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賢者の叡智なコレクション  作者: 永頼水ロキ
第四章 賢者の角灯
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34 醜いアヒルの子

「あの先に宝物エリアがあるはずだ」

「ダンジョンって不思議でこういう大まかな構造は全部同じなの」

「そうなのですね……では、あの先に賢者の秘宝があるのですか?」

「いや、たぶん」


 キッドが口を開く。


「それはない。おそらく階層はまだあるはずだ。秘宝ではない別のアイテムだろう」


 木立の道の先に進むと巨木が真ん中にある円形の広場についた。周囲に木々の壁が囲み、その巨木の足元に宝箱が見えた。


「さあ、報酬を確認しますか」


 そう言いながらメリッサは、ぐいぐい私をその宝箱のそばまで引っ張っていく。


「どうぞ!」

「え?!」

「今回の戦闘ではアイリの活躍が大きかった。だから、君が開けてくれ。もしあそこで『引き付け』が上手くいかなかったら俺達は撤退するしかなかっただろう」

「撤退、できたのですか?」

「ああ。帰還玉の用意はしていた」

「帰還玉はボスエリアから一つ前の場所に抜け出すアイテムでね。少し癖のあるアイテムだけどボス戦の回避は出来るんだ。ただ、出来れば使わずに済ませたかった」


 それで皆さんは転移後も冷静だったんですね……。


「そんなことより早く、アイリ!早く開けて!」

「どんなアイテムかねえ」


 わくわく目をきらめかさる冒険者達に圧されつつ、カガリも微笑みを返してくるので……仕方なくそっと宝箱を開けた。


 宝箱の中には、木でできたブレスレットが一つ入っていた。


「見たことの無いアイテムだ」


 中身を覗いてきたリックが唸った。みんなの期待の眼差しがすごいので、急いで箱から取り出した。それからみんなに見えるようにした。


「……俺も知らないな。もしかしたら新種のアイテムかもしれない」

「効果不明だと装備するのは危ないかな?」

「慎重を期すならそうだろうが、エルダー聖域で宝物エリアから呪いのアイテムは出なかった」

「それなら大丈夫か?」

「うーん、どうだろう」

「とにかくアイリの物だ。鑑定するならギルドに持っていく必要があるが、彼女が決めることだろう?」


 え?


「私の物ですか?!そんな!恐れ多いです」

「ええ?なにそれ。貰ってくれないと私たち喧嘩になっちゃうかもしれないよ?」

「入手アイテムはルールを事前に決めておいて分け合うんだが。今回はそのアイテム入手時の貢献度で分けようと話していた」

「あとは先に見つけた方が優先権を得るとかも決めておいたんだ。今回のはボス戦の報酬だから貢献した奴のもの」

「でも、私はランタンを起動しただけで」

「そうよ。適切なタイミングで適切なアイテムを使ってくれたから勝てたの!さっきミカエルが言っていたでしょ、アイリがいなければ撤退して手に入らなかったアイテムなんだから」


 え……。


「俺も君が手にすべき報酬だと思う」


 カガリの真剣な眼差しに頷くしかなかった。


「とはいえ、鑑定したいってことなら俺らに相談してくれ」

「たぶん呪われていることはないだろうから、取り敢えず使ってみるっていうやり方で確認するのもありだよ?たいていのアイテムなら装備して魔力を流せば使えるはずだから」

「あのでも、私には使えないと思います。魔力が無いですから」

「「…………え?!」」


 冒険者達はそのまま黙ってしまった。

 やっぱり、魔力なしな私は……。


「魔力を持たないって……もしかして聖力持ちなの?」

「……はい」

「まじかよ」

「教会は……エルフの里には教会がないのだったな」


 ミカエルはうむむと唸った。と、マリーが困った顔になる。


「どうしましょうか。エルフの国は非加盟です」


 非加盟?


「聖力について、アイリはどこまで知っている?」

「はい。あの。天界から得られるエネルギーで。何も出来ないと聞きました」

「ああ、そうだ。これを扱える者を聖人という。魔法やダンジョン産出品のほとんどが使えない」

「確かにそうですが、この聖人にはある場面でとても必要とされます。天界交渉の時です」

「天界交渉とは何ですか?」

「天界に住まう女神ティターニア様、教会の定める信仰の対象ですが、かの神との会話をする教会の儀式が天界交渉なんです」

「魔力は天界に嫌われるらしい。魔力を持つ普通の人では天界との会話が出来ないとのことだ」

「アイリさんのような聖人はほとんどいません。教会の加盟国は聖人を発見しだい、教会に報告する義務があり。国民の義務として聖人は教会に属することになります」


 説明を聞いてもぴんと来なかった。


「……今、教会にはその聖人が絶えてしまっていて、その発見に全力を注いでいる状況なのです」

「俺達冒険者にはギルドから継続的な依頼として、聖人発見時の報告も求められているんだ」

「色々な国にいくからね、私達は。非加盟国も含めて教会はなりふり構わなくなっているんだと思う」

「まさか。アイリを誘拐するつもりか?」


 カガリのその声はとても低かった。


「いずれにしてもそんなことはしない。それに我々への依頼はあくまでも報告だけだ。気になっているのは、我々が報告した後の教会や太陽の国の動きがどうなるか分からないことだ」

「その加盟国と非加盟国での違いは?」


 カガリはマリーに問いかけた。


「加盟国であれば義務として教会に属することになります。一方で、聖人にはステータスが与えられてとても大切にされます。貴族と変わらない暮らしと権限を持つことができるので、積極的に自分が聖人であることを公言することが一般的です」


 マリーは一呼吸おいて続ける。


「ですが、非加盟国の場合、そういった体系化された仕組みがないのでどのように取り扱われるのか分かりません。教会が教義に反して荒事に手を出すことはないと思いますが、例えばアイリさんの故郷であるこの国を離れることを求められたり、そういったことを心配しているのです」

「俺たち冒険者は特に国を持たない。だが、ギルドには属している。ギルドは教会との協力関係にあって、聖人の件については同様の義務を冒険者に求めているんだ。だから、その、あまり気乗りしないが俺たちはギルドに報告しないといけない」


 メリッサが手を握ってきた。


「でも勘違いしないでね。突然言われて混乱しているかもだけど、アイリは世界で最も貴重な人ってことだから」

「私が、そんな、そんなわけないです。魔力なしは役立たずです」

「聖力のほうが貴重だ。エルフの国ではどうだか知らないが、もしも姫さんが皇国に生まれていたらその時点で人生勝ち組。聖人は貴族より偉いってことになるからな」


 私が、貴重?


「……いずれにしても俺たちでは判断できない。まずは太陽の国に帰還後、報告連絡をするしかない。そのうえで、アイリを害するような動きがあれば、俺たちを頼ってくれ。できる限りの支援をする」

「そうそう。もうアイリは私たちの仲間だからね。頼って!」

「仲間?!私がですか?!」

「そう。何?不満?」

「そんな、そんなことないです。ただ恐れ多いだけで、その、うれしいです」

「なにその『恐れ多い』って」


 メリッサはそう言って笑った。

*****

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