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賢者の叡智なコレクション  作者: 永頼水ロキ
第三章 賢者の機兵
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17-1 予兆

 ……そう、ボス戦……。


「――これでマテオ殿の目的は完遂であろう?少し私達にも付き合ってもらえないだろうか」

「ピラミッドの外で待っていてもいいですけど」


 ということで、ピラミッドのボス、ウィザードテレサはエマの放った魔法?の一撃で葬られた。エリア侵入から終了までわずか五秒。何が起こったのか分からない。


「え?え?今、何をしたの?」

「ん?テレサはゴーストだ」

「うん」

「成仏させれば消える」

「うん?」

「そう言うことだ」

「どういうこと?」


 まさか、古式魔法じゃないよな?伝承ではそんな魔法もあったような……。

 大崩壊以前には、現代魔法と体系の異なる魔法があったとか。失われた魔法、ロストマジックともいわれていた。エマがそれを使ったのか、それとも単に構築が早すぎて俺たちの理解の外なのか。


 宝物エリアでピラミッドの産出品、古のアイテムである「ドクロ水晶」を手に入れ渡してくると、エマとアリスはボスエリアの壁を調べ始めていた。


 クロエはしばらく呆気に取られていたが、気を取り直してエマに問いかける。


「えっと。何をしているの?」

「ああ。ボスエリアの魔法式を確認していた」

「「魔法式?」」


 クロエとハモって聞き返してしまった。


「そうだ。つまり――」


 エマによると、ボスエリアにはダンジョン内で唯一特殊な魔法式がエリアそのものに仕込まれているのだという。それは異なるダンジョン同士でも共通するところが多く、その違いなどを解析したいのだと。


「そうすれば、ダンジョン生成の理由、産出品の出現理由など、ダンジョンの秘密が明らかになるのではと思っている。私はダンジョンの研究者なのだよ」

「それで冒険者を生業に?」

「そうなる」


 エマは再びダンジョンの壁を調査し始めた。


「兄さん、どうしたの?」

「ん?」

「機嫌よさそうだけど」


 笑って……そうか。

 いつの間にか笑っていた。


 ここにいる二人は、おそらく魔法使いの中でも最高の存在だろう。目指す魔法の形。何となく考えていた理想的な魔法運用。それらをこの短時間で見せつけられた。


 すげえ……わくわくしてくる。


「なあ!魔法式の考え方なんだが――」


 彼らから出来るだけ魔法学の知識を奪いに行くことにした。アリスは鬱陶しそうにしてろくに相手をしてくれなかったが、エマはある程度付き合ってくれたのだった。


 ――そうして、ダンジョン探索は無事に終わり、エマ達とは惜しみつつ別れ、ドクロ水晶のレポートを自室でまとめはじめる。


「……ねえ、兄さん」

「ん?」

「あの子達、結局何者だったと思う?」

「……考えられるのは異種族、たとえばエルフ族じゃないか」

「亜人ってこと?」


 世界には人族だけではなく、一般に「亜人」と呼ばれる種族が存在する。


 大陸から離れた島に鎖国して暮らすエルフ族。霊峰火山グラナダの地下道、その先に住む小人、ドワーフ族。そして、天空に浮かぶ島にかつて住んでいたとされる絶滅したダークエルフ族。


 他にもいるが、体格や身体特徴、生理的特徴が人族と大きく異なり、婚姻しても子を成せない人型の別種を「異種族」や「亜人」と呼んでいた。


「あれほどの魔法の卓越は、彼らがエルフ族で長い寿命と生来恵まれた魔力があるからだと思う」

「ふーん。そっか、なるほどね。確かにその可能性はあるかも」


 鎖国された狭い世界から出て来て、ダンジョン研究に勤しむエルフだったんじゃないか。


「……よし。レポート完成!と」

「明日ようやく提出できる」

「お休みが全部潰れちゃったよ。そういえば、なんであたしまで……完全に兄さんに巻き込まれただけじゃん」

「まあ。そうだな。ありがとう」

「……寝よ寝よ!」


 そういってクロエは出ていった。


 ……翌日、休み明けの学校に通い、まずアッシュフォード教授の部屋に二人で訪れた。


 中にはいると教授は机の前で書類とにらめっこしているところだった。


 こちら二人の姿を確認すると、かけていた眼鏡を外して机の上に置き、一つの長椅子に案内してきた。俺達が座るのを見つめ、自身は真正面の別のソファに腰かけてきた。


 目の前のテーブルに、ドクロ水晶とそのレポートを置いた。そして、レポートの中身を説明する。


 黙ってそれを聞いていた教授は、目を瞑ってしばらく考え、それから目と口を開く。


「私の課題に対して十分な内容だ。自らの足で解決したところは特に評価に値する」

「合格ですか?」

「もちろん合格だ。ただ」


 そう言うと、教授は目を瞑った。


「レポート全体、マテオ君の普段の行動からも見えているが、魔法やその行使者に対する根本的な考え方の問題を感じた」

「……問題?」


 教授は目をあけ、クロエではなくこちらを見据える。


「魔法とは選ばれた者が扱える。それは歴史が証明しているだろう。事実、世界を崩壊させるほどの力が魔法にはあり、王公貴族よりも世界に与える影響力があるともいえるのだ。つまりは人々を導く責任も有しているとも言える」


 力?責任?選ばれた?


「君はあまりにも幼い。好奇心だけでものを見ている。純粋な技術の探求は悪いとは言わないが、君ももう少し大人になった方がよい。今日の講義では寝ないように注意しなさい」


 ――教授の部屋をあとにした。


「……兄さんは少し処世術を学んだ方が良いかも」

「わかってる」

「でも、ダンジョン探索は勉強になったわ。授業より参考になった気がする」


 確かに。

 エマ達とはもう少し話をしたい。教授の講義より彼らと会話しているほうが価値がある気がした。


 その後、一週間があっという間にすぎ、そして、次の休日。二人は早速ギルドに向かった。当然、その目的はエマ達に会うため。


 到着すると、ごった返すギルド内の小さな三人を探した。仮面を着けてフードを目深に被る小さな体はとても目立つはずだった。


 しかし、今日のギルドは単に人が多いわけではなく、何か全体に慌ただしい雰囲気だった。

 聞き耳の魔法でギルド職員の会話を拾った。


「――スタンピードの予兆を確認――」

「――モンスターの種類がおかしい。オークではなくゾンビだと――」


 何かとんでもないことが起こったようだった。

*****

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