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賢者の叡智なコレクション  作者: 永頼水ロキ
第一章 賢者の妙薬
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1-3 プロローグ

「宝物を?」

「そうとも。貴殿らは冒険者でそれを求めてここに来たのだろう?」

「え……そういうことも理解しているのか」


 とはいえ分かっていないことも多いが。

 四人の冒険者をこの場に残したのはもう一つ、情報を得るためだった。


「知る範囲では世界にはダンジョンが存在し、そのダンジョンに眠る宝物を目指して入ることを生業とした冒険者がいるということ。あ、そうだな、ここは何というダンジョンなのだろうか?」

「えっと、『エルダー聖域』です」


 エルダー聖域?聞かぬ名だな。

 賢者のライフワークとしてダンジョン研究をしてきていたエマだったが初めて聞く名だった。


「ここのボスだったのにそれを聞くのかよ」

「私はもはやボスではない。ああ、そうだった。私はエマという。貴殿らは?」

「やっぱり『ネームド』かよ……俺はリックだ」

「私はマリーといいます」


 リックと名乗ったのは隠士とみられた男。また、紅一点の魔法使いはマリー。


「キッドだ」

「私はリーダーのミカエルという」


 弓使いのキッドは後衛だろう。そして、剣と盾を使う前衛のミカエルがリーダー……というパーティか。


「四人パーティか」

「ああ。『聖印の虎』と名乗っている」

「なるほど。うむ、ああ、すまない。時間を取らせたな。さあ、宝物のところに行こう」

「……親切なモンスターだな」


 四人はエマの後ろを少し距離を取ってついてきた。


 ……宝物エリアに入ると、そこには宝箱が真ん中に鎮座していた。少し高くなった岩の上に豪華な装飾のついた宝箱があった。


 ダンジョンの研究はずっとしていたがやはり不明点が多い。


「ふむ」


 相変わらずどういう原理でここに宝物があるのか。しかもご丁寧に宝箱に入った状態で。

 ダンジョンというのは摩訶不思議である。


 エルダー聖域、といったか。ここの宝物はどういった類のものだろう?


 ダンジョンにはそれぞれの性質によって産出するアイテムが異なる。多くはとても便利な物で、ダンジョン毎に産出品に癖があるイメージだった。


 ダンジョン研究家であったエマとしては、彼ら聖印の虎に宝物を渡すことにためらいはなかったが、好奇心から先に宝箱に手が伸びていた。


 黒竜と共に封印された時、こんなダンジョンは近くにはなかった。誰か弟子が移動でもしたのか、それとも後から生まれたダンジョンに取り込まれたのか。そもそもダンジョン産出品の出現理由や経緯も分かっていない。


 エマは宝箱を開けた。紫色のベルベットの上に、一つ両手大の本が見えた。紐で綴じられ、薄茶色に紋様が表紙に描かれ――


「んん?!」


 ばたん!とエマは宝箱を勢いよく閉じた。


 なぜここにこれがある?!


 閉じたまま、不思議そうな面持ちの四人を背にエマは汗をぬぐった。

 片手は常に宝箱を閉じたままだ。


「なぜ私の――」

「え?」

「ど、どうされた?」

「いや!その――」


 その本はエマ、いや、賢者ルーカスのコレクションの一つ。

 その本を詳しく説明することは名誉に関わるわけだが――当時の有名娼婦が自らの裸体を画集としてまとめたもので、しかも彼女自身のサイン入り(ルーカスさんへというハートマークつき)という、あれな本だった。


 駄目だ!口に出せない!

 嘘がつけないので下手なことはいえない。


「――やはりこれは渡せない!」

「そうなのですか?」


 マリーが怪訝な顔で覗きこもうと動いたので少しのけぞった。顔が熱い。


「なぜ急に――」

「ぐっ」


 エマは堪えて思い出に蓋をすると宝箱を押さえる手の平に大量の魔力を集め、破壊系最強の神通力を組み上げた。


『虚空』

 範囲内の存在に反作用する存在を相応量適切にぶつけ、そこにあった存在を完全に消滅させる。それを宝箱だけに展開して使った。

 闇が手の平の先に現れ、同時に宝箱ごとエルダー聖域の秘宝、賢者ルーカスの叡智なる本は消え去った。


「ああ!」

「な、なに?!」

「消えた……?」


 ……なぜ。いや、それより嫌な予感が。

 人柱封印を発動したときのことが脳裏に浮かんだ。あの時、ルーカスは弟子達に最後の言葉を送る余裕はなかった。準備もしていなかったのだ。


「ま、まさか。まさかだが……」


 エマは四人に向き直った。その顔には焦りの色が隠せず、ただならぬ雰囲気に四人は今にも逃げ出しそうになっていた。


「つかぬことを聞くが」

「な、何だ」

「ここエルダー聖域について……賢者が関係しているなどの逸話とかあったりするのか?」

「え?ああ、このダンジョンは最難関のクラスで、賢者の秘宝である『賢者の写本』を納めたダンジョンと言われているが……それがどうかしたのか?」

「賢者の写本?!」

「ここのボスだったのに知らなかったのかよ……」

「そ、それで。まさかとは思うが、他に似たようなダンジョンなんて無い、な?」

「え?いや、いくつか確認されているぞ」


 いくつかある……?


「えっと。全部で十個ある最難関ダンジョンが『賢者の秘宝館』と呼ばれていますね」

「ひ、秘宝館?!」


 顔が熱い!ちょっとまってくれ!


「今のところ踏破されたダンジョンはなかったはずだけど」


 ほっと胸を撫で下ろした。しかしすぐに冷や汗が出てくる。


 いやいやいや。何が秘宝館?!どういうことだ。弟子達による新手の嫌がらせ?そんなに嫌われてたのか、私は?!


「そ、それでその十のダンジョンの場所は?」

「世界地図に、あ、ここにあるぞ」


 そう言うと、キッドがアイテムボックスから地図を取り出した。

 そこにはざっくりとした大陸の形に大まかな街の位置と、そしてダンジョンの場所が記されていた。


 大陸の形が少し記憶と異なっている。そのダンジョンは……このマークが秘宝館か。いや、秘宝館って……!


 ぐぐぐっと変な力がお腹のあたりに感じられたが我慢した。エマは地図を頭に入れると、四人に向き直る。


「ふう。うむ、先程は取り乱してすまなかった。ここの秘宝については消滅したが、私から代わりの物を与えよう。それでもって納得してほしい」


 そう言うと、彼らの答えを待たずにそれぞれの武器を掠め取った。そして、それらを空中に浮かべてエマの前で静止させた。


「な!なにを?!」


『神製』

 彼らの武器に神通力を行き渡らせて作り替える。戦士の剣、小太刀の刃を研ぎ澄ます。それから、弓と杖には魔法式を付与した。効率的な力の伝搬をできるように。


「さあ、これを」


 エマはそう言うと四人の武器を返した。


「これ……」

「なんだ、これ。空間ごと切り裂いている……?」

「軽い……羽のようだ」

「す、すごい」


 よ、よし。これでいいとして。とにかく、全ての私のコレクションを回収、破壊しなければ!一刻も早く!誰も踏破せぬうちに!


 ついでにこんなことをした犯人を突き止めて、しっかりとお灸を据えなければならない。そう、エマは誓って両手を握った。

*****

ご覧いただきありがとうございました。

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