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賢者の叡智なコレクション  作者: 永頼水ロキ
第一章 賢者の妙薬
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1-2 プロローグ

 さて次は。と、しゃがんで地面に右の手の平を開いて置く。それから、神通力を地面と周囲に大きく、瞬時に波紋のように広げていくと反射した力が戻ってきた。


『神眼写本』

 目の前の中空に羊皮紙のようなものが本の頁をめくるようにして現れた。一定範囲の情報を集めて写し出せる神通力。

 今回はこの洞窟の全体像を把握するため、浮かんだ写本は地図のようになっていた。


 うむ。ずいぶんと深い場所にいる。これは……ダンジョンか。

 地図を指でなぞる。私がいる場所は最下層、第六層の大きな空間の中だ。


 世界には存在理由は分からないが、「ダンジョン」と呼ばれるモンスターの巣窟があった。太古の文明が作り出したとも、モンスターの瘴気が作り出した自然物とも言われていた。


「知らないダンジョンか。研究したい。が、まずは外に出ることが先か」


 写本に従い、この空間の出口に向けて歩きだした。


 ……そうだな。「エマ」とでも名乗るか。

 適当に名前を決めて、それから写本に目を戻した。それぞれの階層を目で追っていく。


 モンスター、人間。うーむ。おそらくは冒険者たち。ここがダンジョンだとすると。

 背中を振り返る。その先にはダンジョンの秘宝が納められた宝物エリアらしき空間もあった。


「この空間、まるでボスエリアじゃないか?」


 立ち止まり後ろを見る。その先に閉じた扉が見えていた。前に目を向ければ別の閉じた扉。そして、ここはとても広い空間。


 ダンジョンにはボスという特に強力なモンスターが存在する。

 ボスのいる場所はダンジョン内でも特に広い空間になっていて、入るとボスを倒すか侵入者が死ぬか、あるいは『帰還玉』なんかを使って侵入者が脱出するまで閉鎖される空間だ。それはボスエリアと呼ばれる。

 ただし、今、このエリアにエマ以外の存在はいない。


 ……つまり。これはあれか?


 ギギギギギ。

 正面の巨大な扉が開き、ここに至った冒険者達が姿を現したのが見えた。


 戦士、射士、魔法士、隠士、か。ボロボロだが、レベルはとても高そうだ。


「……え?」

「あれがボスか?」

「小さい、ダークエルフ?まって、悪魔かも。上位種の……!」

「気を付けろ!見た目通りじゃない!ビンビン感じるぞ。あれは人外だ!」


 さんざんな言われようだな……。そうか、うーん。そうなのか?やっぱり。

 などと悩んでいる間に冒険者達は臨戦態勢になってしまっているのが見えた。


「あ、ちょっと待っ――」

「いくぞ!!一気に畳み掛ける!」


 いや、ちょっと……。

 確かに悪魔、魔法系のモンスターに対して「速攻」は有効な戦略だ。


 射士の放つ複数の矢、そして戦士が一気に間合いを詰め、後ろで隠士に守られながら魔法士が魔法詠唱を始めていた。


 いい連携だがちょっとまってくれ。


『神域結界』

 賢者考案の結界術の中で『賢者を人柱とした人柱結界』の次に強力なもの。それを瞬時にエマの数メートル先の半径で半球状に展開した。


 彼らの放ったあらゆる攻撃が弾かれ、矢は地面に突き刺さり、勢い付いていた戦士は体を弾かれて倒れこんだ。後から飛んできた魔法も軽く防いでいた。


 それにしても、結構強力な魔法を短時間で編み上げたな。それなりの冒険者らしい。

 エマは感心しつつその若者達を見つめた。エマにとっては初々しいその顔、それを見ると弟子達の顔が浮かんだ。


「そ、そんな……」

「く!皆はマリーを守るぞ!マリー最大火力だ!」


 戦士がそういうと、魔法士を中心に集まり、マリーと呼ばれた魔法士がすぐさま詠唱を始めた。


 ……魔力量はかなりのものだな。詠唱は……セイントサンダー。対悪魔の最強クラス。だが、残念ながら力不足だ。この結界は越えられないし、なくても効かない。


 ふと思い立ち、エマは結界を解く代わりにボスエリア全体にその結界を広げなおした。

 後ろに控えている隠士の男が、この場から逃げるためのアイテムを用意しているのが見えたから、逃げられないようにした。


 ドゴン!!


