第83話 全てはこの日のために
翌朝になって、タタラ達はテンマや海坊主が待機しているマシュの島に戻った。海坊主と時雨はマシュの姿を見るなり歓喜し、再び涙を流した。茶々丸は自分の首元をマシュの身体に何度も擦り付けた。目を覚ましていたツバキはマシュの姿を見るなり、鼻を押さえ、なんでもない風を装った。フェイレイは一度も目覚めることなく、眠り続けていた。
マシュは霧の魔法を発動し、胴体を薄い霧の膜で覆い、黄金の宝箱を抱えて、ぷかぷかと宙を浮いた。
「きぃぃ。きぅ。」
「タタラ王、この子が何て言ってるのか分かるかい?」
時雨の問いかけにタタラが返答した。
「ちょっと待ってね。」
タタラは掌をマシュの身体に触れて、第8感の阿頼耶識により、マシュの魂を読み取った。
「皆のおかげで宝箱を取り戻せたよ。ありがとう。だって。」
海坊主が鼻をすすりながら言った。
「お前のためなら、何だってやるさ。」
マシュは黄金の宝箱に掛けてある錠前の鍵穴に前足を触れて、きいぃ、と言った。
「ええと、ピットの鍵を見つけるまで僕はこの島に残る、と言っているよ。」
その時、時雨は胸元から服の中に手を入れ、ブレスレットに掛けてある小さな黄金の鍵を取り出した。それを見たマシュは目を見開いた。
「マシュが探していたのはこれなんだね。ごめんね。私がずっと持ってた。」
マシュは黄金の鍵を前足で触れ、時雨の目を見つめた。
「これはね、クラングランの質屋で売られてたんだよ。おそらく、青鬼海賊団の連中がピットからこれを奪い、何の鍵か分からなかったために売り捌いたんだろう。錠前の鍵だからとても小さいし、重要なものだとは思わなかったんだろうね。息子の鍵を買い戻して、それから肌身離さず、今まで持ってた。」
時雨はブレスレットから鍵を外し、マシュに渡した。
「これは、マシュにあげる。ピットのために戦い続けてくれて、ありがとう。」
時雨はマシュを抱きしめた。
マシュは鍵を大事そうに抱え込んだ後、魔法の霧で鍵の取っ手を固定し、黄金の錠前の鍵穴に差し込み、回した。カチリと音がして、錠前が外れた。その場にいた、タタラ、テンマ、ツバキ、リョウコ、赤の女王はゴクリと生唾を飲んだ。
マシュは皆が見守る中、黄金の宝箱を開封した。中には、ピットの宝の地図が保管されていた。
マシュは丸まった宝の地図を開き、指定された位置を確認した。そして、地図を丸めて抱え、宙を飛んでその場所を目指した。他の者達は慌てて、マシュの跡を追った。海坊主も、大切な黄金の宝箱を手に持ち、時雨と共に向かった。
地図に印が付いた場所は島の西部にあり、テンマが風の魔法で船の残骸を吹き飛ばした場所の反対側に位置していた。マシュは霧の魔法を発動し、第3の霧によって船の残骸を持ち上げて別の場所へと放り出した。そして、剥き出しになった地面を前足で掘った。
「マシュ、僕も手伝うよ。」
タタラは魂の空間軸に保管していた暗黒物質を取り出し、奥義 受肉改変により平で頑丈な骨へと変化させ、秘術 餓者髑髏で骨を操作し、地面を掘った。
「なんだかわくわくする。歴史的な大発見になるかもしれないね。」
赤の女王の発言に海坊主が釘を刺した。
「財宝は全部、マシュの物だからな。盗んなよ。」
「失礼な。マシュの物を盗んだりしないよ。」
「マシュに懇願して譲渡を申し出んじゃねぇぞ。」
赤の女王は聖杯のことを思い出して焦り、少し言葉を詰まらせて、嘘にならないように慎重に返答した。
「そ、そ、そんなことあれだよ。ここに埋まっている財宝に対してはしないよ。」
「あった。」
タタラが叫んだ。大型の宝箱の上部が顔を出した。掘り進めた結果、計3つの宝箱が埋まっていたのを発見した。タタラは再び、奥義 受肉改変により、巨大な骨の手を造って、一つずつ取り出した。
「マシュが開けて。ドキドキの瞬間だよ。」
タタラは、宝箱が空っぽじゃありませんように、と心の中で祈った。
マシュは中央にある宝箱の蓋をそっと開けた。
宝箱の中にはたっぷりの金銀財宝が詰まっていた。皆、大歓声を上げた。
タタラがマシュに声をかけた。
「マシュゥゥゥゥ、良かったね。よく頑張ったね。おめでとう。」
「きいぃぃぃ。」
マシュが残りの二つの箱も開けると、同じように、箱一杯に財宝が詰められていた。
「凄い宝。こんなの見たことない。」
「そうだな。マシュは大富豪だ。」
ツバキとテンマも大量の財宝に興奮した。
「テチス海は夢があるな。」
リョウコは染々と感想を述べた。
マシュは宝箱の周囲を飛び回り、嬉しさを表現した。そして、時雨の手を前足で挟み、宝箱の前に誘導した。海坊主にも同じようにした。
「きぅ、きぅ。」
「マシュ。お前は本当に凄ことをした。ピットの夢を叶えてくれた。成し遂げたんだ。」
「きぃぃぃぃぃぃ、きぃぃぃぃぃ。」
「うん?」
マシュはタタラの前に移動した。タタラはマシュを両腕で抱え込んだ。
「この財宝を、ピットのご両親であるあなた達にプレゼントします。マシュはそう言ってるよ。」
海坊主も時雨も驚き、眉をひそめた。
「マシュ、何を言ってるんだ。この財宝は全てお前の物だ。そのために、これまで頑張ってきたんだろう?俺達に遠慮することなんてない。」
マシュは首を横に振った。
「きぃ、きぃ。」
「違うって言ってるよ。」
タタラは神妙な面持ちで海坊主と時雨に伝えた。
「ピットは、自分を産み、育ててくれたあなた達に感謝していたし、それだけでなく、島を発展させ、多くのヒトの生活を養ってきたあなた達のことを心の底から尊敬していた。彼が宝探しをしていたのは、あなた達に恩返しをするためだった。マシュはそんなピットの遺志を継いで、船幽霊として、今まで頑張ってきたんだよ。全ては、あなた達に財宝を贈るためにね。マシュは、これは自分からではなく、ピットからのプレゼントだよって言ってる。」
海坊主は人目も阻からず号泣した。時雨も堪えきれず泣いた。二人は思い出した。ピットが子どもの頃から、財宝をプレゼントするからね、とよく言っていたのを。
リョウコは目頭が熱くなり、声を漏らした。
「こんな話ってある?まさか、テチス海で最も恐れられていた船幽霊の正体がこんな良い子で、こんな物語を抱えていたなんて。」
タタラは腕の中にいるマシュに言った。
「ピットはいっぱい喜んでいるよ、マシュ。」
きぃ、とマシュは鳴いた。




