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賢者の叡智なコレクション  作者: 永頼水ロキ
第四章 賢者の角灯
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36 悪魔を呼ぶランタン

 * * *


 震えるマリーがぽつりと口を開く。


「上位存在……」


 ミカエルは動けなかった。武器にかけた手がそれ以上動かなかった。


 上位存在。それは、異界つまり天界や魔界、精霊界に存在する者のうち、特に知能が高く圧倒的な力を有する者達のことだ。ダンジョンのボスとして相対したこともある。言葉は通じるがいずれも一筋縄ではいかず、人間をその辺の獣と変わらないと思っている連中だった。


 今、目の前に浮かんでいる者から放たれる強烈な魔力は、それが上位存在のうち、悪魔に類するものだとわかる。


 エマ……なぜこんな危険な物をアイリに持たせている?!いや、ダンジョン内ではただ幻を投影しただけだった。どういうことだ……。


 これを呼び出し倒れたトグサはピクリとも動かない。


「んー?あんた達、弱いくせにアタシを呼んだの?ちゃんと払えるもん払えるんだろうねぇ?」


 その悪魔はそう言いながら、トグサから視線を動かして周りを見まわしていた。


 最悪だ。


 天使や精霊は時に人を救うこともある。けれど、悪魔は歴史上、街や文明の崩壊に関与することはあっても、人を救うような動きをした例はない。そういうやつらだ。


 冒険者として長年危険な場面に出くわしてきた。一番死を覚悟したのはエマにエルダー聖域で出会った時、そして、まさに今この時だ。あの時程ではないが、確実に勝ち目のない相手だとすぐに理解できた。


「……あら?」


 その場の全員が息をのみ動けない中、悪魔はひらりとアイリに寄っていった。守るように動くべきだろうが動けずにいた。


「カオルじゃない?……何か若返った?」

「え?あの、私は、アイリといいます」

「ええ?!カオルじゃないの?」


 そう言うと突然今までの殺気を嘘のように消し、不思議そうな表情を浮かべて、その悪魔はアイリの周りをぐるりと飛んだ。その場を支配していた絶望的な雰囲気は消えていた。


 それからまじまじとアイリの顔を覗きこむように見つめている。


「魂の匂いはカオル。それにこの感じ、聖力持ちでしょう?カオルじゃないの?」

「……カオルは彼女の祖母だったはずだ。もう亡くなられている」


 カズマサが臆した様子もなく悪魔にそう告げた。それを聞き、びっくりしながらアイリとカズマサを交互に見ると、背中を地面に向け、空中で寝っ転がるような姿勢になった。


「そっかー。そうだよね。こっちは時間が早いから。じゃあ……カオルはもういないのか」


 あ!と声をあげると、悪魔はぐるりと回転して姿勢を戻してからアイリを見る。


「じゃあ、ルーカスは?」

「ルーカス様?えっと……?」

「そう、賢者のルーカス」


 大賢者ルーカス・ゴールドのことか。


「大賢者ルーカスは300年前の黒竜封印で自らを人柱として犠牲になっているはずだ」


 また戸惑うアイリに代わってカズマサが答えた。それを聞いて、悪魔はとても悲しそうな顔を一瞬浮かべ、すぐに真顔に戻った。


「……そっか。それでカオルの孫娘にそのランタンが」


 ランタン……賢者……待てよ。日守聖域の秘宝は……。


 顎に手を当てて考えていると、ぞくりと背筋が寒くなった。その気配に心当たりがあった。


 慌てて広間の出入り口を見ると、そこに黒いフードつきローブと仮面を被った……エマの姿があった。凄まじい存在感でそこに立っている。


「あれ?ちょうど今――」


 悪魔はそこで黙った。じっと悪魔とエマが見つめ合うこと数分。その間は誰も動けずにいた。蛇に睨まれた蛙とはまさにこのことだろう。エマの殺気がその場を支配している。


 それからエマはさっと霧のようにその場からいなくなった。気配も消えてなくなる。


 残された悪魔は小さく溜め息をつくと、アイリの頭を突然撫でた。


「え?!」

「ふふふ」

「えっと……?」


 アイリに笑顔を向けた悪魔はすうっと消えていった。その後には今までの騒動が嘘のような沈黙だけを残していた。


 エマが何とかしてくれたのか……?分からないが、とにかく助かったらしいな……。


 大きくため息が出た。それから思い出した。

 あれを呼び出し倒れたトグサを見る。半眼によだれを垂らし意識がない様子で横たわっていた。必死にイノが揺さぶって呼び掛けているが反応がない。


「魔力切れでしょうか」


 隣のマリーがその様子を見定めていた。


「おそらくはそうだろう。マナポーションを飲めば多少緩和されるかもしれないが、完全に魔力を枯渇したな」


 魔力切れは長くその状態が続くと魂が剥離して死に至る。多少残っていればそのうち戻る魔力も、ゼロになればあのようになって命に関わる。そういう意味でも魔力なしのアイリは希有な存在といえる。


 ……ただ、誰も冒険者側はトグサにマナポーションを渡してやる気配はなかった。


「…誰もマナポーション持ってないの?」


 見かねたのか、メリッサがエルフ側に声をかけた。


「いや、倉庫にあるはずだ」

「典型的な魔力切れよ。マナポーションで回復すればたぶん治るよ」


 それを聞きイノが走って出ていく。


 エルフ族は魔力が甚大だから切れた事例が少ないのか……となると、あのランタンの魔力の消費量は異常に高いということだ。トグサがどの程度の魔力保持者だったかは知らないが、人族よりエルフ族のほうが一般的には魔力量が多いとされているから、俺たちが起動しても魔力切れを起こすほどということだろう。


 トグサのそばに転がっているランタンを見つめた。


 状況から察するに、あれが「賢者の角灯」である可能性がある。

 賢者の角灯は「それに灯をともせば、望む光景と夢を見せてくれる」とされる賢者の秘宝の一つ。悪魔を召還したことについては理解が及ばないが、ボスエリアでアイリが使って見せてくれた効果は合致している。そして、上位存在を召喚するという効果は、少なくともレジェンダリー以上のアイテムだと言えるだろう。

 それら総合して考えると「賢者の角灯」という答えにいきつく。


 ただ、もしそうであるなら、誰が日守聖域を攻略したのか……それともやはり違うのか。


 そして、この事実を俺達はギルドには報告せねばならないだろうか……。

 ダンジョン内でのことであれば契約によって報告が必要だろうが、今はダンジョン内ではないし、ランタンはアイリの所有物だ。


 あとで他のメンバーの意見を聞いて決める。


 おろおろとしたままのアイリを見ながら、そう思った――

*****

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