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賢者の叡智なコレクション  作者: 永頼水ロキ
第二章 賢者の写本
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10-1 元賢者エマ

まとめて3話投稿します。相変わらずバタバタなのと、再編集で結構直すところが多く、時間がかかっています。。よろしくお願いします。

 ――時は数年前に、エマが復活した時に戻る。


 今、エルダー聖域の最奥、宝物エリアにて冒険者「聖印の虎」のメンバーに囲まれていた。


「エマ殿」

「何かな?」

「貴方のことは正直よくわからないが、人に危害を加える意図はないことは理解した。だが、我々も冒険者としてギルドに報告する必要がある」

「もう少し詳しく貴方のことを教えていただけませんか?」


 詳しい経緯を話したとして。万が一、賢者の秘宝の正体が明るみになった場合を考えると……うーむ。


 賢者としての力、「神通力」は失われていなかった。

 とすれば、私と女神との契約は継続されているとみていいだろう。契約が継続しているなら、嘘をつけず、無実の者を傷つけることができず……いわゆる、女神の定める「正義」に従わなければならない。


 つまり、へたにしゃべると私のすべてが丸裸になってしまうかもしれない、ということだ。


「……私は元ダンジョンボスで、エマという」

「……ああ、それは知っている」

「ええ、そうですね」

「……」

「……」

「…え?あの、それで?」

「ちょっと待ってくれ、嘘をつかずにうまく説明したい」

「………そうしてもらえると助かります」

「…私はもともとはただの人だったのだ」

「は?」

「人間だった?」

「ダークエルフでもなく、普通の人族だった。気が付いたらこのような姿になっていた」

「そんなことがあるのですか?」

「ダンジョンはいまだによくわからないことが多い。そういうこともあるのだろう」

「……じゃあ、ダンジョンのボスになる以前は何をしていたんだ?」

「冒険者だ」


 賢者であると同時に冒険者だった。


「冒険者としてこのダンジョンに潜っている時に何らかの理由で取り込まれたってことか」

「……」


 私がそれ以上黙っていると、キッドが小さくつぶやく。


「冒険者だったのならギルドの過去の記録を確認すればわかるか」


 だが、残念ながら私は「エマ」ではなかった。確認されて、仮に同名の冒険者がいたとしてもごまかせるだろう。一応言っておくと嘘は言っていない。()()エマなのだ。


「取り敢えず、ギルドに戻るか」


 ダンジョンは最終の宝物エリアの奥に、簡単に出口に出ることができるルートが用意されている。

 何とも「ゲーム」のような世界観だが、これが「ダンジョンの共通するルール」である。


 賢者の写本が保存されていた箱、その奥に魔法陣が見えていた。おそらくは外につながる転移門の類だろう。


 四人と私はその転移門を使って、一瞬のうちにダンジョンの出入口までやってきた。


「ところで、賢者の秘宝館という十個のダンジョンについて詳しく教えてもらえないか?」

「エマは冒険者だったのに知らないのか?」

「うむ」

「秘宝館というのは、大賢者が黒竜を封印して、それから十年ぐらいしてから突然世界中に出現したダンジョンです」

「なんだと?!」


 10年?いや、待て。


「どうした?」

「つかぬことを聞くが、今の暦は神降歴の何年だろうか?」

「神降歴?それって前の暦じゃないか。今は黒封歴313年だ」


 黒封歴?


「……そういうことか。どうやら私は300年以上の時を超えてしまったらしい」

「何?」

「私が知っている暦は神降歴までだ」

「黒竜が大賢者ゴールドによって封じられた時に暦が改められています。つまり、エマさんが冒険者として行動していたのは紀元前ということになるのでは」

「マジかよ」

「エマさんが生きていた頃の物は、残念ながらもうほとんど残っていないかと……」

「ギルドにも記録なんか残ってないだろうな」

「エマさんの故郷は?」

「故郷は人だった時にすでに行けなくなっている。ああ、気にする必要はない。過去のことだ」

「それで、エマ殿はこれからどうするんだ?」

「冒険者としてもう一度世界を回ってみようかと思っている」


 大賢者時代の私物が「秘宝」として世界中のダンジョンに納められている。一刻も早く、それらを回収せねばならない。


「……死んでも腐っても冒険者、か」

「それじゃあ、またギルドに冒険者登録するってことか」

「そうなるだろう」

「エマさん、私たちと一緒にギルドに行けば、改めての冒険者登録も簡単になるかもしれません。私たちの報告にも付き合っていただければありがたいですし、このまま一緒に行きませんか?」


