第98話 冥府殿のパラジウム
「それで、スメラギ国はどの様にしてダークスターに勝つつもりなのでしょう。」
タタラの質問にルルが返答した。
「今年は百名もの精鋭を連れているだけでなく、この地の空間に漂う魔力を奴にぶつけると申しておりました。」
「この濃度の濃い末那を。」
タタラは道を歩く幽世の民を見た。そこには子どもや老人がいて、怪我をして足を引きずって歩いている者もいた。そして、空を見上げた。
「空間に漂う末那の制御に失敗すれば、エバユース湿原ごとミディアムが吹き飛んでしまう危険性があることを皆さんは理解されているのですか?」
ルルは髪で覆われていない方の目で、虚ろに遠くを見た。タタラが続けて言った。
「ダークスターを倒せるなら本望、なんて言わないで下さいよ。先程も言いましたが」
「分かっています。」
ルルはタタラの言葉を遮り、暫く無言で通りを歩いた。
「その時は、幽世の民が総出で亀甲の盾を顕現させて、都市を守ることになっています。ところで、母の霊は今も私のそばにいるのですか?」
「ルルさんのお母さん?」
「レイラの霊です。」
「ああ、レイラさんはルルさんのお母さんでしたか。すみませんが、都市の中は末那があまりに濃くて、判別できません。」
ルルはやや俯いて言葉を発した。
「そうですか。」
タタラ達はミディアムの中心にあって、五角形で各辺に5つの太い柱が並んでいる大きな建物に到着した。
「到着しました。こちらが冥府殿で、ミディアムの中枢です。」
ルルに先導されてタタラ達は白塗りの冥府殿の中に入った。まるで洞窟の中に居るような冷やりとした温度で、天井は非常に高く、広いエントランスの両脇には透明の容器に幽世の民の亡骸が湿原の水に満たされた状態でずらりと立て掛けられていた。
「偉大な我らの祖先です。この容器は非常に頑丈なガラスで出来ております。我らが一族の高度な技術の賜です。」
ルルは事務机についていた一人の男性に声をかけた。その男は席を立ち、暫くして老齢の男と共に戻ってきた。
「マドリーナ王国のタタラ王というのは間違いございませんでしょうか?」
老齢の男の問いにタタラは返答した。
「はい。」
「ルルよ。パラジウムにお連れしなさい。」
「承知しました。」
ルルはタタラ達を連れて、地下への階段を下って行った。茶々丸とプカプカと浮いた真珠丸が後に続いた。地下の通路はほとんど光が届かず、進むにつれて闇が深くなった。
「ここから先は明かりを灯すことを禁じられております。茶々丸さん、申し訳ございませんが、火を消していただけないでしょうか。」
「んにゃ。」
茶々丸は2本の尾の先端に灯していた鬼火を消した。
通路の先には両開きの銀白色の扉があり、ルルは表面に取り付けられた分厚い輪っかで扉をゴンゴンと叩いた。
低い声で、「入りなさい」、と声がしてルルは扉を開け、タタラ達を誘導した。部屋の中は闇で満たされていて、何も見えない状態だった。最後にルルも部屋の中に入り、扉を閉めた。
タタラは第7感の末那識と第8感の阿頼耶識によって、パラジウムと呼ばれる部屋内を知覚した。ドーム状の丸い形で、壁際に11人の幽世の民の平織者が座布団らしき敷物に座っているようであった。タタラ達はパラジウムの中央に腰を下ろした。




