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賢者の叡智なコレクション  作者: 永頼水ロキ
第二章 賢者の写本
26/85

12-1 ニーグレトの作戦

できる時に更新しているため投稿は不定期です。よろしくお願いします。

「ダークエルフ、なの?」


 エマは小さく首を振った。


「いや。見た目はそうだが、私がダークエルフなのか、それはわからない」

「そう、ずいぶんと複雑な出生なのね。うん、これ以上は聞かないことにするわ」


 仮面を外した瞬間、エマの存在感が跳ね上がるのを感じた。

 いくつもの修羅場を超えてきた私の心臓が警告し続けていた。決して敵対してはいけない、と。


「でもあたし達を探して、それでどうするつもりだったのかしら」

「ニーグレトであれば、敵対する男爵の横暴に関する証拠や情報を持っているのではないかと考えた。そして、この横暴を止める最も自然な方法は、奴の上司である貴族、ここ一帯の領主であるリーバイト侯爵に証拠付きで突き出すことだ」

「……侯爵もグルだったら?」

「そうなのか?」

「正直、分からないの」


 リーバイト家が自分の領地を任せているガイウスの横暴を知らないとは思えなかった。それを野放しにしているのであれば、リーバイト侯爵もまた同じ穴の狢ということだ。そして、そうであるなら、さらに王国が黙認しているも同然ということになる。

 ガイウスのような貴族は大なり小なりどこにでもいる。もちろん、奴ほどの悪人は少ないが。庶民が分からないだけで、そういった存在は国や領主には必要な場合もあるのかもしれない。でも、もしもそうであるならば、ただの庶民でしかない私たちにとって絶望しかない…。


