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賢者の叡智なコレクション  作者: 永頼水ロキ
第二章 賢者の写本
22/85

10-2 元賢者エマ

 ………馬車に揺られながら、エルダー聖域の近隣の街に向かっていた。

 走りながら馬車の中、マリー達から賢者の秘宝館やそこに封印されているという秘宝について聞くことができた。


「なるほど、どのダンジョンも難易度が異常だな」

「だから、今までどの秘宝館も攻略されたって話は聞いたことがないぜ」

「それにしてもよく私のいた最終のボスエリアまで貴殿らは辿り着けたな」


 聞いた限りでは、何れの秘宝館も攻略には奇跡を重ねなければ難しい。

 エルダー聖域も例外ではなかったようだった。一見単純そうな洞窟の階層構造だったが、実際には無数の転移系トラップを用いた迷宮となっており、真っ直ぐ進むことはできず、常に昆虫系のモンスターによる奇襲攻撃を受け続け、状態異常に繋がる攻撃や罠の連続らしい。


「ラッキーにもこいつが手に入ったんだ」


 そう言いながらアイテムボックスからキッドが小箱を取り出して見せてきた。練薬を入れるケースにみえる、背の低い円柱形の銀のケースだ。


「ダンジョン産出品で、こいつを全身に塗っておくとあらゆる状態異常から守ってくれる」

「ほう。『鬼の塗り薬』か」

「知っていたか。そう、こいつのおかげでエルダー聖域の難易度がぐっと下がったんだ」

「エルダー聖域のボスのすべてが状態異常を中心とした戦略をとってきますから、それもあって前に進むことができたんです」


 それだけではなく、この者達の実力によるところが大きい――ん?


「マスター。あそこをご確認ください」


 ミリーか。


「誰?……馬?まさか馬がしゃべったのか?」

「軍馬のミリーだ。この馬車はダンジョン産出品なのだ」

「レア度が高そうなアイテムだ……」


 馬車の外を確認するためキッドが窓を開けて前を見ていた。

 そこには車を引く馬、白馬が一頭だけいる。御者はいない。

 この馬車はダンジョン産出品、白馬がセットの馬車である。その白馬の体格は普通の馬の二倍より大きい軍馬であり、知能は人と変わらない。しゃべることもできるのだ。


 神通力の『千里眼』を使った。馬車の壁を透過してずっとその先、ミリーが見つめる方を。すると、村が燃えているのが見えた。


「村が襲われているようだな」

「村が?!」

「街に至る道の途中には確かに村があったと思いますけど、なぜ……」

「盗賊の襲撃か」

「どうされますか?」


 事情を勝手に判断してどちらかに肩入れするのはどうかとも思うが、まあ見たところ略奪しているようだから……無視して進むのはむしろ女神の意向に反するだろう。


「村の方に向かってくれ」

「助けに向かうのか?」

「ああ」

「……分かった、付き合おう」


 四人とも頷いていた。


「うむ」

「承知しました」


 ガチャンガチャン!大きな音を立てて馬車が変形する。


「お、お?!おお!すげえ!」

「戦車になった?!」


 私の合図と共に、馬車の車輪は棘を突き出し、ミリーの両脇には大きな槍が二本突き出され、そしてあっという間に戦車に姿を変えた。あらゆるものをなぎ倒し進める最強の美しきチャリオットへ。強度はダンジョン産出品らしく不壊の硬さだ。


「村に向かって突き進め。もしも略奪者が前にいたら突貫して片付けろ」

「承知しました」

「おお……エマって……いや、何でもない――」

「――村が目の前です」

「よし、ここで止まれ」

「お気をつけて……」


 村の入り口付近に待たせたミリーに見送られつつ、戦車をその場にエマ達は村に入った。


「ひどい…!」


 村の中の家々は略奪の過程でいくつも火災が発生し、路上にはすでに何人かの村人らしき死体が転がっている無残な状態になっていた。


「おら!盗賊団ニーグレトに恭順しないなら死ね!」

「や、やめてください!」


 盗賊団?


