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賢者の叡智なコレクション  作者: 永頼水ロキ
第四章 賢者の角灯
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33-2 日守聖域

 ミカエルが盾を正面に構えると、その後ろですぐさまマリーが杖を構えて詠唱を始める。陣形はミカエルを正面に真ん中マリーで、左右の少し後ろに残る二人が武器を構えていた。


 メリッサはトールの近くに、私を挟むように立っていた。そして、私たちは聖印の虎の後ろにいた。他の冒険者も四人かたまって、それからカガリは少し離れた位置に、気配を消して低い姿勢をとっているのが見えた。


「私は大丈夫です。この首飾りのお陰で狙われません」


 メリッサは首を横にふった。


「アイテムは絶対じゃないよ。ボスには効果がないかもしれない。そういうことはよくある」

「このぐらいの難易度のボスだとアイテム効果に耐性を持っていることが多いんだ」


 と、正面の地面から巨大な甲殻の一部が現れ、そして、人の数十倍は大きな――


「げ!」

「ゴキブリかよ……勘弁してくれ」


 さらにその巨体の足元からゾワゾワと、人の大きさのゴキブリが何体も何体も這い出してくる。背筋に寒気が走る。


「さて、やりますか!ボス戦だ!」


 キッドの放った矢はまるで光線でも放ったような光の線になって、一番巨大なゴキブリの頭を貫通した。


「さすが!」


 メリッサは魔法陣を左手で描き出し、右手の片手剣にかざした。剣がめらめらと燃え出して炎をまとう。


 そのまま踊るように回転しながら切り、人ほどの大きさのゴキブリを両断した。私に近付いてきた魔物達は切られたそばから燃え上がって灰になった。


 トールはハルバードを頭の上で数回回転させると、近付くゴキブリ達に目掛けて勢いそのまま振り抜いた。そのとたんにバラバラになった黒い破片が飛び散る。


「いきます!」


 マリーが叫ぶ。と、その杖から無数の炎の槍が空に解き放たれ、それらが空一杯に埋め尽くした。そして、一斉に巨体とその子供達に降り注いで突き刺さり燃え上がる。


「……ふ!」


 きいん!という冷たい音が響き、そこを見るとカガリが巨体の脚を切り飛ばしていた。


「危ない――!」


 巨体の体当たりが――間一髪でカガリは避けた。


 頭を撃ち抜かれ、体に無数の欠損と火傷があっても巨大な魔物はものともしていない。そして、その足元の穴の中からはずっとゴキブリが這い出し続けていた。


「これ……」


 周りを見回した。メリッサの額には汗、トールも肩を揺らして息をしているのがわかる。

 聖印の虎はさすがの動きで敵を寄せ付けていないけれど、私の目から見ても明らかに動きが固くなってきていた。


「じり貧だ!」

「こいつら無限にわくぞ!」

「それに……このボスは無限再生タイプだ!」


 先ほど切り落とされたはずの脚が生えている。頭部の損傷ももう見当たらない。


「無限再生ならコアがあるはずだろう!」

「でも」

「こっちは小さい奴で手一杯だ!」

「ここにいる全員の攻撃を集中してコアを破壊する!誰か一瞬でいい!全部の目をそらせてくれ!」

「私がやります!」


 マリーがそう言うと杖をかざして魔法陣を先端に作り出した。それからそこに緑の光が輝いた。

 周囲に光の粒がいくつも現れ、飛び回った。


「……だめだ!反応しない!」

「耐性持ちか!?」


 あ!


 気が付くとメリッサもトールも近くにいなかった。いつの間にかゴキブリの一体がこちらめがけて走ってくるのが見えた。


「アイリさん!くそ!アイテムの効果切れか!?」

「モンスターの数が多すぎる!」


 チャージタイプ…エマの説明が頭をよぎった。ケルブの首飾りの効果切れ――


 とびかかってくるゴキブリの腹が見えていた。


「――ふっ」


 後ろ回し蹴りをその腹目掛けて放った。

 ごぎゃっという音がして、ゴキブリがくの時になって飛んでいった。


「え?アイリさん?」


 首輪の効果が切れた私にゴキブリが三体飛び込んできた。


 一、掌底をその頭部に打ち込んだ。二、その反動で半身を回転させて裏拳を二体目の頭部に。三、体制を低くして回り込んで、体を捻ってかかと落としを三体目の胴に振り下ろして砕いた。


「「えええ?!」」

「やるじゃないか……!」


 周りを見渡した。何だかすごくゆっくりに見えた。


 ……魔物の目をそらす………時間を稼ぐ………!


 小さくして持っていたランタンを取り出し、それを元の大きさに戻した。


「皆を助けて下さい!」


 左手に持つランタンを正面にかざし、右手でそのスイッチに手をかける。


 カチリ!


 中の青白い石が光を放ち、そのエリア一杯を一瞬青く照らした。


「アイリ!」


 カガリの声が響く。


 青白い光が止むとエリア中に大量の人の姿が投影されていた。といっても一見してそれが人ではないことは分かる。顔がない。のっぺらぼうの人々が棒立ちしてそこに立っていた。


 すると、魔物達はその幻の人々を攻撃し始めた。


「マジックアイテムか?!何にせよ、これで!」

「ああ、今だ!マリー!」

「わかってます!」


 詠唱を始め、魔法陣が展開される。

 カガリは刀を鞘に納め、抜刀の姿勢で一気にボスの足元に。他の冒険者達もすぐさまボスを取り囲むように動いていた。


「――最大出力いきます!」


 大きな炎の槍を真っ直ぐボスに放つと、それと同時に全員がそれぞれ技を繰り出したのがみえた。


 轟音が響いてそこから粉塵に視界が奪われてしまった。すると、すぐに何かの倒れる音がその先から聞こえて、不快な多数の足音が消えた。


 粉塵が少しずつ落ち着く。そこには動きを止めた巨体が横たわっていた。


「……やった!」


 そして、正面の光の帯の一部が消えて通路が見えた。


「ボスを倒したぞ!」

「や、やったぞ!初見で秘宝館のボスを倒した!」

「すごい!すごいよ!」


 そう言うとメリッサが抱きついてきた。


「わ!」

「ありがとう!アイリのおかげよ!凄いじゃない!?それにさっきの動き何なの?!ビックリしたわ!」

「ああ、流れるような武技だった」

「本当に助かった」


 振り返ったミカエルが笑顔を向けてきた。他の皆も見詰めてくるので慌てた。


「わ、わ、私はただこの道具を使っただけで」

「そう、使ったのは姫さんだ。助かったぜ」


 リックがバシンと背中を叩いたので、ビックリして目を見開いた。と、そのリックの後頭部をキッドが平手打ちにする。


「やめろ、バカ!だが助かった。凄いアイテムだな」

「ええ。幻惑ではなかったです。純粋な立体映像を投影していたので、モンスターを混乱させられたのでしょう」


 抱き付いていたメリッサが顔を上げ見詰めてくる。


「この勝利がアイリのおかげなのは間違いないよ。感謝を断るのはそれはそれで失礼なことなんだからね?わかってる?」


 メリッサはそう言いながら離れると、でも私の手を掴んだまま前に歩き始めた。


 その先にあったのは光の幕が割けるようにして開いた出口。そして、さらにその先には木立に挟まれた通路が見えていた。

*****

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