第66話 讐怨亭の頭
タタラが飛竜の翼の骨を生やして空を移動していると、テンマ達のいる島の反対側で、讐怨亭が魔法を連発し、船幽霊を追い詰めている様子が伺えた。
余所見をしていると、上空にいるタタラを目掛けて、風を切る速度で銛が正確に飛んできた。
タタラは身を翻して躱すと同時に銛の柄を手に取り、身体を回転させて、さらに速い速度で発射元に投げ返した。
銛の飛んでいく先には船の甲板に立った人間の男がいた。巨体で筋肉質なマグナとは対照的に、一見するとひょろりとした体格のその男は、タタラの目に視線を合わせたまま、極めて無駄の無い動きで、銛をひょいと躱した。タタラは彼のいる船に降り立ち、二人は睨み合った。
「どうやら、俺らは分かりあえねぇようだな。」
彼の声は低く、それでいて快活な話し方だった。
「何故、初対面の僕のことが分かるの?結論付けるには、まだ早いよ。」
「いや、俺には分かる。お前と俺では目指す世界がまるで違う。」
「何故、そう思うの?」
「直感だ。お前は、規律ある社会の中で、制限された自由を重んじるヒト特有の表情をしているからな。一方で、俺の自由に制限はない。つまり、他人の何かしらの権利を侵害する自由も、俺にはあるってことさ。別に、他人を困らせたい分けではないし、他人を搾取することが目的な分けでもない。ただ、自由なんだ。俺はな。お前は、そんな俺の自由を制限しに来たんだろう?」
「君の論理でいくと、君の自由を制限するのも、僕の自由ってことになるけど。」
男は初めてタタラから目線を反らして、海を見た。波が無限に形を変えて、太陽の光を反射し、キラキラと輝いていた。
「お前の言う通りだ。だから、俺は戦うんだ。毎日、他の海賊共や、海坊主や、船幽霊や、お前らのようなまともか偽善者かよく分からない連中とな。」
男は再びタタラの目を見た。
「ところで、お前はまだ俺の質問に答えていないぜ。」
「僕は君の自由を制限しに来たんじゃない。誰もが他人の権利を侵害しない選択をすれば、君も皆も自由のままだ。僕はね、そういう世界を造りたいんだ。」
男は上着の内ポケットからパイプを取り出して、口に咥え、魔法で火をつけた。美味そうに吸い、長い時間をかけて、白い煙を吐き出した。
「俺は、誰かに言われた通りに選択して、行動させられるのが嫌いなんだ。俺の道は俺のもんだ。」
男は後方に立っていた船員から銛を取った。そして、替わりにパイプを渡した。
「君が讐怨亭の頭なのかい?」
「他の者達からはそう呼ばれている。だが、俺が組織した海賊団じゃない。したいことをしていたら、他の者がついてきた。それだけだ。」
「僕は、マドリーナ王国、国王、タタラ。」
「フェイレイ。」