 母親らしき女性は子供を抱きながら、盗賊団を名乗る男の凶刃を前に、必死に頭を下げていた。素早く音もなしに近づき、男の後ろから眺める。


「子供を渡すんだよ!」

「堪忍してください!どうか、どうか!」

「渡さねえなら――」


 ベタな悪人だ。それにしても大声で名乗って略奪する奴は初めて見たかもしれん。


 剣を振り上げたところで、右手を男の背中にぽんと当てた。


 神通力『魂壊』

 魔法抵抗力のない生き物、その命そのものを触れた先から浸透させた神通力でもって砕き、一瞬で絶命させる。外傷を負わせることもなく、ただ命を刈り取る呪殺術。


 神通力『自動傀儡』

 触れた死体に組み上げた魔法陣による疑似人格を備えさせ、その死体を半自動的に操る死霊術。


 この二つの神通力を順番に行使した。その瞬間、男は死に、私の従順な死体奴隷と変わる。さらに、これは生前の記憶や技能を維持して操れる。


「主たる私に従え」


 盗賊団を名乗る男は目の前の親子から視線を移すように振り返り、ゆっくりと跪いた。そして、頭を深く下げる。


「はい。何なりとお申し付けください」

「お前の目的は?」

「この村の破壊、子の誘拐。それから、盗賊団ニーグレトの名で破壊を行い、いくらか村民を生かしてその名を貶めることにあります」

「盗賊団ニーグレトとやらではないのであれば、本当は何者だ?」

「わたくしはベリンガム男爵に雇われた傭兵です」

「なぜ男爵はそんなことを?」

「分かりかねます」


 盗賊と呼ばれる者達を貶めるのに略奪行為を擦り付ける?さらにはそれを一貴族が民を犠牲にしてやっている……。なぜ。


 そっと、男の頭に手をのせる。

 ただ金で雇われたこの体の主にこれ以上訊いても無駄だろうと判断した。


『神製』

 錬金による効果は激痛を伴うが肉体にも使える。精神を壊すほどの痛みだろうが死人には関係ない。男の肉体は城壁を殴って壊せる力と強度を得た。


「……では、村人を守り、村人を襲う他の傭兵を無力化しろ。殺しても構わない」

「承知しました」


 そういうとエマの死体奴隷は迅速に村の中に入っていった。


「あ、あ……」

「怪我をしているのか」

「あなたは」

「……とりあえず」


 そっと母親の足、怪我をしたところに右手をかざす。神通力による回復を施す。


「あ、ありがとうございます。魔法使い様ですか?……あ」


 後ろに視線が移った。ようやく四人がここに到着したところだった。


「早い…それに相変わらず見たことのない魔法を使う」

「まさか、禁術じゃないですよね――」

「ちょうどよい、この親子や村民を守ってやってくれ。私が順次助けていくから、戦車の近くに集めて守ってやってくれ」


 抱いていた子供を立ち上がらせ、四人に守られながら親子は走って馬車の方に向かっていった。


 さて。

 キンキンと金属音、そして男の悲鳴が村中に聞こえていた。千里眼で確認すると、エマの死体奴隷が次々に他の略奪者を屠っていた。

 しかし、さらに周囲全体を観察すると略奪者は思った以上の数がいるようだった。一体の死体奴隷だけでは完全に事態を終息させるのに時間がかかるだろう。それに…。

 後ろを振り返れば、聖印の虎が何人かの略奪者と戦闘に入っていた。


「可愛らしいお嬢ちゃん、ずいぶん変わった身なりだが、逃げなくて良いのかい?」


 下衆な笑い声を上げながら略奪者の二人が家の影から出てきた。超人化したとはいえ一人の死体奴隷だけでは捌ききれず討ち漏らしが多い。


 近づいてくる男二人に目を向ける。新しい神通力を展開することにした。


 神通力『暗鬼召喚』


「お嬢ちゃん?君は高く売れそうだあ」

「確かに」


 二人はそんなことを話ながら近付いてきて、あと数歩というところで、頭と胴が二つに分かれて転がった。ぱたり、ころころと。音もなく死ぬ。


 次の瞬間には私の足元に。小さな黒い鬼の子が跪いて上目遣いに見つめてきていた。


「ルーカス様、ずいぶんとお美しくなられたのですね」

「黒竜を封印した際の副作用だ。状況は理解しているだろう?」

「まあ、ミリーとは違いますからね。エマ様とお呼びすれば良いのでしょう?あとは村人とあの冒険者連中以外を始末すれば良いですか」

「混乱を最小限に」

「了解です。この切り裂きジャックにお任せを」


 と言うと、その声が伝わる速度と同時に、家の裏手にいた別の略奪者の首を落としていた。おそらく一分もしないうちには略奪者達は村から、いや、この世からいなくなる。

*****

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