第61話 テンマの涙
飛竜のウヅキに乗って、リョウコの誘導により、テンマは船幽霊の島の上空に到着した。テンマはリョウコを自分の前に着座させており、握っていた手綱を彼女に手渡した。
「俺だけが降りる。リョウコは上空で待機していてくれ。絶対に霧に覆われるな。」
テンマはリョウコの両肩に手を置いて、ウヅキの背中の上で立ち上がり、叫んだ。
「ウヅキ。すまないがリョウコを頼む。」
テンマは身体を傾け、頭から空を降った。空中で目を皿にしてツバキを探したが発見できなかった。風の魔法、風魔を発動させて身体を僅かにふわりと浮かせ、破壊された船の上に降り立ち、重力がないかのような大きな跳躍で辺りを動き回りながらツバキを捜索した。縦横無尽に跳び回っていると、ふと、魔力の揺らぎを察知した。その方向に霧が発生していた。
テンマは双剣を抜き、刀身に風の魔力を纏わせ、2本の風の刃を放った。しかし、刃は船幽霊の霧の防壁によってかき消された。その後、霧の塊が宙に浮き、海側へと移動した。テンマがそれを追うと、船幽霊が元いた場所の船の甲板に、顔面が血塗られたツバキが仰向けに倒れているのを発見した。
世界が停止した。テンマはそう感じた。
胃と腸が破裂するかのように、強烈な吐き気がテンマを襲った。
上手く呼吸することが出来なくなり、空気を吸うことを忘れ、肺が縮んだ。
「駄目だ。駄目だ。駄目だ。こんなの駄目だ。」
テンマの思考は止まり、ツバキの元へと跳躍したが全身に纏っていた魔力は飛散し、勢いよく甲板に着地したことで転倒し、船の縁に身体を打ち付けた。痛覚は機能せず、床を這いながらなんとか前進し、ツバキの元へとたどり着いた。
「ぐあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
テンマは両手で頭を掻きむしり、その後、床をばんばんと何度も叩いた。ぼろぼろと涙が零れた。
テンマは叫び、吠え、うなだれた。
ゆっくりと顔を上げると、倒れたツバキの遥か向こう側で、漂う霧が視界に入った。テンマは絶叫し、霧の方へと飛んだ。
そして、全魔力を解放し、鱗の民最強の風の魔法、狂飆を発動した。
テンマを起点にして、強烈な暴風が轟音と共に船幽霊の霧の方へと流れた。同時に、テンマの前方にあった全ての船の残骸が吹き飛び、大地が顔を出した。
それはまるで、地面が高く捲れ上がるかのような破壊的な光景であった。
霧は風の衝撃で散り散りとなっていったが、船幽霊も新たな霧を次々に発生させて対抗した。
空間が裂けるかのような巨大な風が止んだ直後、空高く舞い上がった船の残骸が海へと落ちていく中で、テンマは鬼の形相で、憎しみの魔力の残滓を纒い、双剣で船幽霊に斬りかかった。
ごく僅かな霧に包まれた船幽霊は後退してそれを躱した後、霧ごと海中へと飛び込み、その場から去っいった。




