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賢者の叡智なコレクション  作者: 永頼水ロキ
第三章 賢者の機兵
54/85

24-2 機歯聖域の故障

「それから、さっき転移で入り込んだ屋敷は改めて調査したい」

「……どうして?」

「近くにその故障した転移門の入口もあったのかもしれないと思って」


 コップの水を飲みこんだ。


「それにあの本棚には死霊術の魔法書が多かった。ジークの事件に関連も――」

「事件の関係者がいるなら危ないでしょ。あの屋敷にもう一回行くの嫌よ」


 クロエは腕を組んでいた。


「調査はあたし達の仕事じゃない」


 まずはあの家の周辺から調べて、最終的には気付かれないよう屋敷内も調べてみたい。


「………」

「………」

「……分かった。諦めるよ」


 クロエが折れてくれそうになかったので、調べたかったけれどそれは一旦諦めることにした。


 そうして夕食を食べ終わり、紅茶を入れ、落ち着いたところで思い出した。


「そうだった」


 懐中時計を二つ、俺の胸元から取り出した。それを目の前のテーブルに置いた。


「あ、金と銀の懐中時計。それも鑑定してもらわないと」

「……いや……これは誰にも話さないほうがいいと思う」

「え?なんで?」

「忘れたのか?ギルドの申請をせずに勝手に潜って手に入れた物だぞ」

「そうだった」

「鑑定はギルドに依頼するんだ。こんなもの、いくら魔法学校の生徒でも持っているのはおかしい」

「うーん……ギルドがだめなら、姉さんに話を通してみるとか」

「もっとダメだろ」

「……やっぱりそう?」


 クロエが唸った。


「でもさ、そしたらそれどうする?」

「どうするって?」

「だって、どんな効果があるのか知りたいじゃない。あの機歯聖域の、あんなに強いボスを倒してゲットしたんだよ?」


 ちょっと不貞腐れたようにクロエがつぶやいていた。

 正直気持ちは同じだ。でも。


「手帳に書かれていたこと忘れたのか?」

「それはもちろんわかってるけど」


『ダンジョンの産出品は正確な機能を把握してからでなければ使用してはいけない。なぜなら、使用方法を誤れば大きな事故を起こすことがあるからだ。加えてアイテムの中には呪われたものもあり、装備や使用によって害を受けることもある』


「レア度が高いほどアイテムの力は強い。もしもとんでもない効果だったなら、間違った使い方で取り返しがつかない事態を巻き起こすかもしれない」

「わかった。じゃあ、何とかして鑑定しよう」


 詳しくは知らないが、どうやら鑑定のためのアイテムがあるらしい。

 それを所有しているギルドに鑑定は依頼するのが一般的だ。鑑定を通じて、ギルドは間接的にも冒険者やダンジョンを管理していた。


「適切な理由を考えてギルドに鑑定してもらうか、それとも、他に方法がないか探すか、か」

「そうね」


 と、金の懐中時計を手に取り開いてみた。

 開くだけなら機能しないという確信があるわけではなかったけれど、好奇心に負けてしまった。


「あ!人のこと注意しておいて!」

「開けるだけだから」

「もう!」


 懐中時計には蓋が付いていて、それを開くと文字盤が出てきた。文字盤には見たことがない記号が60個、針の先に位置するように円状の等間隔に配置されていた。真ん中に金の針が一つだけあって、それが一番上の記号を指して止まっていた。


