第93話 宵闇の星
監視小屋は木材で建てられていて、扉を開けると右手に監視用の窓と5脚の椅子が置かれており、左手に寝床が5つ、部屋の中央に四角いテーブルが設置されていた。また、部屋の隅には木箱と七輪が2つずつ置かれてあった。
幽世の民の二人の男は木箱を開けて消毒薬と清潔な布を取り出し、傷の手当てを始めた。幽世の民の女性は窓際の椅子を2脚手に持ち、テーブルへとつけた。タタラは用意してもらった椅子に腰掛けた。
「私の名前は、ルル・ウェイジナビアと申します。あの二人はラナサとグラスレイ。私達は幽世の民 彼岸の戦士です。」
「改めて自己紹介させていただきます。私はマドリーナ王国、国王、タタラ・マドリーナと申します。こちらの可愛い猫は茶々丸、可愛いオコジョは真珠丸と言います。」
「どうも。」
「早速ですが、幽世の民の皆様とこの地にまつわるお話しを聴かせていただけないでしょうか。」
ルルは小さく頷いた。
「私達の一族がエバユース湿原に移り住んだのは今から約300年前。先住民が生活していた痕跡はあったのですが、その時には滅亡していたと伝えられています。祖先は、この地で生活を始めて、夏の季節を迎える頃に、先住民達が生き絶えた理由が分かったかと思います。何故なら、それは今も続いているからです。一年に一度、闇夜の空から怪物が飛来し、この地に舞い降りるのです。」
「それが、宵闇の星、ダークスター。」
タタラの呟きにルルが頷いた。
「はい。私は毎年、ダークスターと対峙していますが、奴の力の底を計ることすらかないません。勝てる見込みがまるで湧いてこないのです。例え、いかなる強者が協力してくれたとしても、奴を葬る場面を想像することは出来ません。」
茶々丸は七輪に興味を抱き、くんくんと匂いを嗅ぎ、恐る恐る前足で触れた。真珠丸はテーブルの上に乗り、話を聴きながら顔は茶々丸の方へと向けていた。
「ダークスターとは何者なのですか?」
「ヨミ大陸において、空を支配する5色の死影と呼ばれる者の1体です。すなわち、宵闇の星、暁の終わり、黄金の閃光、コリオリの角、宵闇の螺旋。」
「うわっ、なんで宵闇がかぶってるの?ちょっと変えてあげた方が良いんじゃないかな。」
「私達が決めたわけではありません。ヨミ大陸での一般的な呼称です。誰が決めたのかは存じ上げません。」
茶々丸は七輪でガリガリと爪を研いだ。茶々丸の様子が気になって仕方がない真珠丸は宙を浮いて茶々丸のそばに行き、真似をして爪を研ぎ始めた。しかし、真珠丸の爪は鋼のように硬く、七輪が削れ、爪痕が残ってしまった。
「きうっ。」
静かに声を漏らした真珠丸は削れた箇所を優しく撫でてみたが、もちろん修復することはなく、あたふたした後、ルルの方へと顔を向け、頭を下げた。
「気にすることありませんよ。」
ほっとした真珠丸はタタラの元に飛んで首に巻き付いた。茶々丸はテーブルの上にぴょんと跳んでタタラの前で伏せた。
「この方々は言葉を理解しているようですね。」
「はい。とても賢く、強く、可愛く、素敵な子達です。この子達の他に狸の分福丸という子もいるのですよ。この都市にやって来ませんでしたか?」
ルルは一目見た、ぷくっとしたお腹の狸を思い出した。
「ああ、あのとても美味しそうな歩くシチューですか。」
タタラは不安になって質問した。
「あの、もしかして食べてませんよね?」
「ええと、どうでしょう。私は食べておりません。」