 マリはそう言って笑顔を向けてくれた。


「確かに。では、同行させてもらおう」

「よかった」


 なぜ、私がダンジョンのボスになっていたのか。なぜ、私の私物が秘宝として納められているとされるダンジョンが生まれたのか。なぜ、私がダークエルフになっていたのか。それでもなお、賢者としての力が失われず、それどころかより強力になったのはなぜなのか――

 ――分からないことは多い。だが、やることは単純だ。

 

 残り九つの秘宝館というダンジョンに向かい、そこにあるという私物、コレクションを回収あるいは破壊すること。

 ついでに、こんなことをした輩がいるのであれば、探し出して問いただす。

 ダンジョン探索再開ということは、結局、昔と同じことをするだけ。まずは300年分の歴史を把握することから、か。


「お。出口が見えてきたぞ」


 ダンジョンの出入口は、洞窟の穴の両端に柱が建てられ、それらを繋ぐように大扉が設置されていた。そして、そこには門番らしき姿が数人みえた。その門番らしき人がこちらに気が付く。


「聖印の虎か。今回はどうだった?」

「……攻略した」

「は?」

「だから、このダンジョンの最終宝物エリアに到達して帰ってきた」


 その場には他にもこれから潜ろうとしている冒険者が何人かいて、その全員に大きなどよめきが走った。


「すげえ。聖印の虎がやったってよ」

「え?本当に?!」

「そ、それで賢者の写本は」

「消えた」

「は?………おいおい。どういう冗談なんだ?」

「攻略したってのは悪い冗談か」

「賢者の秘宝はこの世に一つだけ、確かめたいなら潜り続ければいい。最終エリアに至ればわかるさ。俺達は嘘つきじゃないって、な」


 冒険者達に囲まれながら、聖印の虎のメンバーが同じ問答を繰り返していた。それをわき目に、私はマリーに声をかける。


「マリー殿、街に着いてギルドの登録が済んだら古書店や図書館の場所を教えてほしい。あと、道すがら、他の賢者の秘宝館についても知っていることを教えてほしい」

「ええ。いいですよ」

「――ちょっと待て、そこの子供はなんだ」

「ダークエルフ、か?」


 いつの間にか門番二人が私を見ていた。一斉にその場の全員の視線を集めることとなった。


「ダンジョンで迷子になっていたから保護した。細かな経緯はギルドに報告する」


 うーむ。嘘はついていないが。納得は、いかないだろうな。


「迷子って何だ?!ここはエルダー聖域だぞ!冗談も大概にしろ!」

「俺たちが嘘をつく理由はないだろう」

「ギルドに報告するならまずここで説明しろ!」


 ………面倒だな。とはいえ、私が門番を黙らせるのは、女神の正義に反する、か?どうだろうか……試してみるか。


 まずは一番近くにいた門番にそっと気配を消して近づいた。それから左手に触れる。


 神通力『導きの声』

 触れて発動すれば人や動物の意識に介入し、心理、思考誘導したり、夢を見せたりできる。触れず、一定範囲の人々に効果を広く及ぼすこともできるが、その場合は効果が限定的になる。初めからであれば自身の存在を認識しにくくしたりといった使い方ができるが、勘のいい存在には気付かれるし、認識された後からでは効果が出にくい。


 触れている門番から私の存在を希薄化させてみると、ちゃんと機能した。

 つまり、これは女神の許容範囲か。


 次々と、その場にいた者たちに瞬間移動を続けながら触れて、同じように『導きの声』で思考から私の存在を、そして、聖印の虎の言葉を信じやすいように思考誘導を繰り返した。この程度であれば、嘘をついているわけでもないし、暴力の類でもないから許容されるらしい。


「――凄いじゃねえか!やったな。さすがAランクの冒険者パーティだ!」

「え?」

「聖印の虎がやったぞ!」

「糞!じゃあ、もう賢者の写本はねえのか。その代わりにすげえ武器を貰ったんだな」

「ええ?!なんでわかったんだ?!」


 うむ。ついでに聖印の虎のメンバーも誘導してこの場を片付けるか――


 ――騒がしいその場の者達の意識を『導きの声』で次々と落ち着かせ、そして、聖印の虎を引き連れてその場をあとにした――


「――は!あれ?ここは?」

「私が所有しているダンジョン産出品の馬車の中だ」

「エマさんの?」

「まじかよ。っていうか、乗ったところの記憶もないんだが、なんなんだ……?」

「それで、他の賢者の秘宝について教えてほしい」

*****

ご覧いただきありがとうございました。

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