14-2 賢者の一番弟子
「そうしたら、緑壇聖域に向かうんですよね」
「うむ」
「じゃあ、どこから転移します?」
「それは…無理だろう」
転移は、あらかじめ接続しておいた二つの転移門を使うか、あるいは、一度でも立ち寄ったことのある場所であれば魔法式をくみ上げて転移できる。
これだけ大きな街であれば、ギルドや銀行なんかに転移門があってもおかしくないが、それを使わせてもらえるような関係にはない。昔とは違う。現状、私たちに「転移」は使えないと思った方がいい。
「そういえばそうでした」
「馬車がある」
「……懐かしい、ミリーちゃんですね」
と、同じく師匠に召喚されたのであろうジャックにも目を向けた。相変わらず二人ともニーグレトの仮面をつけたままだ。
先ほどの本屋の店主には特段のリアクションはなかったわけだけれど、それが不自然と思うほどに怪しい格好の二人だ。
「そういえば、ジャックも久しぶり」
意図的に無視をしていたが、ようやく彼にあいさつをしてあげるとイラついた視線が返ってきた。
「死んでも相も変わらずでいらっしゃるようで、安心しましたよ」
「そちらももう何百年も経ったんだし、いい加減師匠に関わらなくてもいいんじゃないかなぁ」
「……チッ」
「召喚したのは私で、数百年ぶりにもかかわらず彼はそれに応えてくれたのだ。そう絡むな」
「はーい…」
街の大きな騒乱は収まりつつあり、街の外を囲んでいた軍は消え、おそらく、次に事態を収拾に来る軍隊があるとしても相応に時間がかかる。当面の間はニーグレトや街の人々が自身で街を治めておくしかないと思う。
その仮初めの落ち着きを取り戻した道を、街の出口に向かって歩いていた。
「そういえば、この国はアルバーナー王国というのだったな」
「アルバーナーって、やっぱりあいつに関わりあるんでしょうか?その辺の書籍は読み損ねました」
ニックス・アルバーナー。弟子の一人で、当時最強の剣士と言われ、師匠や私と共に冒険していた男。
弟子のみんなは師匠がいなくなってばらばらになった。その当時の私は、転生魔法の研究に没頭していて社会とのつながりが希薄だったため、ニックスがそのあとどういうふうに生きて、そして今、彼の名前を冠した王国にいたる経緯は知らない。
「先ほど貴族の格好をした彼そっくりの男と会った。どうやら、その辺の貴族ではなく王族だったということだろう」
「……えっと?つまりどういうことです?」
「この国の王子が街の問題に首を突っ込みにやってきていた、ということだ」
師匠の説明では、騎士二人とどこぞの令嬢を連れた貴族らしき金髪の男とさっき鉢合わせたということ。そして、その見た目はニックスにそっくりで、腰に下げていた剣は彼のものだったと。
「それって魔法剣の?」
「ああ。それにニックスと同じ剣の才気を感じた」
「…一人で軍を相手にできそうです」
「事情を把握している風で現れ、貴族の格好をしたニックス縁者らしき者。そして、この国名から考えれば…そういうことなのだろう」
「さらに性格までニックスに似ているんじゃないですか?」
「たぶんそうだな」
笑みが自然とこぼれた。
こんなところで、かつての仲間の子孫に出会うことがあるとは思いもしなかった。
「まさか国を興しているとは思わなかった」
仮面越しでも私には分かった。そうぽつりと漏らす師匠もまた笑顔になっていた。
……街の大通りを歩き、外に出ることができる門が見えてきていた。
「――やっと見つけたわ!」
その声に振り返ると、そこには男爵邸で私の救出に来ていた大男のニトがいた。グループの仮面は外していて、どうやらすべての企ては終わったらしい。
「外の軍隊が消えたようだけど、あなた達がやったの…?」
「いかにも」
「……あたしの勘は正しかったわけね。それでこの街を発つところかしら」
「その通りだ」
「――君たち!」
さらに、別の方からも声がかけられた。そこには、なるほど、ニックスそっくりの男が駆け寄ってくるのが見えた。
似ているというより、本人が復活したんじゃないかっていうぐらい。
「あら……」
「……君は……」
意図せず、どうやら革命のリーダーと、この国の君主に近い男を引き合わせてしまったらしい。そう思った。ただ、一触即発というのではなく、お互いに何となく察している、そんな感じがした。
しばらく大通りの喧噪の中で沈黙があって、まずニトから話始めた。
「エマはもう出ていくのだろうけれど、一度お礼がしたいのよ。もう少しだけ付き合ってもらえないかしら。それからそちらのイケメンさんと綺麗なお嬢さんのご一行も、よければどうかしら?」
師匠は他のみんながその答えを待っている間しばらく唸って、それから頷いた。
……その場所は、ニーグレトの拠点の一つでもあるこの街一番の高級レストランだった。貴族や上級商人が使うような店で、その奥にはVIPルームもあり、そこの円卓に案内されていた。
円卓の向かい側には、金髪碧眼の男が白い軍服に身を包んでそこに座っている。それから、その左隣には白銀に赤い瞳が印象的な美女が座り、後ろに騎士らしき二人が立っていた。
一方、ニトとカール、それから師匠と私は円卓に座り、ジャックは後ろに立っていた。
「改めて、私はエイドリアン・アルバーナー。そして、こちらが」
「ソフィア・ロートロアと申します。お見知りおきを」
貴族令嬢の割に存在感が強い。エイドリアンとも互角にやり合えそうなぐらい。
ソフィアは女性物の乗馬服を身に纏い、腰にレイピアを装備していた。
「どこかで見たことがあるとは思ったけれど、王子様だったのね…。こっちは粗暴な冒険者稼業だからお貴族様にあわせたマナーは期待しないでほしいのだけど」
「もちろん、普段通りで構わない」
「それはどうも。で、あたしはニト。それからこっちが相方のカールよ」
「エマだ。隣が弟子のアリスと、後ろに控えているのがジャック」
そう言いながら、師匠はニーグレトの仮面を外した。
びくりとエイドリアンたちの肩が揺れるのが分かった。ダークエルフの師匠の顔は珍しいし、そこから溢れる人外の存在感は私でもびっくりするほどだから無理もない。
「……ニト殿はどういう経緯でこれほどの援助を得られたのか」
「あたしもそう思う。女神様のご加護かしら。あたし、こう見えて信心深く教会に献金しているし。ふふふ」
「殿下は、なぜこのタイミングでこの街に?」
カールが円卓の上で両手を合わせるようにして、その先に二人の貴族を見据えていた。
エイドリアンは一度ソフィアを見て、それから向き直る。
「二人は冒険者をしているのだったか?」
「ええ。そうよ」
「では、聞いているかもしれないが。エルダー聖域が攻略され『賢者の写本』がこの街に至った可能性があったからだ」
あれ?そっちが理由?内乱の件で来たのかと思っていたよ。
「ええ。聞いているわ。聖印の虎がやったんですってね」
「この目で真実を確認しに来たのだ」
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