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Dear World  作者: 山波 孝麻
第1章 たたりもっけと餓者髑髏
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第87話 ダラストゥクとエバユース湿原

 マドリーナ王国の北部は東西に連なるバルプロ山脈が他国との国境となっており、西側の山脈が途絶(とだ)えた先には広大な湿地帯、エバユース湿原が広がっていて、そこが隣接するストレキル領との物理的な国境となっていた。マドリーナ王国側のエバユース湿原の入り口にはダラストゥクという村があり、タタラは茶々丸(ちゃちゃまる)真珠丸(ましゅまる)を連れてその村を訪れていた。


村には、木と土壁(つちかべ)で出来た質素(しっそ)な家が湿原の手前に建てられていて、その先の湿原側にはきちんと手入れされた農地があった。エバユース湿原はさらにその先に広がっていた。村には豪奢(ごうしゃ)な住宅は一棟もなく、往来(おうらい)を行く人々の(にぎ)やかさもなかったが、子ども達は元気に走り回っていて、それが村に明るさをもたらしていた。


 タタラはダラストゥク近辺の丘の上に、背の高い骨塔(こつとう)が建てられているのを発見した。それは人間や千家(せんげ)黄泉(よみ)の大陸の者達の骸骨(がいこつ)(かた)められて造られており、餓者髑髏(がしゃどくろ)であるシヴァが建てたであろうことが一目で分かる物であった。タタラはその骨塔(こつとう)が正常に末那(まな)を送受信出来ることを確認し、茶々丸(ちゃちゃまる)真珠丸(ましゅまる)に向かって言った。


「変だね。骨塔(こつとう)は問題なく機能してるのに、シヴァと連絡がつかない。」



 タタラ達が丘を下り、村に入ると、ヒトを乗せた巨大なイグアナが通りをノシノシと歩いていた。


「にゃあぁぁん。」


「きうっ。」


「大きなイグアナさんだね。子ども達を()み込んだりしないのかな。いや、あの大きさなら大人でも丸呑(まるの)みに出来るか。」


タタラが通りを歩いていた村民に村長の所在を聞くと、湿地に出ているということであったため、一行(いっこう)は田畑の畦道(あぜみち)を歩いて農地を超え、エバユース湿原に出た。


そこには地平線まで続く巨大な湿地帯が広がっていた。うねうねと曲がった極めて流れの遅い川が何本も走っており、立金花(りゅうきんか)の小さな黄色い花や水芭蕉(みずばしょう)の白い花が咲きほこっていた。


タタラは奥義 憑依進化(ひょういしんか)と奥義 曼荼羅(まんだら)によって、真珠丸(ましゅまる)より体得した秘術 船幽霊(ふなゆうれい)を発動し、上面(じょうめん)だけ(たい)らな、もくもくとした魔法の霧を発生させ、雲に乗るようにして、宙に浮きながら湿地の上を移動した。


茶々丸(ちゃちゃまる)が霧の先頭に立ち、心地の良い暖かな風を満喫(まんきつ)した。真珠丸(ましゅまる)はタタラの腕の中で、辺りをきょろきょろと見回した。


村長は農地からそう遠くない所で、突き出した岩の上でパイプを吸いながら、5頭のイグアナが水草を食べているのを見守っていた。村長は中年の男性で、頭の左右に水牛のような立派な角が生えており、濃い灰色の体毛で全身が(おお)われていた。


「あんた、もしかしてタタラ王か?」


「はい。マドリーナ王国、国王、タタラ・マドリーナと申します。何故(なぜ)、お分かりになられたのですか?」


「こりゃまた丁寧(ていねい)な王様だ。芭蕉(ばしょう)さんから村に手紙が届いてる。今、あんたの(うわさ)で持ちきりだぜ。猫を連れた王様だってな。猫じゃないのもいるみたいだが。」


「猫の茶々丸(ちゃちゃまる)と、オコジョの真珠丸(ましゅまる)です。この子達は屈強な戦士よりも強いのですよ。」


「見りゃ分かるさ。その小っちぇえ身体(からだ)に、化けもんじみた、とんでもない魔力を宿してやがる。」


「その大きなイグアナさんは何という子達なのですか?」


「こいつらはタタタタと言う。大人しい性格で、エバユース湿原に生える水草しか食べねぇんだ。」


「タタタタ?」


「タタタタ。」


「にゃにゃにゃにゃ。」


「初めて聞く奴は皆そんな反応をするよ。たたたたと走り回るから、その名が付いたらしい。」


「タタタタ。ふふっ。タタタタ。案外、とっても良い名前かもね。」


「きぅ。」


「それで、村長さんの名前は?」


「ああ、すまねぇ。俺はカルナル。」


カルナルは美味(うま)そうにパイプを吸って、白い煙を()いた。チッチ、チッチと小鳥がどこかでさえずる音が聞こえた。


「実は、国防大臣を探しているんです。」


「あの骨をガシャガシャとさせてる別嬪(べっぴん)さんか。(たぬき)を連れてたな。」


「そうです。どこへ向かったかご存知ですか?」


カルナルはパイプの先に()まった灰を捨て、()め息を付いた。そして、地平線を眺めた。


カルナルのその仕草はタタラに悪い(しら)せを彷彿(ほうふつ)とさせた。

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