第86話 結婚への誘い
タタラが茶々丸と真珠丸を連れて王邸へと帰った後、海坊主の島で、ツバキが夕食中にテンマとリョウコに声をかけた。
「ねぇ、2人に聴いて欲しい話があるんだ。」
テンマとリョウコは焼き魚を食べながら、ツバキの方へと顔を向けた。
「兄貴とリョウコさ、結婚したら?」
2人は口を手で覆い、魚を吹き出すのを塞いだ。
「いきなり、何を言い出すんだ?」
「兄貴、リョウコは美人で腕が立つし素敵でしょ?リョウコ、兄貴は強くて浮気しないから申し分ないでしょ?どう?」
リョウコは布巾で口と手を拭った後、困惑した表情で答えた。
「どう?って言われても。急すぎるよ。」
「じゃあ、急じゃなきゃ良いってこと?」
「いや、あの、どうでしょう。」
テンマもリョウコも顔を真っ赤にして下を向いた。
「2人とも、顔真っ赤だよ。」
「うるさい。」
「うるさい。」
「息ぴったりだね。とっとと接吻して結婚しちゃいなさいよ。」
「おい。」
「おい。」
「もう。ぴったりな所を何度も見せつけないでよ。じゃあ、秋になったら式を挙げよう。皆に言っとく。」
なおも下を向いたまま顔上げないテンマとリョウコだったが、どちらとも拒絶の意思を示さない様子を見たツバキは、ちょろいぜ、と思った。
「それでさ、お姉さんの家族も式に参加してもらうから住所を教えてよ。」
「お姉さん?お姉さんって言った?」
「言った。」
「私はまだツバキのお姉さんじゃない。」
「聞いた?兄貴。まだ、って言ったよ。いつかは私のお姉さんになる気、満々だから、兄貴がその気持ちを受け止めてあげないと駄目だからね。とにかく、私に任せておいて。素敵な式にしてあげるから。王国の皆に祝福してもらうよう手筈を整えておくよ。それで、リョウコの家族はどこに住んでいるの?」
「私の家族は遠い所にいるよ。他国のヒトとの結婚なんて、絶対に認めてもらえない。」
「なんで?」
「マドリーナ王国と国交がないし、家族は行き来出来ない。それに、テンマは私の国に忠誠を誓うなんてこと出来ないでしょ?」
「結婚したからと言って、国に忠誠を誓う必要なんてないでしょ。リョウコだって、兄貴と結婚しても、家族のために働くことはあっても、マドリーナ王国のために働かなくちゃならないなんてことないからね。安心しなよ。兄貴、さっきからずっと黙ってるけど、どうなの?」
テンマは少し顔を上げて、小さな声を出した。
「俺はこれからもツバキのそばから離れるつもりはない。」
「いい加減、妹離れしなきゃいけないでしょ。」
「この世界に、妹離れなんてものは存在しない。」
「いや、あるでしょ。」
「兄離れも存在しない。」
「あるわっ。」
ツバキはリョウコを見て言った。
「ね?ひどいでしょ?だから、兄貴は結婚して自立しなきゃいけないんだよ。」
「私はテンマの自立ために結婚するの?」
「支え合いってやつだよ。」
「私はどんな風に支えられるの?」
「だってほら、リョウコは密偵なんでしょ?あなたの名前は赤神リョウコ。」
リョウコは勢いよく立ち上がって叫び声を上げた。椅子がバタンと後方に倒れた。
「兄貴と結婚すれば、良いカモフラージュになるじゃない。マドリーナ王国中を歩き回れるようにもなるよ。」
リョウコは言葉にならない文字や単語を発し、汗をだらだらと垂らした。
「皆には秘密にしといてあげるよ。これでお互い隠し事はなくなったね。兄貴はドシスコンで、リョウコはアカガミ国の修羅。ま、大丈夫。あとは式を挙げるだけだから。2人とも気持ちに整理をつけといてね。」




