15-2 賢者の写本(仮)
「……我が建国の父、ニックス・アルバーナーは大賢者の弟子にして最強の剣士だった。かの人が黒竜を封じた時、残された世界は混とんとしていた。その当時の世界を救うために彼は自らの剣を振るうことを誓ったのだ」
「それで国を?」
「ああ。迷える人々を導くため、そして、より良い世界に変えて師が復活するその時に備えていたと聞いている」
「復活?賢者が?」
「大賢者の弟子達は皆口をそろえ、いつか師は復活すると言っていたそうだ」
「――むぐぐ!」
アリスが口をふさがれたまま、何やら胸を張っていた。
大方、「私が賢者の復活を予言したんです。兄弟姉妹たちにはちゃんと言ってあったんですよ」とでも言いたいのだろう。
「それで、その初代殿を尊敬しているわけか」
エイドリアンは頷いた。芯の通った瞳がこちらに向けられている。
「エマ、君は大賢者に縁がある者ではないのか?私には、エルダー聖域の攻略という話と、そして失われたという秘宝、そこに合わせて現れた…人智を超えた力を示した君が全くの無関係とはとても思えないのだ」
その場の他の者も静かになっていた。私の次の言葉を待っている。
「……ふ」
アリスの口を開放した。
「エイドリアン殿のその目はニックスにそっくりだ」
がたんと大きな音を立ててエイドリアンは立ち上がっていた。前のめりになっている。
「貴殿らが言う大賢者、ルーカス・ゴールド、彼だったという記憶が私にはあるのだ」
「エマ、あなた……」
「大賢者……?」
「気が付いたらエルダー聖域の最奥で目を覚ました。そこに、聖印の虎のメンバーがやってきたのだ。今思えば、彼らが扉の前にやってきたから私は目を覚ましたのかもしれない」
「最奥…ボスエリアってこと?」
ニトの問いに頷いた。
「目を覚ますと、私はあのダンジョンの最終ボスだった。そんな私がルーカスそのものなのか、それとも彼の記憶を引き継いだまったく別の存在なのか。もはや私にもわからない。かつての自分とは全く異なる存在であることは間違いない。だからエマと名乗ることにした」
「……賢者の写本が失われたというのは事実なのですか?」
「それは事実だ。目を覚ました私の手で消滅させた。あれは……つまり、その、君らが手にすべき物ではないからだ」
「……そうか」
「最奥まで来て手ぶらで返すのは申し訳なくて、冒険者達には代わりに手持ちの武器を神通力で強化してやったのだ」
エイドリアンは少しがっかりしつつ、椅子に座りなおしていた。
「そういうことだったのね。ようやく納得がいったわ」
皆が少し落ち着いたその瞬間を狙いすましたようにアリスが立ち上がった。
「そして!私が、私こそが大賢者ルーカス・ゴールドの一番弟子、アリス・エルフレアなのです!」
「…………は?」
「ふふん。なんと、転生魔法を開発してこの時代に転生したのです!そして、賢者の復活を予言していたのは誰あろう私です!」
その場の全員が呆然としていた。
情報量が多いところに、さらに訳の分からない話をぶっこんできたのだから当然だ。
「なんですか?え?信じられないのですか?」
「大賢者がダンジョンボスになって復活したって話だけでもキャパオーバーよ」
「私もこの少女が弟子のアリスの生まれ変わりだとまだ信じきれていないのだが。確かにこの雰囲気はアリス・エルフレアだと思う」
「弟子のエルフレア様といえば、『天才魔法士』の異名持ちでしたよね」
「そのとおり!信じられないなら、師匠との思出話を披露しましょう!」
――アリスは確かにあのエルフレアのようだった。思出話は懐かしいものばかり。
それを聞かされているエイドリアンはキラキラと少年のような目をして、そして他の者達も観劇を見ている客のようになっていた。私は私が思っていた以上に、今の世界では尊敬されていた。私の過去の出来事は今では伝説の一部なのだ。聞き終わった皆の満足そうな顔がそれを証明していた。
今日、私がその伝説のルーカスであることを表にしてしまった。アリス曰く、私は間違いなくルーカスであり、その魂の匂いでわかるのだという。匂いって何だろうか。
とにかく、賢者の秘宝の秘密をこの世界の誰にも知られてはならないということ。もはや「エマ」だからという言葉で逃げられないわけだ。
賢者の秘宝を探して回収する。伝説を汚してはならない。
まず一つ目、「賢者の写本」は消し去った。残りは九つ。
だが、大丈夫だ。賢者の秘宝館はそう簡単に攻略できるようなダンジョンではない。焦らず、一つずつ回収するのだ。
そう。大丈夫……そのはずなのだ。
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ご覧いただきありがとうございました。第二章はここまでです。
今後もお休みの日に更新ができるようにしたいと思っていますが、
もう少し余裕があれば随時更新すると思います。。
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