21-2 エマの手帳はまじヤバイ
「それで、おいらは何をすればいいんだ?」
もともとは簡単なことを試しにさせて、それからすぐに帰すことを予定していた。お試し召喚だったからだ。しかし、四大精霊はそんなことをさせる相手じゃないだろう。
「……だ……」
「だ?」
「ダンジョン攻略を手伝ってもらったりなんか、えっと、どうでしょうか?」
「ダンジョン?って、あー、あれか」
「……クロエ、何を……」
「……ろうそくに火をつけさせるよりはマシでしょ……!」
「ん?何か言ったか?」
「「なにも!」」
「んー、ダンジョンに遊びにいくか。ま、いいんじゃないか。それで、どいつのダンジョンに入るんだ?」
「えっと、その」
「う?!」
クロエが肘鉄をくらわせてきたので、少し呻き声をだしてしまった。
俺にアイデアだせってか。
「き、機歯聖域とか?」
「え?!兄さん?!」
「まあなんでもいいや。この狭いところでうだうだやっててもつまらないし、早速いこうぜ!」
と、小さな人形のサラマンダーはとことこと出口のドアに向かって歩き始めてしまっていた。
「ほんとに?!」
学校の中をうろつかれても困るので、クロエが彼を抱きかかえ外に出た。
「ところで、どうやって機歯聖域に入るの?」
「冒険者を雇って一緒に入るか、俺たちが冒険者登録をするか。いや待てよ、機歯聖域はどっちにしても無理か」
「何の話だ?」
「えっと、その、ダンジョンはギルドという組織が管理をしていて、特定のダンジョンは入場に規制があるんです」
「人間は面倒なことをしているんだ」
「……しかたない、調査も終わっているだろうから砂丘遺跡に潜るか?」
「おいおい!せっかくおいらがやる気になったのに止めるのはなしだぜ」
ギルド会館が見えてきた。冒険者たちが出入りしている様子がここから見えている。
「かってに入ればいいんじゃないか。おいらに任せておけ。うまくやってやる」
不安しかない。
「えっと、無理やりに入るとかはなしでお願いします」
「ばれなければいいんだろ?そういうの得意だぞ!」
やっぱり不安しかないんだが。
踵を返して街の出口、北門から出ることにした。目的地である機歯聖域はここから北西にある山岳地帯にある。それなりに距離があり、徒歩で行くとすると丸一日ぐらいかかってしまう。
「明日からの授業、どうしよう」
「学校のことはあとで考えよう。最悪、多少休んでも何とかなるだろう」
「食料とか野宿の準備してないよ?」
「……さすがに無理があるか」
多少の用意はアイテムボックスに入っているけれど、数日分はない。
「その辺の草を食えばいいんじゃないのか?」
「それはさすがに……」
「だったら、さくっと一日で行って帰ってくればいいな」
遠足かよ。
「ここからそれなりに距離があるので」
「転移すればいい」
「「転移?」」
北門を通り、北西方向に向けてとりあえず道なりに歩き、ある程度離れた位置で道を外れて野原の影に入った。とりあえずは人目につかない位置だ。
そうすると、サラマンダーがひょいっとクロエの胸元から飛び出して、地面に降り立った。
「よし、それで機歯聖域とやらの場所をおいらに教えろ」
クロエをみると彼女が頷いた。
その手に適当な枝を地面から拾い上げると、それで地面に簡単な地図を描きだす。
「ここです」
そして、描いた地図に一つ印をつけた。
「………大体わかった。まあ大きくは外れないだろ。そしたら」
地図を眺めていたサラマンダーは、俺たちに背中を向けると両腕を広げた。その次の瞬間、彼の正面の空間が裂けて亀裂が生じて広がった。空間の裂け目から夜空が見えている。
「いったんおいらの世界に転移して、そこから目的の場所で戻ればあっという間だ」
「……こ、ここに入るのか……」
「……大丈夫……?」
二人、覚悟を決めると先を行くサラマンダーについていく形で裂け目をくぐった。
「「うわー」」
ここが、精霊界?
