第99話 闇の中の阿鼻叫喚
「貴公の名を。」
老齢の平織者の声がパラジウム内に響き渡った。音の振動が反射して、どこに座っている平織者が声を発したのか分からなかった。
「タタラ・マドリーナと申します。マドリーナ王国の国王を務めております。」
「この地に参られたのは何故か。」
「この地に赴いた国防大臣と連絡がとれなくなり、探しに参りました。」
「国防大臣がこの地に参られたのは何故か。」
タタラは慎重に言葉を選んだ。
「空から飛来する怪物に対し、この地に住む方々が子どもを贄とするという情報があり、それを確認するためでございます。」
タタラは空気が変わったことを察知した。ほとんどの者が怒りで言葉を詰まらせているかのようであった。
「幽世の民の皆様の事実でない伝聞を自国で否定し、広めないために、確認させていただきたいと考えた次第です。」
老齢の男性と思われる者が発言した。
「我らの方針を貴公らに評価してもらう必要などないわ。」
老齢の女性が口を開いた。
「我ら一族への価値観の押し付けである。それが是となるのであれば、貴公らも我らの価値観を踏襲せよ。」
別の若い男性が話した。
「かつて、ダークスターが我らの都市や農地を攻撃した後、逃げ遅れた子どもに噛み付いたことがある。その年、奴はその直後に空を飛んで去って行った。おそらく、その出来事が誤った認識で伝わってしまったのだろう。その子の命に別状はなかった。」
タタラは幾分か、ほっとした気持ちになった。
「経緯をお話いただき感謝いたします。私と国防大臣が確認させていただきたかったことはそれだけです。」
老齢の男性が再び発言した。
「貴公も貴国の国防大臣も我らが都市に入る時に選択をしたであろう?肉か戦か。貴公らは戦を選択したはずだ。ダークスターとの戦争が終結するまで、貴公らは帰れぬぞ。」
「構いません。得た情報から考えると、我が国にとってもダークスターは脅威ですから。ただし、今、あなたがおっしゃられた通り、私の目的は戦争の終結であり、必ずしもダークスターを討伐することではありません。」
「何を腑抜けたことを」
平織者の言葉を遮るかのように、パラジウムの扉が激しく叩かれた。発言を中断された者が怒鳴った。
「今は評定中である。」
扉の向こう側の者が切羽詰まった様子で叫んだ。
「緊急事態です。お目通りをお願いいたします。」
「では、その場で申せ。」
「長らく逃亡していた狸にイザナミカボチャの実を食べられました。」
一瞬にして、パラジウム内は阿鼻叫喚の様相を呈した。平織者は立ち上がって、叫び、怒り、涙を流した。そして、分厚い扉を開けて、足早に部屋を出て行き、農地へと向かった。
タタラと茶々丸と真珠丸は突然の出来事に驚愕し、呆然となった。




