、それは将来の話として。まず、今いる国でのアイリの立場を向上して発言権を得ることから始める。具体的には、そこの国で戦争をしかけている悪者をアイリが主体となってつぶしてもらう。それで今まであなたを軽視してきた連中を見返すわけよ。今時点で「教会に行きたい」といっても聞いてはもらえないだろうけど、国を救った英雄になることができれば一目置かれるでしょ?願いを無下にできなくなる』


 父上や兄上に見直していただく?


『とにかく、アイリにはアヒルから白鳥に変わって大空に羽ばたいてもらうわ。うん、今あたし良いこと言ったわね』


 ……。


『それじゃあ、そんな感じで』


 ……え?


『あたしの支援とか期待しないようにね。あたしは全知全能の神様だけど誰が犯人とか知らんし。こっちはアイリを通してそっちに関与できるだけだから。とにかくがんばって!どうやって解決するのか知らんけど』


 …………え?

*****

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