見たことのない、光る実をつけた小さな銀色の草が地面いっぱいに生えていて、その草原に立っていた。空は夜で、大きな赤い月が真ん中に、それから星が無数に広がっていて、その月を中心に円を描くようにして動いていた。
後ろを振り返ると空間の断層が無くなっていたので、ものすごい不安が押し寄せてくる。
「そんでもって、ここにもう一回断層を開けば……」
「そういえば、こっちから呼び出さなくても開けるものですか?」
「もちろん。おいらぐらいになれば簡単なこと」
「それならどうして私たちの召喚に答える形で現れたのですか?」
「それは単なる興味本位」
「あ、そうですか」
またサラマンダーの正面に空間の裂け目ができた。その先には石が敷かれたごつごつとした地面と、石積みの壁のようなものが見えていた。
「大体位置はあっていると思うぞ」
もう一度深呼吸して、二人でその裂け目をくぐった。そうすると今度は昼の光の中、正面はさっき見えていた石積みの壁。ガシャコン、ガシャコンととめどない機械音が耳に入ってくる。
今、この短い時間にとんでもない経験をしたんじゃないだろうか。
「……兄さん!右見て!」
右を見ると、背中側にはいくつかの家らしき構造があって、それと石積みの壁の間に道のようなものができていることがわかった。町の中の道に転移してきたらしい。
目に入るすべての家の壁は鉄でできていて、屋根に飛び出しているいくつもの煙突から煙が出ている。その壁には無数の歯車が埋め込まれていて、それらがぐるぐると回っていた。
「間違いない。機歯聖域だ」
「うん」
「うまくいったな!で、攻略ってのは具体的に何をするんだ?」
「ダンジョン、えっと、機歯聖域には確かどこかに宝物エリアに繋がる家があるはずで、その家の奥に到達することが『ダンジョンを攻略する』ということです」
「ふうん。それで、その家はどれのことなのだ?」
見る限りでもたくさんの家が並んでいた。
「えっと、その、わかりません」
「めんどくさいなあ。町全部焼き尽くしたら早いか?」
「それはやめてください」
「たぶんだけど、より強いモンスターが守っているんじゃないかな」
ダンジョンは貴重な産出品の近くに比較的強いモンスターがいることが多いと聞いたことがある。
「強そうなやつのいる家を探せばいいのか」
「おそらく」
「よし、じゃあいこう」
サラマンダーは両腕を元気に振りながら歩き出した。よちよちとおぼつかない足取りで道を進んでいく。クロエと顔を見合わせてから、それについていった。
転移してきたその道は、機歯聖域の外壁に面した道だったらしい。普通の町であれば裏通りに当たるだろう。家々が道の横壁になっていたが、少し歩くと家と家の間に隙間があって、その小道から町の中心に向けて歩けそうだった。
「ここから入れそう――」
「待って!あれ!」
奥の方に、大きな人の影が見えた。
目を凝らす。と、それが機械の人形だとわかった。歯車が無数についた巨体がのっしのっしと町を歩いていた。機歯聖域のモンスター、機械兵だ。
「あれを倒せばいいのか?」
「は、はい」
サラマンダーは頷くと、家と家の間の小道に入っていった。それに慌ててついていくしかなかった。
小道から大通りらしい場所に出てくる。そこには無数の機械兵がいて、それらがこちらに気が付いたのか、両目が赤く光ってこちらに向かってきた。
「ひ!」
「まずい!」
「うん?大したことないだろ」
サラマンダーが前に出ると、近づいてきていた機械兵が順に燃え上がった。物凄い勢いで燃え上がり、あっという間に灰になって消えた。特に彼が何かをしたそぶりはない。
機械兵は金属でできているように見えた。燃えやすい素材ではないだろうに、その火の勢いはまるで乾いた松の枝を油で浸して燃やしたようだった。
「詠唱も魔法陣もなしで、すごいな」
「おいらを誰だと思っていたんだ?偽物じゃないぞ」
火の精霊王、サラマンダー。
「今のは魔法ですか?」
「いんや。精霊の息だ」
「息?」
魔法とは体系の異なる技術、か。
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