12-2 ニーグレトの作戦
――全速力で街中を走り抜けていた。
「男爵のところに捕らえられている子供は九才の少女のようだ!」
「そう!それは早く救わないといけないわね!」
嵐のような一団は街の横の道を進み、邸を視界にとらえる。いろいろな人が私達の姿を見て叫び声をあげたりしていたが、気にせず突き進んでいる。
ガイウスの住む邸が見えてきた。
邸は大きく、その周りを鉄柵が囲っていて二ヶ所正門と裏門がある。両方とも門番が見えた。
一気呵成に作戦を進めること。
正門や裏門に回るのではなく、このまま真正面の鉄柵をぶち破る。突き進む一団の先頭をいく私は両手で斧を振り上げ、かつぎ、そのまま直進した。
ドレスが翻った。ドンっと足で地面を蹴って体ごと斧で鉄柵を吹き飛ばす。
その場の近くにいた兵士が驚きつつも、すぐさま襲いかかった。だが、混乱する現場は統制がとれておらず、仲間達の一撃に次々倒された。
「すぐに邸の内部に乗り込むわよ!」
「男爵を逃すわけには行かない!二手に分かれよう!」
「分かったわ!」
名前を呼んでそれぞれ指示したわけではなかったが、うまく半分ずつに分かれた。エマ達は右側の屋敷壁面に見えていた扉の中に突入していった。それから私たちの残りの半分は裏に回るように、側道を走り始めた。
邸と鉄柵、その間を抜けていく。集まってくる兵士を片付けつつ走り抜ける。
邸の角を曲がった。すると、視界のすみにドレス姿の少女が邸の窓から鉄柵に向けて走っている姿と、奥の方にはガイウスとその部下達、衛兵達の姿が確認できた。
あの子……あの子が誘拐されていた子供ね!ここまで自力で逃げ出せたの?!
少女は奥を見ながら必死に鉄柵に向けて走っているところだった。それをめがけて大きく飛び、少女とガイウスの間に割って入るように飛び込んだ。
ドオン!と音を立て土埃が舞い散り、少女は尻餅をついていた。
「――頑張ったのね、おちびちゃん。もう大丈夫よ!」
「誰?!」
後ろを振り返り、仲間の一人に目配せした。
「正義の味方よ!さあ皆!その子を!」
「おうよ!」
少女に素早く一人が近づき抱き上げると、すぐに防衛するよう仲間達と共に前面に出た。私が頭一つ前に出た形で陣形を組んだ。
「さてさてガイウス男爵?決着をつけましょうか!」
思ったより兵士が少ない!少女も確保できた!こんなチャンス……今しかないわ!
「くそ!なぜここに盗賊どもが!」
一瞬のうちにガイウス達との距離を詰めた。
まるで世界をおいていったように。視界が追いつかないほどの速さで。
さあ、やりましょうか!
斧をふるい、魔術師を含めて何人かを吹き飛ばし、その勢いのまま回転して、さらに追撃の斧を振るう。まるで踊るように、ガイウスの周りの兵士を一気に葬っていく。
「ひぃ!!」
ガイウスは飛び散った大量の血を浴びた。まるで彼自身が大怪我をしたように。そのガイウスが、目の前、私の足元で腰を抜かしていた。
ドドっという音がガイウスの両隣から聞こえた。仲間の放った二つの矢が、傍らの衛兵二人の胸にそれぞれ突き刺さる音だった。そして、ガイウス以外にその場に生きている者はいなくなった。
「ふう。両方確保できた!完璧ね!あとはこの男を縛り上げて――」
「アルファ!」
と呼ばれたので振り返った。見れば、カールが少女の首元を指差していた。そこには首輪が見える。
少女は貴族の子供が着るような豪奢な服を着ていた。そこに首輪は似つかわしくはなく、そして、その首輪のことを知っていた。
「こんな子供に『見えない鎖』を……相変わらずひどいことをするのね」
「そ、そうだ!私に手を出してみろ!その鍵は二度と手に入らないぞ!鎖の場所もわかりはしない!」
後ろを振り返れば、ガイウスがそう必死に吠えていた。
ダンジョン産出品の「見えない鎖」は、首輪、その鍵とちぎれた鎖のセットをさす。レア度はコモンだが通常一般に流通しない禁止品。首輪は鎖から一定距離離れると自動で締まり、装着者の首を締めあげて殺す。これを外すにはセットの鍵が必要になり、その鍵を手に入れないと、少女を連れてこの場を離れられないということになる。
「くそ!もたもたしていると街の衛兵が集まってくるぞ!」
「どうしようもねえよ!このままこの子を連れてここを出たら、いずれ首が締まっちまう!」
「……大丈夫です」
「え?」
少女は私たちを見上げていた。その声は幼いその顔に似つかわしくないほど落ち着いた声だった。
「この首輪はもう機能していません」
「どういうこと?」
「とにかく、この首輪はもう大丈夫なのですぐに逃げましょう!」
幼い少女は状況を把握しているように見えた。そんなことがあるのか……?
「さあ!」
「アルファ、決めてください!」
「……く……分かったわ、それじゃあ――」
「ずいぶんと派手に暴れたようだな。子供も無事か。それで、そこの男がガイウスかね?」
私が決断を下そうとしたその時、邸の扉が開き、中からエマ達が現れた。
彼女の問いに私が答えるより先に、目の前の少女が大声を上げる。
「変な仮面をつけてても私には分かりますよ!師匠ーーー!私ですーーー!計算通りですーーー!」
隣の少女がブンブンと両腕を大きく振っていた。
「……誰だ?」
エマはその少女に心当たりがないのか、首を傾げつつこちらに近づいてきた。
「君の師匠になった覚えはないのだが」
「えーーー。私には師匠のことがすぐに分かったのに、ひどいですよー。もういいです!師匠が気付くまで名乗りません!」
「ええ…」
困惑するエマに、ジャックが耳打ちした。
「…分かった。その少女のことはとりあえず置いておこう、急を要する事態のようだ」
「えー!?置いておかないで!?」
「街の衛兵がもうそこまで来ているらしい。できれば何も知らない衛兵達の被害は最小限にしたい。戦闘を避け、すぐにこの場を去るべきだ」
エマは少女を無視して、私の側に来た。
「見たところその子の『見えない鎖』は壊れている。鎖や鍵を探さずに連れ出しても当面は問題ないだろう。あとからこの男を尋問して鍵を入手して外せばよい。まずは計画通り速やかな退却だ」
「分かったわ」
少しの想定外はあったものの、ガイウスと誘拐されていた子供両方の確保ができている。この場にとどまる意味はない。
合図を出すと皆頷き、一斉に邸の庭を飛び出した。
先ほどと同じように、誰もついてこられないだろう速度で移動し、街に隣接する森に逃げ込んだのだった。
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