「や、やったか?」

「直撃だ!」

「……ま、待って!」


 うむ。服に破れもない。この体は……確かに人間を辞めていたらしい。

 魔法の雷は当たっていた。ただ、さっき作った法衣も強靭な肉体も貫けなかったらしい。


 あまりのことに四人は呆然とその様子を見つめるだけだった。


 ようやく話が出来そうだ。


「一つ、相談しても?」

「しゃ、しゃべった」

「上位存在……」

「くそ!逃げるぞ!『帰還玉』を使う!」


 ボン!と、隠士の男の足元に煙が噴き出した。


「え?」

「な、なぜだ!?」


 四人ともまだそこにいた。

 ……まあ、結界で逃げられないようにしたからな。


 その瞬間、彼らは死を覚悟したのだろう、呆然とエマを見つめてきた。


「まず矛をおさめよ。争うつもりはこちらにはない」

「……え?」


 四人は互いに顔を見合い相変わらず呆然とした。理解力があっても、まさかエマが元賢者とは思わないのだろう。


「タイミングが悪かっただけだ。私はここの……うーん。まあ、とにかく……貴殿らと戦う意思はない。宝物を守るつもりもない」

「え?ボスなのに?」

「ボスだとしても。それで相談なのだが」

「な、何だ……」


 エマは少し間をおいて口を開く。


「今からここに別のボスを召喚するので、私ではなくそちらをボスとして認めて貰えないか?」

「……ええ?!」


 面倒だが仕方ない。

 ダンジョン。そこにはルールがある。その一つがボスとボスエリアのルール。

 ボスが倒されるか、侵入者が死ぬかいなくなるまでボスエリアは閉鎖される。そして、ボスはボスエリアから出られない。


「私はここのボスを辞めたい」

「はあ?!」

「どういうことです?」


 エマは頭のなかで新しい術式を組み立てた。そして、その神通力に名を付ける。


『支配者転換』

 ボスはボスエリアから魔力の供給を得て特に強力な力を得ている。

 それはボスエリアの持つ魔法式に基づく。この神通力は、ボスではない別のモンスターをその魔法式に組み入れて、もともとのボスを普通のモンスターに変える。


 入れ換えるのはエマとエマが今から召喚するモンスター。供給先を切り替えさせて上書きする。


 そして、それをここにいる四人に認知してもらえれば、事実として世界に記憶させるだろう。


 まあもしかしたら、私一人の認知でも構わないのかもしれないが、承認は多いに越したことはない。


 自分を中心に魔法式が床に、そして壁一杯に広げる。そして、エマは二つの神通力を同時に行使した。


『魔像召喚』

『支配者転換』


 神通力の放つ光が薄暗い部屋一杯に広がるのが見え、天井の光る花がぐらぐら揺れていた。


 そしてそれがやむと、エマの目の前、四人との間に魔像が中空に佇んでいた。

 すでに魔像こそがこのダンジョンの主となっている……はずだ。


「……皆。この魔像が新たなるこの場のボスとなった」

「……は?」


 エマはすかさず右手を新しいボスに向けた。


『天位雷撃』

 先程マリーが放った雷の十倍は太い雷が、何本も右手から放たれて魔像の胸に収束して貫いた。魔像は一撃で絶命し、消滅する。


 と、部屋の奥で両側の扉が静かに開いた。つまり、ボスが倒されて宝物エリアが解放されたということだ。

 新しい神通力によるボスの入れ替え作業は上手くいったようだった。


「よし。ではな、今見てもらった通りだ。ここのボスは先ほどの魔像に交代したわけで、今倒されたから、ほら、あそこの出口が開いただろう?分かるかね?」


 ふと四人に目をやると、びくりと恐怖に歪んだ視線が向けられた。がたがたと震えている。


 エマは暫く考えて咳払いをしてから口を開いた。


「あー。ボスを倒した君達にはダンジョンの宝物をさしあげようじゃないか」

*****

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