「動いてないね」

「たぶん、外縁にあるクラウンを動かして使う」


 懐中時計の上側にクラウンが付いていた。おそらく押し込んだり回したりできる。金属の輪がついていて、そこに細い鎖や紐を通すことで首から下げることも出来そうだ。


 すると、クロエも銀の懐中時計を開いていた。構造は金の懐中時計とそっくりだった。


「あれ?こっちは動いているよ?」


 銀の懐中時計の方は針が動いていた。カチカチと小さな作動音も聞こえる。

 金の方と同じ文字が刻まれていて、一つだけある銀の針が時計回りにそれらの文字をなぞっている。その動く速度は秒速に等しいと思った。


 少し誘惑に負けてしまったけれど、これ以上は危ないだろう。二つとも蓋を閉じた。


「金と銀、二つあるからそれぞれで持っておこうか」

「兄さんはどっちがいいの?」

「正直どっちでもいいけど。たぶんより深くから手に入った金の方がレア度は高いんだろうな」

「じゃあ、兄さんが金の懐中時計を持っておいて、あたしが銀の方を持っているから」

「なんで?」

「だって、レア度が高い方が危なそうだから」


 ……おい。


 ――翌日、魔法学校は通常の授業を再開した。

 魔法歴史学が最初の授業で、大講堂にみんなと久しぶりに集まっていた。


「よ!英雄さん!」

「相変わらずうるさい」


 ケントとゾーイが近くに座ってきた。俺の隣には変わらずクロエが座っていて、その前列の席に二人が座る。


「そろそろ新聞記者も来なくなったんじゃない?」


 振り返りながら話しかけてきたゾーイに頷いて返した。


「聞かれても同じ回答しかしないから、さすがに飽きたんじゃないか」


 ガチャ!と、アッシュフォード教授が大講堂に入ってきたので、皆、雑談を中止して静かになる。大講堂の壇上、そこに至ると教授は正面に座る生徒達を見回した。


「ずいぶんと自習の時間を取らせてしまったのでカリキュラムが遅れている。私の講義だけではなく、他の講義を含め少し詰め込んで進めるので皆覚悟するように――」


 ――授業が開始すると、学校生活は途端に通常運転に戻ってしまった。エマに出会い、大きな事件に巻き込まれ、さらにはサラマンダーと一緒に機歯聖域に潜った刺激的な日々は過ぎ去り、ここ数日は平和そのものだった。


 とはいえ、忙しさは増していた。教授の宣言通りに授業は詰め込まれていて宿題が多く、また、俺たちには別のやることもあったからだ。


 クロエが折れることはなかったので、残念ながらあの屋敷を調べたり、機歯聖域に潜る別ルート捜索はお預けになっていた。一方で、例の懐中時計を鑑定する方法の模索は続けていたし、サラマンダーを呼び出すために何度か低位の精霊の召喚実験を繰り返していた。


 今、クロエと実験室にいた。


「――ん。やっぱりもう呼ばれても来てくれないのかな」


 クロエの人形が動いている。低位の精霊が憑依していた。でも、サラマンダーではないからしゃべることはないし、ろうそくに火をつける程度のことしかできなかった。


 思ったより精霊召喚はコスパが悪かった。もしかしたら低位の精霊だからかもしれないが、必要な魔力量を考えると授業で教えている召喚魔法の方がよいように思えた。


「低位精霊だとこの魔法である必要がないのかもしれない」

「そうね。授業の召喚魔法は実際に召喚しているわけではないんだよね?」

「異界にいる精霊にこちら側へ影響してもらうような形だったはず」

「コンタクトをとるって感じね」


 エマの手帳、オーナーズブックを読むと、魔法式の根幹が分かってきた。どの式が具体的にどういう効果を持っていて、それらを組み合わせるとどういう結果をもたらすか、使わなくても何となくわかるようになってきた。


「コンタクト、そうだな。だから魔力量が少なくて済むんだけど……」

「……どうしたの?」

「授業の方法を応用したら、サラマンダーと連絡ぐらいはできるんじゃないかと思って」

「あ、うーん。そうね……たとえば」


 クロエは実験室の床に座ると、低位精霊の召喚を解いて、それから書いてあった精霊召喚の魔法陣を消した。次に新しい魔法陣を描き始める。


 描き終わった魔法陣の式を読んだ。


「………なるほど」

「こんな感じでしょ?」


 精霊と交信する魔法。対象となる精霊の宛名にはサラマンダーの名前が刻まれていた。


「うまくいくかな?」

「宛名の記述が正しいか不安が残るけど、やってみようか」


 頷きあい、二人で魔法陣の始点に立った。そこに魔力を息を合わせて流し込む。


「…………」

「…………」

「……なんだ?お!マテオとクロエか?」

「繋がった?!」

「サラマンダー様ですか?」

「おう、おいらだぞ。なんだこの魔法は?」

「精霊交信の魔法を作ってみたんです」

「へー」

*****

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