第68話 蛸と海賊の物語
タタラは奥義 受肉改変により骨を形成し、それで自身の身体をアッコロカムイの腕に縛り付けた後、奥義 憑依進化によりアッコロカムイに取り憑いた。
黒焦げになったフェイレイは呆然とした様子で、プカプカと海に浮いていた。
「熱。痛。しんど。何?あいつ。」
フェイレイは上空を見た。ゆっくりと空を眺めるのは久しぶりで、ふと、昔の思い出がよぎった。
まだ小さかった頃、釣った魚を地元の海賊に奪われ、殴られ、船を破壊されたことがあった。それを親に報告すると、また殴られた。うんざりだった。
早く大人になって、誰にも邪魔をされず、誰の力も借りず、一人で生きていく力が欲しいと思った。自分を虐げる者を殺せる力が欲しいと思った。成長し、それらの力をある程度は手に入れた。しかし、次から次へと邪魔をする者が絶え間なく現れた。だから、戦い続けてきた。
フェイレイは、そんなこれまでの人生を振り返り、溜め息をついた。
「ただただ、じわじわと死に向かって、時が過ぎるのを待っているかのようだ。まるで、砂浜にうち上げられた鯨のように。」
フェイレイがアッコロカムイと出会ったのは、フェイレイが子どもと大人の間の歳の頃だった。海に潜って貝を取っていると、ヒトの2倍程の大きさの蛸に襲われた。それがアッコロカムイだった。吸盤に捕らわれて、大きな嘴に腕の骨を折られた。フェイレイは必死になって抵抗し、なんとか海上へと顔を出し、陸へと上がった。アッコロカムイを投げ捨てようとしたが、吸盤が張り付いて取れず、一息ついたところで、ようやく離れた。
バタバタと踠き、苦しみ、必死で生にしがみつく蛸を見て、こう思った。
(お前に、骨を折られる痛みが分かるか?わからないだろう?だってお前は蛸なのだから。)
蛸について思考を巡らせていると、蛸の死が無益に感じ、海へと戻してやった。しかし、先程までは手足をバタバタさせていたのに、海に入ると、ぷかんと浮いて身動きしなくなった。
フェイレイは魚を一匹、蛸にやった。蛸はさっと動いて、ぱくりと食べた。それからというもの、蛸はフェイレイになつくようになった。フェイレイは蛸に、アッコロカムイから名を取って、コロコと名付けた。
いつの頃からか、巨体に育ったコロコに乗って日向ぼっこをすることがフェイレイにとっての心の安らぎとなった。
「タタラ王。俺が欲した自由は、それだけなんだぜ。だが、徒党を組むと、やっぱり駄目だな。それだけの自由が、それだけじゃなくなっちまう。」
フェイレイはうつ伏せになって、顔を海中に浸けた。水の魔法、水妖を発動させ、コロコの名を叫んだ。振動が海の中を駆け巡った。暫くすると、海の底から、不気味な程に巨大な蛸のコロコが姿を現した。コロコは1本の腕でフェイレイを海上へと持ち上げ、自身もまた、目の高さまで海から顔を出した。
「タタラ王は?死んじまった?」
コロコはタタラが自身を骨で固定した腕を出した。フェイレイはタタラの首もとに指をやり、脈を計った。
「死んだか。コロコ、考えがあるんだが、このまま、こいつと相討ちになって死んだことにして、2人でどっかの無人島で暮らさないか?」
コロコは別の腕で海面を一度叩いた。いいよ、の意思表示だった。
コロコが船幽霊の島とは逆方向を向いて、進もうとした時、腕に振動が走った。振り向くと、フェイレイが背中側から銛で貫かれていた。
フェイレイがコロコの腕から海へと落ちる時、彼はコロコの目を見て、笑みを浮かべて言った。
「すまん。苦労をかけた。」




