第62話 アッコロカムイ
船幽霊に向かって大声で悪態をつくテンマに、地上へと降りていたリョウコが叫んだ。
「テンマ、心配ない。ツバキは気を失っているだけだ。」
リョウコの言葉が耳には入ったが、意味として認識できず、船幽霊に逃げられ、脱力したテンマはその場に四つん這いとなった。それを見たウヅキがテンマの元へと飛んだ。テンマは這うようにウヅキの背中に乗り、ツバキの元まで運んでもらった。
サツキがベロベロとツバキの顔を舐め、血を綺麗に拭っていた。
「外傷はどこにもない。吐血した可能性を考えてお腹を調べたけど、異常は認められなかった。このまま安静にしておけば大丈夫だ。」
テンマはツバキの頭を優しく抱えた。
「すまない。俺がついていながら、すまない。」
涙を流し続けるテンマを見て、リョウコは次第に白けてきた。
「だから、大丈夫だって。」
「ツバキ。俺がもっとしっかりしていれば。」
「おいっ。」
なおもツバキの頭を抱えて離そうとしないテンマに、リョウコは目を細めて言った。
「過保護のお兄さん。上空で見えたんだけど、今度は讐怨亭の船が何十隻も迫って来てるよ。」
「讐怨亭だろうが海蛇党だろうが何とか海賊団であろうが、誰かがここに攻めてきたら切り刻んでやる。」
「ここから移動しないの?」
「安静にしていれば大丈夫だと言ったのはリョウコだろう?」
「あああぁ。言ったね。言いました。」
「ツバキのために戦ってくれ。倒れそうになったら狂ってでも戦ってくれ。怪我したら包帯巻いてやるから。」
「おいっ。」
「消毒もしてやるから。」
「うるさいっ。」
リョウコは手甲を点検しながら話した。
「あの有名な双竜兄妹のお兄さんの方がこんなに、妹に骨抜き状態とはね。これ黙っといた方がいいよ。」
「妹は、生き残った俺のたった一人の家族だ。家族は俺の全てだ。わざわざ誰かに言う必要はないが、黙っておく必要もない。これが俺だ。命を懸けで妹を守る。」
リョウコは、そうか、と小声で言い、船首に立って讐怨亭の船団の様子を確認した。
「あいつらも、いったい何をしたいんだか。エスペランザの財宝探しでもしてるのか。」
テンマはようやくツバキから離れ、リョウコの隣に立ち、海の様子を観察した。讐怨亭の船団は既に接岸していたが、誰も船から降りてくる気配はなかった。
「魔力が変動している。讐怨亭は何かをしようとしているな。」
リョウコはちらりとテンマを見た。
「あなた、本当に大丈夫なのか?サーペンスとの戦い、さっきの強大な風の魔法、もうほとんどオーラが残ってないだろう?」
「オーラ?ああ、魔力のことか。そうだな。だか、あいつらなら双剣があれば十分だろ。リョウコもいるしな。」
「ずいぶんと私に期待されてるようで。」
「いいじゃないか。電気の術、あれは良かった。」
二人が雑談していると、突然、讐怨亭の船の近くで大きな爆発が起こった。岸壁の破片が遠くまで吹き飛ぶ程の衝撃で、巻き起こった粉煙が収まると、讐怨亭の何十名もの船員やハルピュイアやマーメイドが破壊した岸へと向かった。
そこへ、集まった讐怨亭の者達を覆う船幽霊の霧が突如として発生した。霧は上空へと移動した後、急速に地上へと向かい、ぱっと霧が晴れた。霧に包まれていた者達は猛烈な勢いで地面に衝突した。
「うわっ。痛そうだな。」
遠くから眺めていたリョウコが感想を述べた。
「でも、船幽霊も連戦続きでオーラが切れそうだ。」
リョウコが横を向くと、テンマはそこにおらず、再び、ツバキのそばに移動していた。テンマは静かにツバキを抱き抱え、船内の部屋に寝かせた。テンマが部屋から出た直後に、無数の矢に襲われた。テンマは残り少ない魔力を何とか搾り出し、風魔による風の防御壁を展開した。
霧を解いた船幽霊に向けて、讐怨亭が様々な魔法で総攻撃をしかけていた。
海がぐっと盛り上がり、巨大な蛸、アッコロカムイが姿を現し、長く太い足で船幽霊に強烈な一撃をくらわせた。さらに、複数の足で連続的に攻撃した。船幽霊はアッコロカムイの足が届かない場所まで、島内部へと避難した。それをハルピュイア達が猛追しながら魔法弾を撃ち、船員も地上から追った。
その中で、頭頂部まで背びれを有し、裂けているかのような大きな口と牙を持つ讐怨亭の双子の戦闘員、ベルケとノイドが水の魔法、水妖を発動し、強力な水圧の水を船幽霊へと同時に放った。疲弊した船幽霊は霧の防御が維持出来ず、撃墜された。




