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賢者の叡智なコレクション  作者: 永頼水ロキ
第三章 賢者の機兵
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23-1 機歯聖域(深部)

 三人でそのボスエリアに入った。すぐに後ろで扉が閉じる音がする。それをうけて、すぐさまクロエがトラップサーチをマップ全体にかけた。


「……そういうこと?!」

「どうした?!」

「おい、前を見ろ!」


 俺の肩に飛び乗ってきたサラマンダーの言葉にそこを見ると、天井から巨大な蜘蛛がぶら下がって降りてきていたところだった。

 むき出しの歯車がその体のあちこちで回っている機械の大蜘蛛。少しずつ、黒い煙を纏っていき、下に到着する頃には四対八本の脚、天井と結ぶ糸を除いて全身がその煙に覆われた。


 とても静かだが、遠くにカラカラと音が聞こえていた。


「どう見てもやばそうだ」

「兄さん、気を付けて!足元全部何かの罠が張られてる!」


 くそ!じゃあもしかして。


「あの円柱の上だけ安全地帯か?!」

「そういうこと!」

「殺しに来ているなあ。あと、やっぱりエンチャントゴーレムだぞ。おいらの息は効きそうにない」


 死ぬなよ、とサラマンダー。


「死んでたまるかよ!」


 身体強化の魔法をかけた。機動力を上げて一気に手近な円柱の上に飛び乗った。

 クロエは運動魔法を自分にかけて浮かび上がり、一番高い位置に陣取った。サラマンダーは俺の肩に――


「あ!」


 ――飛び上がった拍子に落ちていた。サラマンダーが地面につっぷしていた。


「いきなり飛び出すんじゃないやい!びっくりした」

「す、すみません!」

「いい、いい。問題ないぞ。ん?」


 床のあらゆる場所から白い煙が吹き出し、あっという間に床全体が靄に覆われた。視界を奪うほどではないけれど、何かの気体が床から腰辺りの高さまで漂っている。その白煙の中にサラマンダーが包まれてしまっていた。


