第8話 地獄嶽の攻防
タタラは思わず低い声を漏らした。
「あっ。」
飛び散った火花が何本かの樹木を焼き、次第に辺りは煌々となっていった。
「許さねぇ、この猫。」
激情した餓者髑髏は辺りに散った何本もの肋骨を宙に浮かせ、茶々丸を攻撃した。
「よせっ。やめろ。」
茶々丸は駆け出し、飛んだり跳ねたりして肋骨を見事に躱し続けたが、業を煮やした餓者髑髏はさらに肋骨を増やし、茶々丸を取り囲んで、それらを一度に突き刺そうと試みた。茶々丸は結界術を発動し、難を逃れた。
「やめろと言っているだろう。こんな愛らしいにゃんこに、そんな硬く尖ったものを一斉にぶつけようとするなんて、ひどい。」
「やかましいわ。そんなとんでもねぇ化け猫ほっとけるか。貴様こそ、あっ、やっちまったな、みたいな雰囲気を醸し出してたじゃねぇか。それだけのことを猫がしでかしたからだろうが。」
「何さ。ちょっと骨が焦げ付いた位で。」
「何が、ちょっと骨が焦げ付いた位だ。骨の山が半分以上もぶっ飛んでんじゃねえか。何だお前ら。」
「とにかく、茶々丸への攻撃をやめないと、退治するよ。」
餓者髑髏は怒号を上げた。
「上等だこらぁ。」
激昂した餓者髑髏は茶々丸を攻撃している肋骨を含め、数十箇所で骨を一塊に集合させた。それらの骨はガシャガシャと音を立てたながら、次第に人間や天使、獣や鳥の骨格を形成し、タタラと茶々丸に襲いかかった。
タタラは全身に末那を練り、腕を通して槍に末那を行き渡らせて頑強にし、向かってくる骸骨を砕いていった。破損させた骨はすぐに他の骨で補修され、再び襲いかかってきたが、タタラの槍術は骨の戦士達を圧倒した。茶々丸は結界術 羅生門と火炎術 迦具矢を上手に両立させ、次々に敵を破砕していった。
タタラが無数の骨格と戦闘している後方で、茶々丸が吹き飛ばした骨の山の骨片がびくびくと蠢いて集合し、タタラの身長の倍はある高さの骨格を形成した。その骨の戦士は背骨がやや湾曲し、山羊に似た頭蓋骨で、太くて長い角が生えていた。さらに、骨で造られた薙刀を手に持っており、後方から一足飛びでタタラの間合いに入り、脳天を目掛けて攻撃してきた。
タタラは咄嗟に槍で防御したが、その骸骨の戦士が振るう薙刀は驚くほど高度で、他の骨の戦士との力量が桁違いであった。タタラの槍術をもってしても、その骸骨の戦士を打ち破ることは出来なかったが、両者の槍と薙刀の技は拮抗しており、勝負がつかなかった。
どれだけ時間をかけて多勢で襲っても、強力な戦士を造り上げても、タタラと茶々丸を倒せないと判断した餓者髑髏は、全ての戦士達の骨を1箇所に集めた。骨の集合体は次第に髑髏と成し、脊柱、両腕、肋骨、骨盤、両足となり、周囲の木々よりも遥かに背の高い巨大な骨格が完成した。
それは巨体にも関わらず、異様な速さで動き、タタラに襲いかかった。タタラは槍で応戦したが、強靭な骨の拳にボキンッと折られてしまった。さらに、餓者髑髏は何度もタタラを踏みつけようとし、手で掴もうとした。タタラはひらりと身を翻して躱した。餓者髑髏は樹木をなぎ倒しながら暴れ回った。
「そろそろ頃合いだね。骨とやりあっても意味がないこと位、分かっているんだよ。」
タタラは骨格の股の間をくぐり抜け、骨の山があった場所を通り過ぎ、全力で走った。50歩程進んだ先に泉があり、その手前でタタラは奥義 受肉改変により両腕をカマキリの前足に変化させた。鋸鎌の組織に鉄分を凝集させて頑丈にし、力強く地面を叩いた。ガァンと鈍い音が響いた。
「貴様、なんでここだと。」
「上手に隠していたようだけど、ここから僅かに君の末那が発出されていたからね。僕の末那識は凄いんだから。つまり、君の魂はこの下にあるよね。」