「そうであれば、私が直接侯爵も裁かなければならないな。さらにそれを国が黙認しているのであれば、国ごと裁くことになるだろう」

「……え、ちょっと待って。何を言っているの……?」


 そんなことできるわけが。


「明確な悪の証拠さえあれば良い。何かないだろうか」

「何かって。あなた――」


 その時、扉の向こうから合図があった。少しして扉が開いてニーグレトの仲間、カールが入ってきた。

 カールはエマ達を見て驚いたが、すぐに私の側まで走り寄って耳打ちしてきた。


「彼らは?」

「大丈夫よ。新しい味方。きっと頼もしいわ」

「そう、ですか。あなたが言うのであればそうなんでしょう」

「それでどうしたの?」

「誘拐された子供達に関する情報が手に入りました」


 このタイミングで?もしかしたら、女神様のお導きもあるのかもしれないわね。

 そう思いながら、エマ達を見つめていると、彼女たちも私を見つめ返していた。


「そう。分かったわ。今この場で報告してちょうだい」

「この二人の前で良いんですね」

「ええ」


 最近、盗賊団ニーグレトを騙る犯罪者集団が現れていた。この偽盗賊団は周辺の村から子供を誘拐していた。

 金のためか、私たちの信頼を貶めるためか…。


 この偽盗賊団のせいで周辺住民、皆からの信頼も減ってきていた。仕事がやりにくくなり、救える命も救えなくなった。


 兎にも角にも子供達は救い出さなければならない。偽物の行為だとしても、その責任の一端は間違いなく自分たちにあると皆感じていた。


 だからこそ、全身全霊をもって子供達を探していた。


「いくつかのバイヤーに奴隷として売られていたようで、すでに何人かの子供は救出しています」


 たとえ、自分たちの立場が危ぶまれることになったとしても子供たちは救うこと。そうメンバーに伝えていた。


「みんな無事?」

「いえ。あくまで誘拐された子供の一部でした」

「残りの人数は把握できている?」

「はい。あと三人です。皆行方は確認されたのですが……」

「どうしたの?」

「どうやら、そのうちの一人は男爵のところのようなのです」

「なんですって?!」


 すぐにでも救出せねば命はない。

 けれど、まだ時期尚早。男爵を狙えるほどにまで盗賊団は大きくなれてはいなかった。もう少し大きくなれば男爵を狙えるほどに成長できる、そう考えて我慢してきた。


 相手は貴族。倒した後も考えた戦力が必要だ。

 他の貴族の介入まで考慮して動かねば、ただの犬死をメンバーに強いることになってしまう。


「……何を悩むことがある」


 はっとしてエマを見た。真っ直ぐこちらを見上げるその視線には少しの揺らぎも無かった。


「退路を確保せず、ガイウスと対峙しろと?」

「今行かねば、恐らくその子供の命はないのだろう?」

「……その通りだけど、今無策に突っ込めばあたし達の命も一緒になくなってしまうかもしれないのよ。相手は腐っても貴族、後ろには国家がいるかもしれない。退路の確保が出来ない状況で――」

「だが、誘拐の証拠も確保できる。ガイウスの悪事の証拠だ。それに、もしも国も敵ならば、合わせて相手取ればよいだけのこと」


 ぞくぞくと背筋に寒気が走り続けていた。エマは、異常な存在感を放っていた。ギラギラとした深淵の瞳がこちらをずっと見つめてきていた。


「ニト殿。退路など考える時ではない。今こそ、なすべき時なのだ。私がいるのだから」

「ニトさん。俺達はあなたに従います。死地に行けというなら、行く覚悟はいつでもあります」


 天井を見上げ一呼吸した。ここまで言われて前を向けないなら男じゃない。


「ふう。ふふふ、分かったわ。やりましょう!」


 ――私達は教会から街の裏にあるアジトにやってきていた。再び仮面を付けたエマと終始無言のジャックを連れて。

 それからしばらく待っていると、仲間たちがカールの呼び掛けに応えてやってきてくれた。


「ついにやるんだな、ニト」

「そうね。これが一つのターニングポイントなのかもしれないわ」

「作戦は?」

「ガイウスに囚われた子供の救出のために今すぐ直接乗り込むの。そして、同時にガイウスを誘拐する」

「例の作戦か」


 エマには、万が一の可能性として国や侯爵家の黙認を話したが、恐らくガイウス男爵のしていること、してきたことは度が過ぎている。

 真実それが明らかとなり、民衆が立ち上がることがあれば、王家や侯爵家は奴を見限る。その可能性の方が高いと思う。


 そのために考えていたこの作戦は単純だ。

 誘拐したガイウス男爵を民衆たちに、やってきた事実の証拠とともに晒す。そして、民衆が彼を処断する。そうすることで、民衆に見限られるような首長を領主に見捨てさせ、さらに新しい首長をたててもらう。


「まあ、今の首長が死んでも次に来る奴もどうせ糞だとは思うけどなー」

「だろうな。けど、さすがにあの糞野郎よりかはましだろうさ」

「さあ、行きましょうか――」


 街の外にアジトを持っていた。そこからガイウスの邸は街の裏手に回り込んだ位置にあり、大通りから小道に入って向かうことになる。


 情報ではすでに子供は邸に連れられていて、その地下の牢屋にいれられているらしい。


 私は戦闘服に着替えていた。

 青いドレス。ダンジョン産出品の一つで、見た目はドレスだが防御性能はその辺の鋼の鎧を軽く凌駕する。そして、ドレスより軽く、動きやすい。

 背負う斧は装備した者に、筋力増強と迅速効果をもたらす一級品。


「随分と目立つ格好でいくのだな」

「これがあたしの最大火力を出せる装備なの」


 ウインクするとエマが仮面越しに引き攣ったのを感じた。


 今の時間は真っ昼間、誰にも会わずに到達は難しいが、追っ手や兵士に見られても構わない程の速さを出せば問題ないはず。


 これだけ目立つ誘拐犯もいないでしょうね。


 それから暁の旅団、ニーグレトのその場のメンバー全員に、盗賊団の仮面をつけさせた。そろいの仮面だ。


「あなた達の分もあるけど?」


 そう言ってニーグレトの仮面二つを渡すと二人とも受け取り、それを被った。被る時に二人ともそっぽを向いたので、結局ジャックの顔は見ることができなかった――


*****

ご覧いただきありがとうございました。

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