「罠か?!大丈夫ですか?!」

「おいらより自分の心配しとけ!くるぞ!」


 はっとして大蜘蛛をみた。

 ごそごそと円柱の一つに上っているところで、それから――


「――!あぶな!」


 お尻をこちらに向けると無数の糸を飛ばしてきた。それを間一髪跳躍でかわした。


 すぐに魔法を組み上げる。アーマーゴーレムに使ったのと同じ、ゴーレムへの致命の魔法。もう一発の蜘蛛の糸が飛んできたがそれをかわして、俺はその魔法を放った。


「いけ!」


 紫の光が大蜘蛛に当たった。それなのに、がさがさと大蜘蛛は元気に次の円柱に渡り歩いていた。


「……効かない?!」

「魔法が黒い煙に弾かれてるわ!」

「なんだって?!」

「弾かれるというより霧散して溶けた感じだったな。あと、おいらを見てくれ」


 そこを見ると、サラマンダーの体が変わっていた。布と綿で出来ていたはずの体が金属の部品がいくつもついた形に変わっている。

 歯車や機械の部品が歪に次々と生えてきて、半分機械人形に姿を変えてしまっていた。


「その煙のせいか?!」

「おいらには効かないし、元の適当な人形とそう変わらないだろ。ただ、マテオとクロエは触ったらだめだな」


 そう言いながらおもむろに自分の体に生えてきた金属の部品を乱暴にちぎると、それを大蜘蛛めがけて投げつけた。その部品は黒煙に入った瞬間、溶けるように消える。


「あっちの煙は腐食性があるみたいだな」


 黒煙は魔法と物体に対する腐食、白煙は機械化する侵食の毒か。


 大蜘蛛が攻撃モーションに入るのが目に入った。

 次々と蜘蛛の糸が飛んでくる。それを円柱を飛び移るようにして、俺とクロエは避け続けた。


「それなら!」


 クロエが突風の魔法を大蜘蛛に当てた。おそらく纏う煙を晴らしたかったのだろう。

 しかし、風も腐食されて消えたのか、それとも黒煙は次々発生しているからなのか、その効果はなかった。相変わらず黒煙は大蜘蛛の体を隠していた。


 今度は俺が致命の魔法を、露出している八本の脚の一つに向けて狙いすまして撃ち出した。紫色の光の矢を何度か放った。動き回る脚に当てるのは至難の業だ。


「当たれ……当たれー!」


 パチン!一発が大蜘蛛の脚に命中した。


「やった?!」

「……だめだ!」


 脚から紫色の光の筋が体に向かって進むのが見えたが、黒煙に守られた大蜘蛛の体に至ると消えてしまった。大蜘蛛の体内にもその煙が入り込んでいるのかもしれない。


 ジリ貧だ。


 大蜘蛛の糸が再び襲ってくる。周りを見ると、今まで放たれた糸が残り、円柱の足場が徐々に狭まってきていた。

 糸は粘着質で、触れると動けなくさせられそうだ。


「このままだとまずいぞ!」

「………兄さん!あの蜘蛛、地面に下りないわ!」

「!」


 大蜘蛛の動きを見つめた。たしかに、一度も床に下りていない。俺たちと同じように円柱の上を移動している。


「黒と白の煙、もしかして一緒にはなれないんじゃない?!」

「それか白煙は大蜘蛛にも効くのかもしれない!」


 クロエと頷いた。


「あの蜘蛛を落とすのは無理だけど、煙の方なら」


 クロエが魔法をくみ上げていた。風の魔法。

 その風が白煙を巻き上げ、そして、巻き上がる白い靄が大蜘蛛を襲う。


「!」


 明らかに大蜘蛛の動きが変わった。


「今、避けたわ!」

「あれが弱点だ!」


 大蜘蛛はクロエの操る白煙を避けるように飛びのいていた。既設の蜘蛛糸をぶちぶちと引きちぎって、そこまでして大蜘蛛は俺たちから距離を取っていた。


「お互いの場所に気を付けながら白煙を奴にぶつけるぞ」

「気をつけろよ、それが当たったらダメなのはお前らも同じだからな!」


 サラマンダーの声に頷きだけ返し、大蜘蛛を見据え続けていた。

 奴も自身の弱点に気付かれた相手に警戒を高めているように見えた。お互い、殺す手段を得た。ここからが本当の戦い。


 俺とクロエで風の魔法をくみ上げ、まずクロエが大蜘蛛に向けて白煙を飛ばす。


 それを避ける大蜘蛛。


 俺はその飛び出した瞬間をとらえ、クロエの風を曲げて大蜘蛛に追従させた。


 大蜘蛛はそれらをよけながら、俺たちに糸をこれでもかと飛ばしてきていた。


「――く!」「危ない!」

「おらよ!」


 サラマンダーが飛び出してきて、俺に当たりかけた糸を代わりに受けてくれた。

 糸に当たったサラマンダーの体からいくつも破片となった機械の部品がはじけて飛んでいく。蜘蛛糸は単に粘着性があるだけではなく、勢いがあって威力があるらしい。当たればそれだけで骨が砕けるだろう。


「サラマンダー様!」

「大丈夫だって!自分の心配しとけ!」


 そう言いながら、糸にからめとられるようにサラマンダーは壁に向かって飛ばされていた。壁に激突し、サラマンダーの体がバラバラになる。


「くそ!」

「兄さん!もう一度!」


 再び風の魔法を使って二人息を合わせる。


 今度こそ、当ててやる!


 白煙が大蜘蛛に再び襲い掛かる。まるで、白い蛇のように空間をグネグネと。大蜘蛛はその白い蛇を避けるように動いたが一歩遅かった。


 白煙が黒煙に混ざって――


 ――ドーン!


 混ざった煙が燃え上がり、一瞬の後に爆発した。


 脚が何本か吹き飛んで地面に突き刺さった。

 大蜘蛛はぎいぎい音を立てながら、かろうじて円柱の一つに掴まっていた。黒煙が吹き飛んだまま、回復していない。むき出しの体が見えていた。


 これなら!


 致命の魔法をくみ上げた。それを見て、大蜘蛛は再び勢いよく飛び出した。円柱を次々に飛び移っている。脚が二つほどなくなったのにその動きの切れは失われいなかった。


 終わらせるぞ!


 緊張感が増していく。最終局面に入ったのを感じた。

*****

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