第9話 魂の器
巨大な骨格が追い付いてきて、タタラを蹴り上げた。しかし、タタラは結界術を発動し、それを防いだ。結界術の硬さに負けて、足の甲の骨が飛び散ったが、餓者髑髏は構わずに残った足の骨でタタラを踏み潰そうと試み続けた。その度に、爆音が辺りに響いた。
一方で、タタラが鋸鎌で地面を叩き続けると、土がはけて骨の板が顔を出した。しかし、その骨板は、タタラがどれだけ叩いても割れることはなかった。
「無駄だ。最硬度の骨だ。どこの馬の骨とも分からん野郎に破壊できる代物じゃねぇ。」
巨大な骨格は、今度は拳でタタラを何度も何度も殴った。骨の破片が散っていったが、餓者髑髏は気にせずに、骨格を操り、殴打を続けた。
「凄い衝撃。僕の結界術 羅生門でも響いてくる。末那の消耗も甚大だ。でも、僕には奥の手があるんだよ。」
タタラはカマキリの腕をヒトの腕に戻し、合掌した。
「生体術 破骨。」
タタラは掌に破骨細胞を生成し、末那を練って細胞を活性化させ、地面に埋まっている骨板に両手を当てた。その瞬間、餓者髑髏に悪寒が走った。それはまるで、手の届かない背中に虫が這っているかのような感覚だった。
「貴様、何をしている?」
「君の骨を溶かしているんだよ。肉体を持たない君は、骨を作る骨芽細胞を有していないから対抗できない。他の骨で補修はできるだろうけど、溶かした箇所に僕の結界を滑り込ませているからそれもできない。」
焦った餓者髑髏は腕の骨を補強して大きくし、タタラを握り潰そうとした。しかし、効果はなかった。
(馬鹿な。敗ける?この私が?)
「畜生ぁ。」
巨大な髑髏が口を開け、タタラを噛んだ。ぎりぎりという音が鳴り響いた。歯がばきっと折れ、顎の骨がぐしゃりと崩れ落ちた。その間、タタラの手は、じわじわと骨板に沈み込んでいった。
「だああぁ、くそっ。破れねぇ。何なんだ、その結界。」
もはや、立ち尽くさんばかりの餓者髑髏は、一転して冷静になり、タタラのエネルギーを探ることにした。地獄嶽に来た時と比べて、大きく消耗していることが分かった。攻撃を続けると、いずれ結界を破ることが出来ると推察したが、その前に、地面の骨板を溶かされてしまう。この状況を打破するためには一撃必殺しかないと判断した。
餓者髑髏は静かな声で言った。
「次で最後だ。これで駄目なら、貴様の勝ちでいい。」
餓者髑髏は巨大な骨格を分解し、めきめきと音を立てながら寸分の隙間なく骨を凝集させて、巨大な薙刀を造り上げた。それは、骨の山があった箇所まで移動して距離をとり、柄の先端をタタラに向けて、凄まじい速度で飛んだ。そして、タタラの手前で薙刀が半回転することで、さらに加速し、その刃がタタラを襲った。
その時、茶々丸が火炎術 迦具矢を薙刀に放った。閃光と共に、弾かれた薙刀の軌道が変わり、タタラの頭上をぐるぐると回転しながら通りすぎていった。
「流石だね、茶々丸。全く、何て凄い子なの。」
「にゃあ。」
タタラが分厚い骨板を溶かしていくと中に空洞があった。そこには、硬い骨板に包まれるようにして、一つの骨が鎮座していた。タタラは、掌を通常の細胞に戻して、その骨を手に取った。それは、軸椎であった。
「この骨に、君の魂が宿っているんだね。」
観念した餓者髑髏は残った骨をガシャガシャと動かして、何とか聞き取れる言葉の音を発した。
「こんな日が来るなんてな。まぁ、仕方ねぇ。」