第63話 海坊主と時雨の一人息子
赤の女王は海坊主と時雨を連れ、2人の案内で、船で船幽霊の島へと向かっていた。
「海坊主さん、ちょっと気になってたことがあるんだけどさ、聞いていいかな?」
海坊主は前方を向いたまま、返答した。
「なんだ?」
「海坊主さんと船幽霊は、何か関係があるの?」
「何故そう思う?」
「だってさ、テンマとツバキに条件を出した時に、こう言ってたじゃない?『船幽霊を止めて見せろ』って。あなたの性格ならさ、『船幽霊を始末しろ』とか言いそうなのに。」
海坊主はなおも前を向いて、赤の女王を振り返ることはしなかった。
「そんなもん知るか。」
「もし、関係があるなら、俺に伝えておいてくれた方がいいかもよ。敵として殺しちゃうかもしれないし。」
海坊主は黙り込んだ。話を聞いていた時雨が赤のの女王にココナッツミルクを差し出した。
「ありがとう。」
「ただじゃないよ。」
「しっかりしてるね。」
「旦那は船を操縦してるから、私が話してあげようか?」
赤の女王はココナッツミルクを美味そうに飲んだ。
「お願いします。」
時雨は赤の女王の隣の椅子に座り、語り始めた。
「私達には、一人息子がいたんだよ。息子の名前はピット。母親の私が言うのも何だけど、本当に良い子だった。まるで、正義感の塊のようなね。勉強熱心で、ヒト助けをすることに一生懸命で、いつも島のことを、テチス海のことを考えていた。そして、何より、父親のことを尊敬してた。だからこそ、息子は島を出たんだ。いつまでも父親と一緒にいると、父親を越えることは出来ないからと言ってね。ピットはクラングランの市長、リアの下で働くようになった。当時から旦那とリアは領海のことで揉めててね。仲が悪かった。でも、ピットは島の活性化にはクラングランと友好関係を結ぶことが必要であることを理解してた。自分が父親とリアの船渡しになれたらって考えてたんだよ。」
時雨はココナッツミルクを一口啜った。
「ピットは冒険心が旺盛でね。仕事の無い日は島に帰ってくる以外はエスペランザの財宝探しをしてた。いつか、一杯のお宝を見つけて、親父やお袋に全部プレゼントするんだと言っていた。そんなある日、ピットが乗った船が海賊船に襲われたんだ。後で聞いたんだが、ピットはどてっ腹に銛をぶっ刺されて、ディープホールにつき落とされたらしい。」
時雨は、目を真っ赤にして、込み上げてくるのを必死に堪えて話した。
「ピットの死で、テチス海において2つの変化が生じた。1つは、海坊主の激昂だ。旦那は海賊船を見かけるなり、襲い、沈めるようになった。沈めまくった。誰にどれだけ恨まれても、どれだけ憎まれても、海賊船を沈めに沈めた。そして、リアをそれまで以上に嫌うようになった。ピットが死んだのは仕事中の出来事だったからね。リアがピットを死地に追いやったんだと思ってる。もう1つの変化は船幽霊の発生だ。それまで、船幽霊なんてテチス海にはいなかったんだよ。ピットを殺したのは青鬼海賊団だったが、旦那がその船を沈める前に、船幽霊が青鬼海賊団の全ての船を霧に包み、上空に持ち上げ、無人島に落とした。それからも、船幽霊は海賊船を霧に包み、島に落とすようになった。そうして、船幽霊の島は船の残骸で埋め尽くされたのさ。」
赤の女王は時雨に質問した。
「それで、海坊主さんと船幽霊の関係は何かあるの?」
「海で船幽霊に出くわす時は、霧の中心に幽霊船があるんだが、その船がさ、息子の船なんだよ。青鬼海賊団に襲われた時は公務だったから、ピットは仕事仲間とクラングランの船に乗ってたんだ。だから、ピットの船はクラングランの港に停泊してたはずなんだ。でも、ピットの船はいつの間にかなくなっていて、船幽霊の幽霊船になっていた。旦那も私も、もしかすると、息子の亡霊が船幽霊なんじゃないかと感じてるのさ。」




