13-2 賢者の写本
王城には各領地の所定の場所につながる転移門がいくつか設置されていた。
そのうちの一つは、今回のリーバイト侯爵領の内、ガイウス男爵が治めている街のギルドに繋がるものもある。まさに今事態が動いている街にすぐさま行ける。問題は稼働に多量の魔力を要し、転移する物量と距離に比例してその魔力が指数関数的に増大する点で、早々使えないということ。
しかし、迅速な調整のおかげで魔塔の魔法使いを招集でき、転移門の稼働に明朝こぎつけることができた。ゼノアの目の下にクマができていたので今度ボーナスを考えないといけないだろう。
「――ちょっと待ってください!本気ですか?!」
「ああ。隣街への転移では間に合わない可能性がある」
「内乱の発生している街に直接転移するなんて聞いてませんよ!」
「ゼノア?殿下のわがままは今に始まったことではないでしょう?」
「いやいや、ソフィア様も止めてください…てか、なぜあなたも行く気満々なんですか?!」
ばっちり外行きに着替えて隣に立っていた婚約者のソフィアは、ゼノアの突込みにただ微笑みで返していた。
「王子としてではなく、一個人としていくから大丈夫だ」
「余計だめでしょ!」
「よし、始めてくれ」
「え、いや待っ――」
ゼノアの制止を無視した魔法使いたちが魔力を供給してくれて、転移門が稼働したので私とソフィア、そして護衛の騎士二人で転移門をくぐった。
街のギルド会館、その奥に設置されていた転移門のある部屋にあっという間に到着した。
「まずはギルド長に挨拶といこうか。それから、聖印の虎の聞き取りをした職員を探してほしい」
騎士の一人が頷き、先にこの部屋を出て行った。
「それで、何から始めましょう?」
ソフィアの問いに答える。
「確認すべきことは山積みだが、まずは発端となったギルドを直に確認したい。聞き取りをした職員の顔を見て話をすれば見えてくるものがあるはずだ」
「報告書の内容確認ですね。でも、その前にギルバートが攻めてくるかもしれませんわ。それにガイウスのつるし上げはもうすぐ始まるのでは?」
「街を攻める軍の配置にはまだ時間がかかると報告書には書かれていた。おそらく、早くても昼頃までは動かない。ガイウスの件は…民に反乱をされるような首長をかばう必要はない」
と、騎士が帰ってきた。
「ギルド長はいませんでした。昨夜から行方が分からないとのことです」
「…逃げたか、消されたか」
「それから冒険者の聞き取りをした職員について確認ができ、彼らを別室に集めています――」
――職員の話を聞くことができた。
「新たな情報はなかったが」
報告書作成に関与した職員ほど、その内容に自信がある風だったというのは興味深かった。精神干渉の魔法を視野に入れた方が良いかもしれない。
もし禁術の類が使われていたとしても確認は出来ない。あとは聖印の虎から話を聞くしかないか。
彼等には追って「使い」を出すとしよう。
「次はどうされますか?もうあまり時間はなさそうです」
「殿下、ギルバートによる攻撃までには帰りませんと。それに、転移門にチャージされた魔力も時間経過で失われます」
「ん?いや、まだ帰らないぞ?」
騎士二人がびっくりして固まっていた。
「何ら落ち度のない民をくだらない理由で攻めさせるわけにはいかない。ギルバートは私が止める」
「やはりそうですよね」
「ソフィア様まで!何を仰っているのですか?!ここには王子としてではなく、お忍びで来られているのですよ?!」
「そうとも、個人的に奴を止める」
「また御自ら剣を振るうおつもりですか?!」
ソフィアは返事のように笑顔を向けてきていた。
さあ、正義を執行しようか。
左腰に下げていた剣を左手で確かめるように握った。そのまま、ギルドから外に出た。
周辺を軍に囲まれた状況にあったが、おそらく首長が誘拐されたことで混乱して街の機能は停止しているようだった。街の治安を維持するはずの兵がいない。そして、喧噪が街の中央広場に向けて広がっていた。
「ガイウスは」
「中央広場にいるのかもしれないな」
こくんとソフィアが頷いた。
騎士二人も我に返ったのか、後からついてきてくれた。もはや私を止めることは諦めたらしい。
中央広場に向かうと、街の人々の前でその悪事を暴露され、ニーグレトと思しき者達につるし上げられたガイウスの哀れな姿がそこにあった。
「――待て!待ってくれ!」
「そう言って慈悲を乞うた者にお前は何をしてきた?!」
私刑は許されざる行為だろう。このままいけば街の人々は罪を犯すことになる。
だが、ここまで放置したのもまた法治国家であるはずの国の所業。機能不全の中にあって、街の人々にだけ国の理想を押し付けることは……。
「止めますか?」
「今の私はその立場にない。リーバイト侯爵の軍がいれば、彼らを止めて正式な裁判にかけ処刑という流れだろうが、残念ながら彼らはここにいない」
「まだこの街が軍に包囲されていることは皆さま気付いていらっしゃらないのですね」
幸いにも、街の混乱はガイウスへの恨みが収束してくれていた。人々がパニックにはならずに済んでいる。
「ここはこのままに、街の外に出るぞ」
「本当にやるんですね……」
街の外に向かうように四人で走り、中央広場に向かう人だかりとは逆に向かう。
街の門が見えてきた。
ん?……子供、か?
私たちと同じ方向に向けて歩いている小さな背中が二つ見えた。人々はそれを自然と避けていた。
その二人の子供ような姿の周囲には、ぽっかりと誰もいない空間があって、二人はとことこと門に向かって歩いている。そんな不自然な光景だった。
その二人に追いついた。
「君たち、危ないから街の外に出てはいけない」
顔だけこちらに振り返ったそこには仮面が。それは、大広間のニーグレトと思しき者達が付けていた仮面と同じものだった。一人は黒いローブを身にまとい、もう一人の格好は、東方にあるという島国の間者の格好、確か、忍者と呼ばれる者の格好だった。
東方に関する文献で見たことがあったが、実物は初めて見た。
「ずいぶんと奇抜な恰好…」
思わず口をついて出たというように、ソフィアは彼らを見てつぶやいていた。
「……チッ」
忍者のような少年から少し睨まれた。
「失礼しました」
「……ふむ。やはりうまくいかないか」
「何の話?」
「いや。こちらの話だ。気にしなくていい」
黒いローブの方からは少女の声がした。
なんだ?なんか……私が言うべきではないのは承知だが。
「ずいぶんと癖が強い」
「……チッ」
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