35-2 賢者の角灯
「なるほど。それで?その新しい情報というのは」
「ボスエリアを発見した。どうやら転移型の入り口で場所もおおむね把握している。もう一度、同じ場所を訪れて転移させられるなら、そこがボスエリアの入り口として正確に記録できるだろう」
「その場所の情報の提供は」
「もちろん。そういう契約で入場させてもらっているからな。仕事としてそれは請け負う。あとでキッドが作成した地図を渡す」
「よし」
「それからもう一つ。アイリについて……聖人であることを確認したため、それを教会に報告することになる。それを事前に伝えておく」
「アイリがなんだって?」
トグサが口をはさんだ。それを聞いてカズマサは眉をひそめた。
「トグサ。控えよ」
「いや、兄様……」
鋭い眼光で睨まれてトグサは口を閉じた。それからカズマサはミカエルに視線を戻す。
「その聖人として教会に報告することについて、我々とどういった関係があるのか」
「今後、アイリをめぐって教会が出張ってくる可能性があるから伝えておく。ただ、アイリもまたダンジョン攻略を通じた仲間だからな。無下にしてほしくない。だから伝えておく」
「……アイリ。聖人とはなんだ」
カズマサの鋭い視線が刺さる。その場全員の視線が私に集まってくる。
「……アイリ!」
「私が説明します――」
マリーが説明をしてくれた。
聖力や聖人の説明を聞いたカズマサは腕を組んでいた。それから、皆の考えがまとまらないうちに、シドウが先に判断を下したようだった。
「好きにすればよい。儂の国とは関係のない話でしかない。アイリは儂の国の者であり、他国の事情等は関係がない」
暫くの静寂があってカガリがそれを最初に破る。
「ミカエル、俺に任せては貰えないだろうか」
「それは?」
ミカエルにではなく、シドウにカガリは視線を移した。
「シドウ殿。俺の処遇や今後の動き方を打ち合わせたい。代表同士、さしで話ができないだろうか」
ざわざわと異論を挟む家臣がいたが、シドウが睨み付けて黙らせた。それからカガリに顔を向け応える。
「……いいだろう」
……シドウとカガリは別室に移動し、私達はその場に残された。
全員が立ち上がった。私はというと、いつも通り隅っこに移動しようと動き出す。
「待ちなさい」
けれど、リョカがそれを許さなかった。
「アイリ。お前はどうして冒険者や月の者と行動していたのか。先程から何の説明もない」
「えっと、あの……」
「それでもトクカー家の子女ですか。ちゃんと説明しなさい」
「確かに、どうしてお前が冒険者と仲間になれる?お前のような無能がさ」
トグサの物言いにムッとしたメリッサが前に出た。
「無能?アイリは無能じゃないよ?アイリのおかげでボスを倒せたんだから」
「そんな馬鹿な?!魔力なしのアイリに何ができたっていうんだ?!」
「あ、あの、その」
「アイリは幻影を出すアイテムをすごく良いタイミングで使って窮地から救ってくれたの!わかる?臨機応変な対応が求められる現場で、冷静にそれが出来るのよ!」
「……アイテム?」
トグサがヒヤリとする視線をアイリに向けてくる。その後ろにいるリョカも。
「お前に幻影を出すアイテムなんか、渡したことがあったか?」
どしどしと足音を立ててトグサが近づいてきて、私の右腕を掴んだ。
「痛い!トグサお兄様、申し訳ありません。ただ、私はエマ様に言われて持っていただけなのです」
「ちょっと!アイリを離しなさいよ!」
メリッサが近付こうとするが、それをリョカが邪魔をした。
「これは私達の問題であなた方は関係がないことよ。アイリに魔法道具を持たせた覚えはない。つまり、この子は私達から泥棒を働いていたということになる……この子の物など一つもないのだから」
「何てひどいことを……」
マリーが睨むと、その場は一触即発の雰囲気に包まれた。
「待ってください!皆様、私は大丈夫です、大丈夫ですから」
なぜかみんなは苦しそうな顔になった。
その反応に少し戸惑ったけれど、私は左手を胸元に入れた。
ドキドキと動悸がしてくる。
これを渡してしまったら。これがなくなってしまったら。もう、誰も私に構わなくなってしまうかもしれない……。
けれど、それよりも自分のせいで誰かが争うのは嫌だった。意を決してランタンを取り出した。
「これを馬糞置き場の裏の林にあった小屋で見つけました」
「……ふうん?」
右腕を離すとトグサはそのランタンを奪うようにして取り上げた。ころころと手の平で転がす。
「これが?どうやって使う?」
「はい――」
大きく元に戻すスイッチと、後ろのスイッチを説明した。使えば、望む光景を映し出せることも。
「エマとかいうのは何者のこと?」
トグサがランタンをいじり、大きく元に戻したところで、横からリョカが問い質してきた。
「冒険者と仰っていました。それから、そのランタンを譲って欲しいと言われていました。私の物ではないと伝えたところ、持っていて欲しいと言われて」
「ちょっと待ってください。エマさんが?」
声の方に顔を向けると、ずいぶんと驚いた表情のマリーがいた。それから、マリーはトグサに。
「それは弄らないほうが良いように思いますよ」
と、注意したがその時、カチリという音がランタンから聞こえる。マリーの忠告は一呼吸遅かった。
青白い光がランタンの中にある石から少し放たれ、次の瞬間、トグサは意識を失ってその身を投げ出すように倒れた。
「……え?」
リョカが何かを見上げ固まっていた。
冒険者達が武器に手を回して臨戦態勢をとっているのが見える。
皆が見つめる先は私の後ろ、そこを振り返って見上げた。
そこには、黒い翼の生えた異形の存在が浮かんでいた。
一見すると女性のよう。そのこめかみには二本の角が見え、背中には黒い翼。牙も口元に見えている。
体は局部だけ黒い皮鎧で隠れているような、ほとんど全裸に近い姿をしていた。
そして、私にも分かるほど強烈な殺気を纏っていた。
「……なぁに?これ?くっそ不味いんですけど?……殺すぞ、人間」
若い女の声が広間に響く。最後の方の声は、まるで、地獄の底から聞こえるようなドスの効いた声だった。
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