6-1 ガラスの靴
* * *
なぜ、チャルレスが私を殺そうとしたのか。分からない。けれど、リリーの言うように街に下りて領兵に通報することにした。街に下りるのは本当に久しぶりのことで、あの祭りの日以来のことだった。
「……気になるのは、あのポーションじゃな」
「うん」
「目の色を変えたところでなんとなるのか。まったくアヤツらの行動はわからぬことだらけじゃ」
祭りの日とは違って、街の人と関わるつもりがないのか、リリーはダンジョンボスの姿のままついてきていた。たぶん、街のだれにも見えないようにしている。
久しぶりの街は祭りでなくてもにぎやかで、活気に満ちていた。
教会に引き取られた戦後すぐのころのことを今でも覚えていて、その頃に比べるとずいぶんと様変わりした。今の領主がとても良い方で、戦争に負けてよかったと言っている人もいるらしい。
両親を失った私にしてみれば、何とも言えないことなのだけれど。でも、領主を憎むことはないかなとは思う。
「祭りではないからか屋台がないのじゃな」
「うん。祭りの時だけだよ」
大通りにはあの時のような屋台や出店はなく、馬車も何台も往来していた。復興が進んで、この街は流通の要衝として大きく栄えようとしている。
「………ん?」
と、リリーがふらりと私の側を離れ、大通りの掲示板に近づいていった。それから、ちょいちょいと手招きをして私を呼び寄せようとしている。
「スカー、これをみてみい」
「どうしたの?」
「これじゃ」
「ちょっと!なんでお前がここにいるの?!」
私がその張り紙を見ようと近づいた瞬間、後ろから肩を掴まれて引き寄せられた。びっくりしながら目を見開けば、そこにはリアンがいた。彼女に私の右肩はがっちりと捕まれていた。
「リアンさん……」
「勝手に街に下りてくるなんて。どういうつもり?!」
薬の材料を集めることや、薬を作るようにジョシュアやレオナルドにあの小屋にいるように強制されてから、彼らからは勝手に街に下りることを禁止されていた。
「あの、私――」
「言い訳は結構!早く小屋に戻りなさい!勝手は許さないわよ!」
「……なんという横暴。ジョシュアといい、チャルレスといい、この女もたいがいじゃな」
すると、リリーが何かを彼女にむけて振りまいた。
何かのポーション?キラキラと何か鱗粉のようなものが。
鱗粉のようなそれを嗅いだリアンは、急にぼおっと立ち尽くした。何も言わない。
「昏倒させるわけにはいかぬが、まあ、こんなこともあろうかと先ほどから調合しておいたのじゃ」
「ぼんやりさせる薬?」
「そんなところじゃな……。なあ、スカーよ」
「ん?」
「もはやお主一人でも生きていけるじゃろう。この者達にこれ以上関わる必要などないのではないか?」
……それは。
「……うん」
「幼き頃に植え付けられた恐怖に立ち向かうのはキツイことであることは承知しておる。ただな、そろそろもうよかろう。もう、スカーはよい大人になろうという年じゃ」
「うん、わかっているよ」
その時、ちょうど向かいの方に、街の警護をしている兵士の人達が見えた。
「ああ、そうじゃった。まずは先にチャルレスの件を片付けてからじゃ。それから順番にやるべきことをすればよい」
「そう、だね」
ぼおっと立ち尽くしているリアンをそのままに、私たちは兵士の方に歩いて行った。
どう、説明したらいいかな。
そんなことを考えながら、大通りを横切るように歩いて彼らに近寄っていくと、彼ら兵士たちもこちらに気付いたようだった。自分たちに近づいてきていることに気付いて、彼らも歩みを止めてくれた。
うーん………ん?
なんだか、様子がおかしい。慌てているように、一人が他の兵士たちに声をかけ、それから、そのうちの一人がどこかに走って行ってしまった。残された兵士たちはそわそわと、なんとなく浮ついているように見えた。
「なんじゃ?……あ、そうか」
「え?リリー?」
リリーに向き直ろうとしたけれど、兵士たちが声をかけてきたので、そちらに顔を向けた。
「君、ちょっといいだろうか」
えっと、私が声をかけようとしていたのだけど。
「はい――」
まずは何事か聞いた方がよい?
「なんでしょうか?私に何か」
「あ、いや、その。顔をよく見せてもらえないだろうか?」
「え?」
しばらく私の顔を眺めていた兵士たちは、頷き合うと、急に笑顔を向けてきた。
「君、よろしければすぐについてきてもらえないだろうか?」
「私、ですか?」
「そうだ。領主様がお待ちなのだ」
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