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賢者の叡智なコレクション  作者: 永頼水ロキ
第三章 賢者の機兵
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21-3 エマの手帳はまじヤバイ

 サラマンダーがふんと胸を張っている。人形の胸元の小さなリボンが揺れた。


「おいら達は存在そのものが凄いのさ。何かをするのに何かをしないといけないなんてことがない。他の連中のように面倒なことをする必要がないのさ」


 続けて、もっとも優れた存在なのだ!と威張り、それから歩きだした。


 大量の機械兵が襲いかかって来たが、目の前に至る前に燃えだして消えていく。その様は戦闘とは言えないだろう。その圧倒的な力を目の当たりにしながら、伝説を思い出していた。


 異界の存在、特に天使と悪魔、女神による様々な伝説が残されている。それら伝説の多くには関連する史実があるという。女神がこの世界に最も多く影響を与えており、天使や悪魔は時に大きな事件を起こしていた。


 そして、サラマンダーについてもいくつかの伝説や史実が残されていた。時に、街を一つ焼き尽くし、時に、勇者と共に世界を救った。いずれの伝説でもその性格は天真爛漫であるとされ、そして、圧倒的な火力が伝えられていた。


「お!あれなんか怪しくないか?」


 サラマンダーの右腕がとある家を指していた。

 大通りが左右に分かれるように、その家を避けて回り込むようにしていた。結果としてその家だけ他の家々とは孤立している。

 それは他の家より大きく、いわゆるギルド会館や領主邸のような雰囲気があった。煙突が五つ、真ん中の煙突が一回り大きくて一段と煙を吐いていた。


「なんかすごいのが家の前にいるね」


 そして何よりも、その家の前には他よりもひとまわり大きな機械兵が立っていた。巨大な剣を杖のようにして立っていて、この大きな家を守護しているようだった。


「あれっぽいな」

「そうだろ?おいらもそう思うんだ」

「でも、あんなに大きな」

「大きいだけの奴なんておいらの敵じゃないってまだわからないのか?」

「い、いえ!」


 少し不貞腐れたような風のサラマンダーが前に出ていく。

 それに気が付いたのか巨兵はツヴァイヘンダーを持ち上げた。巨大な両手剣が空に掲げられる。


「お?やるか?……あれ?」


 と、様子がおかしい。

 先ほどの機械兵たちが燃えて無くなった距離に近づいているのに、その巨兵は何ともないようにずんずん近づいてきている。


「……マテオ、クロエ、逃げた方がいいぞ!」

「「は?……はあーーー?!」」


 ドカーンと目の前にツヴァイヘンダーが振り下ろされて地面が砕かれていた。間一髪、俺たちは避けることができていた。


「くっそ。エンチャントゴーレムだ」

「どういうことですか?!」

「おいらたちの『息』に抵抗できる付呪がされたゴーレムってことだな」

「つまり……」

「おいらの一切の攻撃が効かないってことだ」


 いや、えっへんではなく。これ、やばくないか?


「ほら逃げるぞ!」

「そんなバカな!」

「うそでしょ?!」


 必死に逃げだした。路地裏に逃げ込むと、どうやら巨兵はあの場所の一定範囲より外には追ってこないらしく簡単に逃げ切ることができた。


「くっそー。誰だよ、あんなの作ったやつ」

「……諦めるしかないよね」


 えー、とサラマンダーが不満を表明した。


「そんなのつまらないだろ!」

「でも、あれに勝つ手段が」

「ちょっと待て」


 俺は胸元からオーナーズブックを取り出した。それからページをめくっていく。


「――あった」

「なんだなんだ?」

『ゴーレムと一口に言ってもその作成方法は多種多様である。精霊を込めた人形をゴーレムとすることもあれば、死人の魂を使った死霊術、さらには機械工学による人形をゴーレムとすることもある。ただし、一つの共通点がある。動力源を要し、これを体と接合して動かしているという点だ』

