第94話 霊の想い
「いますぐ分福丸の元へと案内してくれませんか?」
ルルは長い髪で隠れていない方の眼でタタラをじっと見つめた。
「先程も申しました通り、都市に入るには、ダークスターを討伐するための戦士になるか、我々の食材になるかのどちらかを選択しなければなりません。あなたがお探しになっている骨の女とぷっくりとした狸はそのどちらも選ばなかったため、私達と戦闘になりました。その結果、骨の女は3名の彼岸の戦士を薙ぎ倒し、都市へと侵入したことから、裁かれることになりました。現在、都市の牢獄に幽閉しております。狸は、幻術を使って姿をくらまし、行方知れずです。発見され次第、シチューにされるでしょう。いや、バーベキューにされるかもしれません。あるいは、カラッと揚げられるか、ふっくらと蒸されるかもしれませんし、意外と生のまま刺身にされるかもしれませんね。」
茶々丸は2本の尾の先に火を灯した。それを見たルルは目を見開き、身体を仰け反らした。
「いえ、これは、その、ただの予測、いや、ええと、もしかすればの話です。」
ルルは姿勢を正して言った。
「ここは私共の都市。どうか、私共の掟に従いいただきますよう、お願い申し上げます。私達自身も例外ではありませんので。」
「あなた方も例外ではない?つまり、あなた方はあなた方自身にダークスターと戦うことを強制しているのですか?」
ルルは何も言わず、窓の外に目を向けた。湿原が地平線まで続く美しい景色が広がっていた。ルルはその湿原の水の中に、両親と300年の間に産まれては死んでいった同胞の亡骸が何層にも重なって眠っていることを思った。今さら、戦いを止めることなど出来ないのだ。戦いを放棄することなど出来ないのだ。
タタラはルルから発せられる諦めと絶望と義務感の入り交じった悲哀の末那を感じとった。
「ルルさん、あなたに質問があります。ダークスターと和解出来るなら、あなたはそれを支持しますか?」
ルルはぐっと歯を食い縛った。眉間に皺を寄せ、タタラを睨んだ。
「どれだけの同胞が奴に殺されたか。300年。300年ですよ?奴の肉を喰らい、恨みを晴らさないことには前へ進めません。」
タタラは真剣な目付きでルルに返答した。
「エバユース湿原は末那に満ち満ちている。僕は非常に優れた末那識を有しております。亡くなられた方の、この世界に留まった末那、つまり、霊を感じ取ることも可能です。あなた方の祖先の霊は、今を生きるあなた方が恨みを晴らすこと望んでいるのではありません。あなた方が幸福になることを一番に望んでおられます。」
ルルは立ち上がって、声を張り上げた。
「適当なことを言わないで下さい。」
「レイラさんとはどなたでしょう?あなたのことを最も心配されています。」
ルルは絶句した。
「あと、レイラさんはカボチャのことを気にされているようです。カボチャって、あの野菜のカボチャのことですよね?どうして、カボチャへの想いが強いのかまではよく分かりませんが。」
ルルは放心状態となった。暫くして、ようやく、言葉を発した。
「あなたは、本当に我々の祖先の霊を感じとっているのですか?」
「はい。」
「あなたは何者なのですか?」
「先程も申しました通り、マドリーナ王国、国王、タタラ・マドリーナです。」
「ダークスターと和解出来るのですか?」
「分かりません。しかし、私は何者とも、意思疎通をすることが可能です。動物とも、霊とも、ダークスターとも。」




