第79話 炎と水の激突
サーペンスは残った水妖の海蛇を合体させ、先端を鋭くし、海坊主へと放った。それは意思を持った柄の長い矢のように風を切って飛んだ。
海坊主は咄嗟に時雨を庇って、彼女に覆い被さった。全てを貫かんと発射された水妖は、突如、姿を現したタタラの結界術 羅生門によって弾かれた。
タタラは周囲の末那を深く知覚した。意識を喪失したリョウコをちらりと見た後、マシュの不在に気がついた。
「マシュは?」
海坊主はサーペンスを指差して、力無く答えた。
「あいつが、ピットの宝箱をディープホールへと投げ捨てやがったんだ。マシュはそれを追って」
海坊主は言葉を詰まらせた。タタラの眼光は鋭さを増し、サーペンスを睨みつけ、ギリギリと歯を噛みしめた。
「僕の名はタタラ・マドリーナ。そして、お前は、僕の敵だ。」
「私の目的はテチス海を平定することです。争いの無い世界を私と共に築きましょう。あなた方は、ただ、我らに支配されるだけで良いのです。」
タタラは秘術 飛縁魔を発動し、猛烈な勢いで火炎をサーペンスに放射した。それに対し、サーペンスは水妖の海蛇をタタラに向けて放った。2つの魔法はぶつかり合い、拮抗した。サーペンスは、さらに、頭上から水妖の海蛇を出現させた。天へ登った水妖の海蛇は一転してタタラに向かって急降下した。タタラは結界術を展開し、直撃を阻止した。
サーペンスがふと気付くと、いつの間にか彼の真横に、頭部が山羊の頭蓋骨で、背の高い2本足の骨の戦士が佇んでいた。そして、戦士の数は2体、3体と増えていき、船の甲板は骨の戦士で埋め尽くされた。
サーペンスは狼狽したが、あまりの非現実的な事態に、自分を落ち着かせた。
「違う。これは、幻術だ。」
1体の骨の戦士が、手に持った薙刀でサーペンスに斬りかかった。サーペンスはタタラに向けて放っていた水妖を解き、タタラの火炎術と薙刀の一撃を同時に躱した。
「消えよ、幻。」
サーペンスは強大な魔力を練って、全身に纏わせた海水を猛烈な勢いで周囲に放った。それは、サーペンスを起点に、衝撃波のような圧力となって、タタラが出現させた秘術 隠神刑部による幻術をかき消した。
しかし、タタラはその直後に新たな幻術を発動し、先程と同じ骨の戦士を瞬く間に創り出した。それによって、大いに困惑したサーペンスに、タタラは全ての骨の戦士にサーペンスを襲わせた。
慌てたサーペンスは杖の刀身で応戦したが、どれだけ切っても幻は両断できなかった。そこへタタラが秘術 餓者髑髏により、幻術の中に紛れ込ませていた本物の骨の戦士の薙刀に、サーペンスは肩から脇腹にかけて斜めに斬られた。
「ぐっ。ば、馬鹿な。幻術ではないのか?」
なおも襲いかかってくる骨の戦士に刀身を吹き飛ばされ、横一線に胸を斬られた。サーペンスは残りの力を全て振り絞り、上半身の筋肉を爆発的に増強させ、骨の戦士を抱き抱え、さば折りにした。そこへ、サーペンスが手離した刀身を持った海坊主が突進し、サーペンスの腹を貫いた。
「お前は救えねぇ。これで終わりだ。」




