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賢者の叡智なコレクション  作者: 永頼水ロキ
第三章 賢者の機兵
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22-1 機歯聖域

「やった、よね」

「うまくいったな」


 巨兵はそのまま動かなくなった。近づいて確かめてもピクリとも動かない。動力と接続する魔力の線が切れてしまえば、ただの金属の塊だ。その亡骸を横目にすり抜け、この町で一番大きいと思しき家の前に立った。


「この家の奥にいけば攻略したってことになるのか?」

「確証はないけど、おそらくはそうです」

「エマ達も入ったのかな?」


 家の中がどうなっているのかわからないが、正しければこの家の奥に「賢者の機兵」が安置されていた宝物エリアがあるはず。ただ、そこに機兵はないということになる。


「とにかく入ってみればわかる」


 ほとんどのダンジョンには複数のボスエリアと宝物エリアのセットが存在するらしい。だから、機歯聖域も「賢者の機兵」が手に入る宝物エリアの前にボスと何度かやり合う必要があると思う。幸い、この前の砂丘遺跡に潜った時に準備しておいた帰還玉を持っている。万が一、サラマンダーにも対処できないボスモンスターに当たってしまっても大丈夫。


 気を付けるべきは一撃死だ。


「そんなら、いこうぜ!」

「「はい」」


 サラマンダーはその小さな体で大きな扉に両手をかけると、ばーんと勢いよく開いた。見た目は小さな人形でも、中には強大な力を持った精霊が入っているわけだから当然か。


 最初は玄関ロビー。

 目の前には中央に大きな階段があって、それが二階に。玄関ロビーは吹き抜けになっていて、階段からつながった二階の廊下の手すりが左右に広がるように繋がっているのが見えていた。


 中に入ると突然入口の扉が閉まった。後ろから聞こえたその閉じる音に、びくりと背筋が伸びた。


「兄さん、この反応って」

「……まさか」


 天井には巨大なシャンデリアがぶら下がり、両壁にひときわ大きな歯車が二つ回っていた。天井もよく見れば小さな歯車が無数に回っている。その回転する音がごうごうと響いていた。


 階段からここまで赤い絨毯が敷かれている。

 二階までの中間の高さに踊り場が。その踊り場に二体のプレートアーマーを着た何かが立っていて、その二体がこちらに顔を向けてくる。


 どうやら、この玄関ロビーが最初のボスエリアだったらしい。


「リビングアーマーか?!」

「いんや、あれもゴーレムの一種だな」


 リビングアーマーは死霊系のモンスターで、プレートアーマーがひとりでに動いているような存在だ。けれど、機歯聖域は死霊系のモンスターが出てくるダンジョンじゃない。


「それにしても、あいつもエンチャントゴーレムだぞ。なんでおいら達の『息』に対策してあるんだ?」


 ガチャンガチャンと、金属音を響かせながらその二体が階段を下りてくる。歯車が回る異様な音の中でも響き渡っていた。


「まあいいや!さっきの要領で戦おうぜ!」


 サラマンダーが俺の肩に乗っかってきた。


「よし!クロエはフォローを、俺がさっきの魔法を使う!」


 一度使った魔法ならクロエの補助がなくても問題はない。


「わかった!」


 分かれて走り出した。俺は壁にむかう。

 アーマーゴーレムは二手に分かれてこちらを追跡してきた。体が重いのか、追いつかれることはとりあえずなさそうだ。


「このまま距離を取って戦うぞ!」


 クロエが片手で魔法陣を展開していた。


「エアーブロック!」


 球体の魔力の玉がクロエの手元から放たれ、それが一体のアーマーゴーレムに当たった。次の瞬間には魔力が弾けて空気を固めて、その動きを阻害する。


 もう一体にも放ち、二体ともスローダウンした。


「いくぞ!」


 すぐさまさっき巨兵に使った魔法陣を展開して――


「よけろ!」

「!」


 サラマンダーが叫んだ。その声が聞こえたと同時、強い衝撃で俺の体が地面に臥せていた。


「危なかったじゃん」

「なにが――」


 上を見上げた。

 壁に移動し、その際を移動しながら魔法陣を展開していた。その近づいていた壁から横薙に鋭い回転鋸が飛び出してきてこちらを襲ってきていたのがわかった。

 間一髪、臥せたことで避けることができていた。


「感謝しろよ」


 サラマンダーが押し下げてくれたのか。


「兄さん!」

「壁から離れろ!トラップがあるぞ!」


 部屋には罠が張られ、強力なボスモンスターが襲い来る。


 寒気が襲ってくる。

 死。それがすぐそばにある。帰還玉があるからなんて、そんな甘い考え方が通用する世界じゃない。


 冒険者、エマ達はこんな世界に身を置いているのか。


「しっかりしろよ。ここはお前ら人間の魂を奪うために作られた場所だ」

「トラップサーチを頼む!」

「わかった!」


 クロエが両手ですぐさま魔法陣を展開しすぐにはじく。魔力の波動が部屋全体に広がった。


「さっきの罠は壁の六ケ所!二階に繋がる踊り場に突き出す槍!踊り場の下にも、ドアの近くも今は危ないわ!」

「いい感じじゃないか」


 クロエと再び走り出した。


 こいつらの足が遅いのも罠だ。

 それに油断した冒険者は、この二体のゴーレムから距離を取ろうとすると壁際の罠に近づくことになるだろう。そして、モンスターに注視している侵入者を、一撃死の罠が背中から襲って命を奪う。


「作戦は変わらない、罠を避けつつ距離を取って、足止めできたら俺が魔法で仕留める!」

「オーケー!」


 再び二人の位置と二体の位置を調整し、クロエが移動制限の魔法を放った。


「いけるよ!」

「さあ、終わらせちまえ!」


 サラマンダーの力が俺の中にめぐってくる。魔法陣が光り、そして紫色に光る矢が一発、二発。

 矢が刺さったところから銀色のプレートに光の筋が刻まれていく。動力を切り離し、ゴーレムの命を刈り取った。


 ガチャン!大きな金属音と共に、二体のゴーレムがそこに倒れた。


「「はあ、はあ……」」

「おお、やるじゃんか」


 両手を見た。

 今更になって心臓が高鳴っていることに気付いた。悪寒に冷や汗、口の中はカラカラになっている。


 俺は死にかけた。もしもクロエが先に罠にかかっていたら、サラマンダーの助けが間に合わずに彼女が死んでいたかもしれなかった。


 一発でも即死するような攻撃を受けてしまえば、その先にフォローする手段はない。ダンジョンから得られるものは多いけれど、死んでしまえばそれで終わりなんだ。


「おい、どうした?いこうぜ」


 目に見立てたボタンが二つ。人形がこちらを見上げてきていた。


 くそ、今更後悔しても遅いか。


 もう止めて帰ろうと言ってもサラマンダーは納得しないだろう。下手をすれば怒りを買ってしまうかもしれない。


『世界に点在するダンジョン、そこには他では得られない貴重で有用なアイテムが産出する。それを求めて冒険者は潜る。だが、忘れるな。ダンジョンは容赦なくその命を奪いに来る。最も重要なことはリスクとリターンを正確に把握し、冷静に行動することだ。そしてそれはダンジョン探査に限らず、あらゆる君の行動に求められることなのだ』


 エマの手帳、そこに書かれていた一文を思い出していた。

*****

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