「動力。死霊術なら魂、精霊を込めているならその精霊が動力ってことか」

『つまり、この動力とその接続がゴーレムの弱点である。次にこれらに有効な魔法について記述しよう』


 その先のページには、効率的にゴーレムを倒す魔法式が並べられていた。そのいずれも動力源を外したり、破壊したり、接続を阻害することに重きを置いている魔法式ばかりだった。

 ここにいるような機械工学に基づくゴーレムは、その動力に魔石という魔力を込めた石を使うことが多いらしく、この魔石と機械との接続を解除する魔法などが記載されていた。


『よって、ゴーレムを作るのであれば、これらの魔法に拮抗する付呪を加えて防護することがより強力なものに仕上げるコツである。そういった付呪を施されたゴーレム<エンチャントゴーレム>は強力であるが、これにもさらに対抗する手段は存在する』


 次のページにはそれに関連する魔法式が並べられ、対ゴーレム戦のあらゆる状況に対応できるように記述されていた。


「あらためてエマってすごいんだな」

「エマ?」

「この本をくれた人です」

「ふうん。それで、倒し方はわかったのか?」

「魔法の内容はわかりました。でも、おそらくクロエと魔力を合わせても足りない、膨大な量の魔力が必要です」


 エマの魔法式は効率的だったが、それでも相手の防護を突破する物量は必要だ。サラマンダーほどの存在の力に抵抗できる防護を突破するには、彼と同等の力が必要だろう。


「それならおいらの力を分けてやろう」

「「え?」」

「え?じゃない。おいら達の息っていうのは、エネルギーそのものだからどんな力にも変えられるのさ」

「エネルギーそのもの」

「そうさ。だから、あいつらもおいら達の協力なしには……なんでもない。それじゃあ、やろうぜ」


 サラマンダーによれば彼らの「精霊の息」は人間に魔力を与えることもできるし、その逆もできるらしい。


「――つまり、魔力変換の媒介に近い存在なのか」

「どういうこと?」

「精霊は存在そのものがエネルギーだとして、それだけではなくて、外部のエネルギーを他のエネルギーに変換する触媒にもなれるってことだ」

「それってダンジョン産出品の魔法杖とか、そういう物に近いってこと?」

「たぶんな。ただし、精霊は自身が力を生み出すこともできるから」

「理解力があるじゃないか。そのとおり、だから最強!」


 三人でもう一度巨兵の前に立った。巨兵が反応する範囲の外側にいる。

 あの巨兵には決定的な弱点があった。それは、一定範囲に入らなければ目視されていても動かない点と、その間に障害物が何もないことだ。魔法の射程圏内にいるのに行動されないということであれば、魔法をゆっくり落ち着いて放つことができるということだし、何度でも打てるということ。


 本来は他の機械兵がいるはずだから、この弱点はサラマンダーがいるから成り立つんだけどな。


 周りを見れば、無限に思えるほど次々に機械兵が襲ってきていた。ただ、サラマンダーの領域に入った瞬間に燃えて無くなっていた。だから、ゆっくりと魔法を準備できる。


 俺の肩にクロエが手を置き、それから俺は両手で魔法陣を正面に描き出す。クロエの魔力が俺に流れてきて、魔法陣をより正確に描き出すことができる。

 エマの魔法式をいくつか組み合わせて、あの巨兵用の魔法を作った。


「「いきます!」」

「よっしゃ!」


 急に胸元が熱くなる。外から魔力が流れてきて、俺の体を通過し、目の前の魔法陣にめぐっていくのがわかった。まったく無理がなく、痛みはない。自然と力が増している。


 これが、精霊の息……。


 魔法陣から致命の一撃が放たれた。

 紫色の光の矢が陣の真ん中から放たれ、それが巨兵の胸に刺さった。すると、刺さったところから巨兵の全身に無数の光る線が走っていく。光る線は次第に魔法陣を描いていく。魔法陣の寄生とでもいえるだろうか、巨兵の体にこめらている魔石を利用するための回路に、感染症のように魔法陣が割り込んでいったのだ。


「お、お?おー!」


 巨兵は膝をつき、それからバランスを崩して倒れた。

*****

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