第78話 夢を追って海の底まで
巨大な海蛇、レビュラスに襲われた海坊主は水の魔法、水妖によって全身に海水を纏って、水の巨人となり、レビュラスの首を脇で絞めた。また、時雨が発動した水妖は、海水が太い縄のような形状となり、それがレビュラスの暴れる胴体を押さえ付けた。こうして、レビュラスが窒息して意識を失い、海へと沈んだ。
それを見届けたマシュは讐怨亭の船へと渡り、甲板に放置された黄金の宝箱へと走った。サーペンスはマシュの姿を目の端に捉え、マシュが向かう先に宝箱が転がっているのを発見した。彼は水妖を発動し、腕から伸びた海蛇型の海水で宝箱を咥え、それを手にした。
「ほう。これは煌びやかな品物ですね。」
牙を剥いて向かってくるマシュに、再び、海蛇型の海水を放った。マシュは少し回復した魔力で霧の魔法を発動し、第2の霧で防御した。その光景を見たサーペンスは驚きの声を上げた。
「なんと。その魔法は、まさか、あなたが船幽霊?これは驚きました。長い間、最も私の邪魔をしてきたあの船幽霊の正体が小動物だったとは。」
海坊主が怒りの声を上げた。
「その宝はお前のもんじゃねぇ。とっとと返しやがれ。」
サーペンスはにやりと笑い、灰色の口髭を撫でた。
「そう言われると、返したくなくなります。」
海坊主は頭に血管を浮き上がらせ、讐怨亭の船へと跳んだ。サーペンスは魔力を練り、海坊主のように海水を纏った。サーペンスの頭から海水の巨大な海蛇が上空へ伸び、両手からもそれぞれ同じものが出現し、3首の巨大な海蛇の形を成した。
「あんたの術の天敵が私の術だ。海水は電気をよく通すからな。」
リョウコはありったけのオーラを両手に宿し、電気の魔法、電界を発動し、サーペンスへと放った。強烈な何本もの太い電気の筋がバチバチという音を響かせながら、海水の怪物と化したサーペンスの周囲を一瞬にして駆け巡った。
しかし、サーペンスは顔色一つ変えず、電気が鳴り止むのを待った。息を切らせたリョウコが声を漏らした。
「何故だ?何故効かない?」
「私を誰だと思っているのです?あなたが扱う魔法への対策も、もちろん実施済みです。水は元々、電気を通さないのですよ。通常の水が電気を通すのは、そこに含まれている不純物が電気を通すからです。従って、水妖により海水を真水へと変え、不純物を取り除いたのですよ。」
サーペンスは片方の腕に纏った海水の海蛇をリョウコへと放った。魔法ではサーペンスを倒せないと悟ったリョウコは肉弾戦を仕掛けるため素早い速度で水妖を躱しながら間合いを詰め、サーペンスの正面に出た。
しかし、サーペンスの腹部から、服を破って4首目の水妖の海蛇が出現し、リョウコを直撃した。まるで鉄の塊をぶつけられたかのような衝撃を食らったリョウコは身体が吹き飛び、なんとか船の縁に掴まって海上へ投げ出されるのを阻止したが、そのまま意識を喪失した。
そこへ、水の巨人となった海坊主がサーペンスに体当たりした。サーペンスは両腕から伸びた水妖の海蛇で防御したが、海坊主の水の巨人はサーペンスの両腕の水妖を脇に挟んで潰した。
しかし、サーペンスの頭上と腹の水妖の海蛇に海坊主本体を攻撃され、海坊主は後退した。サーペンスがさらに追い討ちをかけた時、マシュが霧の魔法で防ぎ、海坊主を助けた。それを見たサーペンスの形相が歪んだ。
「ここに来て、まだ私の邪魔を。本当に忌々しい。あなたには、あなたに相応しいとっておきの死を与えましょう。」
サーペンスは黄金の宝箱を海へと投げ飛ばした。ピットとマシュの宝箱は渦巻くディープホールへと沈んでいった。それを見たマシュは金切り声を上げ、身体の周囲に霧を纏い、宝箱を追ってディープホールへと突進した。
「駄目だ、マシュゥゥゥゥゥ。」
海坊主は絶叫し、自身もディープホールへ飛び込もうとしたが、時雨が叫んだ。
「駄目だよ、あんた。」
海坊主はその場に膝を付き、水の巨人は崩壊した。時雨が船を移って彼の傍に行き、背中に手を添えた。
「俺は、また、救えなかった。ピットも、ピットのために尽くしてくれたマシュも。俺は救えなかった。ちくしょう。ちくしょぉぉう。」




