1-1 プロローグ
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長らく更新していませんでしたが、生活落ち着きつつあるため少しずつ直しながら更新再開します。
魔力の本流、その渦が地面を砕き、死にゆく黒竜を中心に世界が崩壊していく。空の暗い雲もとんでもない早さで吹き荒れ、波打ち、黒竜の断末魔が地震を起こしている。
私は弟子達の正面に立ち塞がり、それらから守るので精一杯に――
「――し、師匠!!」
「賢者様!?」
これほどとは!
世界に闇をもたらす黒竜を倒すことはできたのだ。だがまさか……死に際にその闇が解放されるとは。
結界は、ぎりぎりか。後ろを振り返れば、そこには馴染みの弟子達の必死の顔が並んでいた。それを見つめ、体は死にゆく黒竜を見据えていた。
「……お前達に昔教えたな。力を何のために使うのか、どうやって使うべきか」
「な、なにを仰っているのですか?!」
「惜しむらくはお前達にきちんとした最後の言葉を贈る時間が少ないことだけだ」
結界の構造を大きく変える。
『人柱結界』
術者自らを犠牲にして作り出す結界。特徴は内部に封印した存在の力も、「人柱」を媒介に意図的に結界の力に組み入れ続けられる特徴を持つ。つまり、内部に封印する存在が強大であれば強大であるほど比例して結界も強力になり、理論上いかなる存在であろうと封印することができる。
まさか考案した私がその人柱になるとは。まあ、因果か。
弟子達の顔をゆっくり見渡した。何か叫んでいるようだが、結界の術式が展開していてもはや聞こえない。
こういう時、なぜかな、自然と笑みが溢れるものか……いや待て!
「おい!私の日記とか、私物はちゃんと全部燃やすか墓に入れて処分しろ!聞こえるか?!」
まずい!結界が!!闇が目の前に――
「師匠ー!!」
* * *
「――ん?く!」
なんだ?頭が痛い。くそ。
倒れていた体を持ち上げて立ち上がって。それからぼやけた視界を頭をふって叩き起こす。
少しずつ見えてきた、か。ここ、は?
周りを見渡すと、所々に咲いた紫に光る花が。
洞窟か?
もう一度ぼんやりする意識を頭をふって叩き起こし、状況を整理する。
私は……そうだ、黒竜の闇を封じるために自分を結界の構造に組み入れたのだった……。
周りを見ても結界は見えない。黒竜の姿もその溢れる闇も、そして弟子達の姿も。あの時はこんな洞窟内にはいなかったはずだ。
顔を下に向けて体を見る。
「……は?」
ボロボロの法衣は賢者として纏っていたあの時の物だが、もはや服として機能せず、肌のほとんどが見えていた。
「体が縮んでいる?」
というよりも若返っていた。子供の体のように見えた。そして、さらに違和感が。
体の色んな所を触って確かめる。
……待て待て。なんだこれは。
少なくともただ若返ったわけではないことは分かった。
紫色の薄明かりの中。それでも肌はすこし浅黒いように見えた。耳はただの人より尖り外に向き、鼻筋は昔より高く幼いわりに彫りが深い。胸は幼いながらも柔らかな膨らみがあり……
あるべき物とあってはならない物の両方が股の間に感じられた。
……文献で読んだことはあったが。これは、ダークエルフか。本当に雌雄同体なんだな。記憶が確かなら絶滅したはずの種族か。
「……けほ。あーあーあー」
声は少女のようだな。
両性としても女寄りの感じがした。
参ったな。これでは弟子達にも見分けがつかないだろう。
おそらくは見た目少女のダークエルフとなっている。まあ、そもそも今の状況が分からないことにはどうしようもないわけではある。
とりあえずは、ボロボロの服に意識を向けた。
うーむ。肉体はどういうわけか若いダークエルフのようになってしまった。として、『神通力』は使えるのだろうか。
賢者たる力の神通力を試すことにした。女神との契約が残っているのであれば使えるはず。
まずはこの服を何とかする。服だった布の切れ端に両手を当てるよう、まるで自分を抱くような姿勢になる。
神通力『神製』。
構造物に神通力を漏れなく通し、意識した形に改変する。神通力の中の錬金術である。見習い神官の子供の姿を思い出しながら服を神製で編み上げた。
光を放つ服はみるみるその姿を変えた。そして、あっという間に体にフィットする。きちんとした子供用の法衣となった。
「ふむ。こんなところか」
神通力は問題なく使えるようだ。と、いうよりもとんでもなく力が増している気がする……。
ダークエルフ。確か、太古に滅んだのは魔力の暴走。そして、私が封印した黒竜がいなくなっている……ということは。
ため息だけが最後に漏れた。
まあ、黒竜の問題は解決して私は生きて、いや、生まれ変わって人柱結界から解放されたわけだ。第二の人生か。それを進むとしてもまずはここから出て、外の状況を把握しないといけない。
……賢者ルーカス・ゴールド、だったんだけどな。もう、そういう顔ではない。
さて、何と名乗ろうか……。
順次表現を軽くしていきたいと思います。すみません。