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Dear World  作者: 山波 孝麻
第1章 たたりもっけと餓者髑髏
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第92話 幽世の民との戦い

 真珠丸(ましゅまる)はもう一人の幽世(かくりょ)の民の男と相対していた。茶々丸(ちゃちゃまる)迦具矢(かぐや)により、水中に眠る先祖の死体を傷付けられ、それに激怒(げきど)した男は闇の魔法、黒冥(こくめい)を剣に宿し、真珠丸(ましゅまる)に切りかかった。


真珠丸(ましゅまる)は空へ上って、剣の届かない位置に移動し、霧の魔法を発動した。不動の霧に包まれた男は身動きが出来なくなったことに驚きつつも、剣に宿らせた闇を増大させていき、じわじわと霧を侵食させていった。それを感じとった真珠丸(ましゅまる)は男が身動き出来ない内に霧ごと男を持ち上げ、何度も男を地面に叩きつけた。


男は打撲(だぼく)を負いながらも、闇の魔法を拡大させ、自身も包み込む程の大きな黒冥(こくめい)を展開した。それにより魔法の霧は闇に()まれ、さらに、闇の腕が一本長く伸び、真珠丸(ましゅまる)の胴体を(つか)んだ。それは真珠丸(ましゅまる)にとって初めての感覚だった。物理的に触れられた感触(かんしょく)はなく、一瞬にして全身の筋肉が脱力し、自身の身体(からだ)の表面に(まと)わせている末那(まな)が霧と共に消失した。


空中から落下した真珠丸(ましゅまる)は、闇の腕に(つか)まれたまま、しなやかに地面に着地した。その瞬間、黒冥(こくめい)の中にいた幽世(かくりょ)の民の男が飛び出し、剣を構えて真珠丸(ましゅまる)に突進した。真珠丸(ましゅまる)はじっと男を観察し、剣が振り下ろされた時に素早く動き、男の(また)の間をくぐり抜け、跳躍(ちょうやく)し、男の背中を強靭(きょうじん)(つめ)で切り()いた。男が短い叫び声を上げると、黒冥(こくめい)が消えた。


真珠丸(ましゅまる)は瞬時に霧の魔法を発動し、男を彼の首元を除いて不動の霧で包み、男の身体(からだ)横倒(よこだお)しにした。真珠丸(ましゅまる)は男の首に前足をそっと()えた。首を裂かれると思った男は霧の中から叫んだ。


「よせ、止めろ。止めてくれ。」


「きゃう。」


真珠丸(ましゅまる)幽世(かくりょ)の民の男の末那(まな)を探り、闇の魔法の残り()を深く知覚した。



 タタラを(にら)んでいた幽世(かくりょ)の民の女性は、幽世(かくりょ)の民の男が真珠丸(ましゅまる)に背中を裂かれて声を上げた拍子(ひょうし)に合わせ、剣を突き出し、タタラに向かって()んだ。


それに対し、タタラは、秘術 飛縁魔(ひのえんま)による鬼火(おにび)を放って迎え撃った。幽世(かくりょ)の民の女性は剣先に亀甲型(きっこうがた)の魔力の力場を出現させて鬼火(おにび)を防ぎ、なおもタタラに向かって突進した。


タタラは奥義 受肉改変(じゅにくかいへん)により、片腕をアッコロカムイの腕に改変し、幽世(かくりょ)の民の女性を()ぎ払った。彼女は大きな(たこ)の腕で叩きつけられたことに驚愕(きょうがく)し、足場の悪い湿地でなんとか体制を立て直し、タタラを見た。


タタラは巨大な鬼火(おにび)を造り出しており、それを警戒(けいかい)した彼女は亀甲型(きっこうがた)の力場を空中に出現させ、それを足場にして元いた場所へと後退した。彼女が着地する寸前の(すき)をつき、タタラは巨大な鬼火(おにび)を彼女に向けて放った。


幽世(かくりょ)の民の女性は再び亀甲型(きっこうがた)の力場を出して防御した。そこへ、タタラが奥義 受肉改変(じゅにくかいへん)により(てのひら)から蜘蛛(くも)の糸を飛ばし、彼女の全身を粘着性の糸で(おお)った。幽世(かくりょ)の民の女性は身体(からだ)の表面から亀甲型(きっこうがた)の力場を出現させてじわじわと広げることで身体(からだ)に付着した蜘蛛(くも)の糸を外した。


「おおっ。なんて便利な技。」


タタラは背中に飛竜の羽の骨格を生やして、ふわりと浮いて彼女の前に降臨(こうりん)した。幽世(かくりょ)の民の女性は魔力で構築した巨大な亀甲型(きっこうがた)の盾をタタラにぶつけようとした。しかし、タタラは秘術 船幽霊(ふなゆうれい)による第2の霧でその衝撃を防いだ。タタラは霧を()き、真面目(まじめ)な顔付きで言った。


「もう()めましょう。戦いは僕の本意ではありません。」


「あの猫とオコジョは何者なのですか?」


可愛(かわい)くて、強いでしょう?猫は茶々丸(ちゃちゃまる)、オコジョは真珠丸(ましゅまる)と言います。」


「外の世界を知らないのは、やはりいけませんね。私達、幽世(かくりょ)の民は終焉(しゅうえん)を迎えようとしています。何をやっても意見はまとまらないし、上手くいかない。閉ざされ、陰鬱(いんうつ)な都市の中での生活に、抵抗する気力も()えてしまった。覇気があるのは(きつね)余所者(よそもの)だけ。」


「狐さん?何やらお困りのようですね。マドリーナ王国としてお手伝い出来ることなら、協力させていただきますよ。」


彼女は剣を(さや)に収め、声を張り上げて二人の男に停戦の意思を伝えた。そして、タタラ達を森の入り口にある監視小屋へと案内した。

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