14-1 賢者の一番弟子
今後、土日祝日のどこかで更新できるようにしたいと思います。
そう、私、アリス・エルフレアは大賢者ルーカス・ゴールドの一番弟子だ。
黒竜を封印するために師匠は人柱となった。それを見届けた私はその当時の生涯をかけて一つの魔法を完成させて実行していた。
それは転生魔法。
師匠が使った人柱結界の効果は、300年ほどで効果切れを起こすと当時計算できていた。だから、その時代に生まれ変わることができれば、再び師匠の下に行けると考えた。
黒竜復活の大変な時代になっているかも知れなかったけど。そういえば、ここに師匠がいるとして黒竜はどうなったんだろう…?
とにかくも使った転生魔法はきちんと機能した。ただ、残念ながら生まれる親を選ぶことはできなかった。結果どうなったのか、それはちょっと前の出来事の通り。住んでいた村を焼かれ、誘拐されて、ガイウスの邸に奴隷として連れていかれていたのだった。
ラッキーだったのは、誘拐された後になって私の過去の記憶と魔力が安定し始め、自力で脱出できる程度のことまではできるようになっていたこと。そして何より、師匠が私の救出チームにいたということ。
そう、私と師匠は運命の赤い糸でつながっているのだと確信できた。
「――ということで、私と師匠は結婚すべきなんですよ!」
「いったいどういうロジックでそうなるのだ…」
「今話した通りですよ!」
「それにしても転生魔法とは。相変わらず魔法に関してアリスの右に出るものはいないな」
「えへん!」
街を師匠とジャックの三人で中心に向かって歩く、人々の流れに逆らわずに。
「それで、どこに向かっているのですか?」
「中央広場の奥に古本を扱う店があるはずだからそこに向かっている」
「ガイウス処刑を見に行くわけじゃなかったんですね」
「あんなものを見に行っても仕方あるまい」
ま、そうですよね。
師匠はたぶんあまり人に興味がない。生き死にに対しては特に人より感受性が低いように感じていた。どうして賢者になったのか、そして、なぜ冒険者をしていたのか。当時からよくわかっていなかった。
一つだけ。神通力を使えるのは師匠だけだということ。それだけ知っていた。そして、その神通力の組み上げ方が天才的だったということも。私にはそれだけで十分。
さて、中央広場を通らないように脇道にそれて進み、それから奥にあった古本屋に到着した。
「……ああ。着いたな」
本屋は少し古びていた。木の看板が戸口の上の方に取り付けられていて、そこにはただ「古書店」とだけあった。固有名称はないのかな。
カランカランと入口の扉を開くと、付けられていた鈴が鳴った。店の中には本棚が壁と、部屋一杯に並んでいて、本棚には様々な本の背表紙が並んで見えていた。
奥の方から誰かがのっそり出てくるのが見える。
「いらっしゃい」
店員らしきその男は白髪頭で少し腰が曲がっていた。細い目が静かにこちらを見つめ、しかし、すぐに奥に引っ込んでいった。
師匠はさっと見回し、そして一つの本棚に迷わず近寄って行った。いくつか手に取り、中身をパラパラとめくっては元に戻す。それを繰り返していた。
確か、師匠は『神眼写本』という神通力が使えた。一度見知ったものや事柄を保存、いつでも読み返せるのだとか便利な神通力だ。
…写本といえば…この街の近くにあるダンジョンには「賢者の写本」、師匠の形見が保存されていると聞いたことがあったっけ。賢者の秘宝館とか。なんで師匠の私物がダンジョンの秘宝になったんだろう?
一通り本を開いては閉じるを繰り返していた。私もそれに倣っていろんな本に目を通した。
それから、店員が様子を見に来たところで数冊の本を師匠は小脇に抱えた。
「これらを買いたい」
「……三冊で1500カッパーだよ」
「ではこれで」
そう言って小銀貨1枚と大銅貨5枚を出した。
たぶん、何も買わないのは良心の呵責があったんだろうな。
「まいどどうも」
店員は本を紐で縛って持ち運びしやすくすると、師匠に手渡した。
「――目当ての本は手に入りましたか?」
「『神眼写本』で他の歴史書も写せたからな。大体把握できた」
「何が知りたかったんです?」
「……私が封印されてから現在までの歴史だ」
黒竜を師匠が人柱封印で封じたのが300年前。その後、小さな戦争と大きな戦争が複数あって、大体150から100年前ぐらいに大崩壊という事象があったらしいことは私も知っている。
たぶん、あの本屋に出ている情報ではその程度までだろうけど。
そして、大崩壊については…言い伝え程度しか残っていないため、何があったか誰も詳しく知らない。私も知らない。
ダンジョンから大量の魔物が溢れるスタンピードが同時多発に起こったとか、病気の蔓延とか。他には、新型兵器の暴走や魔王の誕生と終焉などなど。大崩壊のことは色々な説があるみたい。
ただ、共通するのは、この大崩壊により多くの人命と資産が失われ、経済と文明が大きく衰退したということ。だから、たぶん師匠と一緒にいた頃と比べて現在の文化水準はそんなに変わっていない。
ふと、師匠の手元の三冊に目を落とした。
一番外側の本の表紙が見えた。そこには「賢者の秘宝館の秘密」とあった。
「ふざけるなよ……誰だ。こんな嫌がらせを……」
「え?何か仰いましたか?」
「いや……ん……」
街の中心に着いた。
その円形の大きな広場には、今、子供達の声は聞こえない。普段であればきっと賑わっている。でも、今は静か。そして、代わりに簡易の絞首台が設置され、そこに今もガイウスの亡骸が宙ぶらりんに吊るされていた。昼の太陽に照らされ、ハエがたかっていた。
「きもいおっさんだったけど。ちょっと哀れですね」
「そうだな」
「それで、師匠これからどうしますか?あ、私はどこまでもついていきますから」
「……賢者の秘宝館を回る」
「賢者の秘宝……この辺だと、『エルダー聖域』がありますよね。『賢者の写本』でしたっけ」
「それはもう破壊した」
「……あー」
賢者の秘宝は賢者のかつての所有物のこと。つまり、師匠は自分の持ち物を回収しようというわけだ。たぶん、さっき歴史を調べていた本当の目的は、賢者の秘宝館に関する情報を集めていたんだろう。
「そしたら…次に近いのは『緑壇聖域』ですね」
「ちょっと待て」
そういうと、紐で縛られていた本を開き、地図の書かれたページを眺めた。
「ここはアルバーナー王国で、ここをまっすぐ行ったところのジャングルの奥ですよ」
地図に横から指を差し入れた。
「…転生してあまり情報に触れる機会もなかっただろうに、よく知っているな、アリス」
「誘拐されてからでしたけど私も魔法が多少使えるようになって、それに合わせて頭もすっきりしたんですよ。さっき師匠が本屋で回っている時に一緒に情報集めてました」
「そうか」
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