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賢者の叡智なコレクション  作者: 永頼水ロキ
第一章 賢者の妙薬
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6-2 ガラスの靴

 なんで?!


 領の兵士達、彼らはこの街の守護者であり、また、領主様の直属の部下。「よろしければ」といっても、「ついてきてもらえないか」と言われれば、この不思議なものいいに嫌だとは言えない。


「おそらくは大丈夫であろう。我もついている」


 リリーがそっと側に寄ってくれた。


「……はい」


 兵士達は笑顔になると領主の邸のほうへ案内を始めてくれた。


「お嬢さん、普段はどちらに?あまり街で見かけたことがなかった」

「え、あの、裏山の麓にある薬草採取小屋に住んでいて。街に下りることがほとんどないんです」

「薬草採取小屋――」


 リーダーらしき兵士の人はそう言うと、思い当たる小屋がなかったかを思い出そうとしている風だった。


「――ところで、三年ほど前に祭りには参加したのかな?」

「三年くらい前……ええ、たぶんそのくらい前にお祭りをみたと思います」

「そうか、そのときに焼き菓子を買ったことは?」


 これって取り調べ?


「えっと、はい」

「そうか、よかった」


 良かった?焼き菓子が何?

 そんな疑問を感じていると、先程走っていった兵士の人が帰って来て、リーダーに何か耳打ちした。リーダーは頷くと笑顔を向けてくる。


「客間もご用意されたとのことだ。案内しよう、このままついてきてほしい」

「あの、領主様が私をお待ちというのは……?」

「それは、直接領主様よりご説明されると」

「………」


 ……そうだった。


「あの」

「何かね?」

「実は――」


 ――歩きながら、チャルレスの件を伝えた。そもそも兵士達に声をかけようとしたのは通報のためだった。何が何やら分からないことだらけ、でも、しっかりしないといけない。


 もう覚悟を決めた。私は彼らから一人立ちする。


「――承知した」


 リーダーが目くばせし、兵士達のうち二人が頷くと無言で走りだした。


「うむ、おそらく彼らが到着するまで昏倒したままじゃろうて」


 私は静かに頷いた。


 そうこうしているうちに領主邸に着いた。

 領主邸は街の中心にある城のような建物で、周囲には大きな塀と堀があって大通りから真っ直ぐ繋がっている。昔からある建物で、戦時中はなかなか陥落しないような攻めにくいお城だったと神父様から聞いたことがあった。


 その正面の大きな門扉が開いた。堀と門扉の間にある跳ね上げ橋は戦時中ではないためか、門扉が開く前から降りていた。


 塀の内側に入ると、そこには広い庭園が広がっていて、ちょうど白いバラが咲いていた。


「すごい」

「奥様が庭園作りに力を入れられているのだ。これからは他国の要人を招いて、外交により一層力をいれたいとのことで」

「そうなのですね」

「さあ、こちらへ」


 領主邸の正門とそれから庭園を抜けると、お城の大きな入口があって。それから、その中に入ると謁見の間、その横に入ると客間となっていた。その客間に案内された。

 当然リリーも一緒にいてくれていて、誰もそのことに気付いていない様子だった。


 客間の奥の椅子に案内されてそこに座る。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


 そっとメイドが紅茶を入れてくれて、目の前のテーブルに。

 いい香り――おいしい!


「お気に召されたようですな」


 扉の側に立っていた初老の男性、たぶん執事さん?がにっこりと笑うとそう言った。


「少々お待ちを、もうすぐいらっしゃいます」


 どうしてこんなに良くしてくださるんだろう?

 そんな疑問を抱えたまま、ただ、リリーが微笑んでいるので不安は小さかった。


 しばらく紅茶を飲んで待っていた。


 なぜ私を領主様が探していたんだろう?

 やはり思い当たる節がない。


 そういえば、チャルレスはどうなったんだろう?


 そんなことを考えて待っていたら、ガチャリと音がして客間の入り口から二人の、領主様と奥様、その後ろから同い年ぐらいの女の子が入ってきた。少しあって、それから同い年ぐらいの男の子も入ってくる。

 身に付けている服の質が私のとは違いすぎて、すぐにお貴族様だとわかった。


「ああ、大丈夫、楽にしていてくれたまえ」

「ごめんなさいね、きっとびっくりしたでしょう?」


 とても柔和な雰囲気の奥様と、それから、ずいぶんと強そうな領主様がにっこりと笑顔を向けてくる。


「あ、あの。はい。大丈夫です」

「御姉様!」


 ……え?


 年齢はそんなに違わなそうな女の子がそう言って私のすぐ横に走り寄り、それからしゃがむと両手で私の両手を包み込むように握ってきた。


「あの?!ええ?!」

「あ!ごめんなさい!でも嬉しいの!」


 何が?!


「イザベラ、落ち着きなさい」

「それから、レックス。あなたも早くこちらに来て座りなさい」

「…………あ、はい」


 なんだかぼんやりしているレックス様は、そろそろと彼らの横の椅子に、イザベラ様と一緒に座った。今、私の目の前にこの街の領主一家が座っていた。


 どういう状況?


 一つ、領主様が咳払いした。


「私はこの領を治めているブライト家当主、ノックス・ブライトだ」

「わたくしは妻のルーナよ。それから息子のレックスに、娘のイザベラ」


 兄妹だと思う、その二人の子供を顔を向けながら紹介してくれた。


 あれ?


 レックス様の顔に見覚えがあった。


「あ、あの。もしかして、お祭りの時にお会いして?」


 酔っ払いに絡まれて突き飛ばされていた若い男の人、その顔を思い出した。それはレックス様だった。


「覚えていただいていましたのね?!」


 なぜか妹のイザベラ様の方が興奮して立ち上がった。それをもう一度ルーナ様が落ち着かせるように手で静止する。


「お兄様、よかったですね」


 どういうこと?


「あ、ああ……あの時は回復ポーションをありがとう」

「いいえ、そんな」


 そのお礼?それにしてもここまでしていただくようなことではないような気がするけれど。


*****

ご覧いただきありがとうございました。

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