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Dear World  作者: 山波 孝麻
第1章 たたりもっけと餓者髑髏
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第60話 ツバキの敗北

 ツバキが、レビュラスに喰われた赤の女王を助け出そうと海へ飛び込み、発動した風の魔法、風魔(ふうま)によって海中を速い速度で移動していると、海の中で大きな白い(もや)が移動しているのが見えた。その(もや)は海面へと上がった。呼吸するため、一旦(いったん)(もや)の方へと向けて海から顔を出すと、海上は濃霧(のうむ)に包まれていた。


驚いたツバキは、海を出て空中へと上がった所で、霧が(かた)まり、身体を動かせなくなった。(しばら)くして、霧ごと、自分も移動している感覚がした。ツバキは完全に方角を見失い、空と海の高さの位置すら分からなくなった。指を動かすことは出来なかったが、目蓋(まぶた)や口の開閉は可能だった。ツバキはテンマのことを思った。


「兄貴のことだし、私と(はな)(ばな)れになって、相当、(あせ)ってるんだろうな。私がこの霧に(とら)われて、このまま死んだら、兄貴はどうするだろう?」


おそらく、死に物(ぐる)いで霧の術者を探し出して復讐するのだろうなとツバキは思った。そして、その(あと)は。ツバキにはその先の未来を見通(みとお)すことが出来なかった。家族を全員失った兄の姿を想像したくなかった。


「そうだ。兄貴が結婚すればいいんだ。それだと、私に何かあったとしても、兄貴が一人ぼっちにならなくてすむ。」


お見合いの相手を何名か思い浮かべた。その中で、死にそうにない一番強いヒトを選出した。


「リョウコだ。会ったばっかだけど、間違いない。あのヒトは強い。よし。引き込もう。」


 固まった霧の中で考え事をしていると、ふと、自分が赤の女王を追っていたことを思い出した。


「そうだった。あのヒト、大丈夫かな。もうとっくに、海蛇(うみへび)()み込まれてるかな。海蛇(うみへび)の身体の中は狭苦(せまくる)しいんだろうな。食道で、筋肉の圧力によって全身の骨をバキバキにされて、胃に到達した後は、じっくりと溶かされていくんだろうなぁ。」


ツバキは自分の身になって想像してみた。出会って2日目のヒトにココナッツミルクを(おご)ってあげて、3日目にそのヒトの身代わりになって海蛇(うみへび)に喰われて死ぬ。


 悪くない、とツバキは思った。悪党とは言え、これまで数多くのヒトの命を奪ってきた自分もまた、誰かの刃か魔法か術によって殺されるのだろうと、日頃から考えてきた。食べられて死ぬことも、可能性としてはある。


 しかし、自分はそれで仕方がないにしても、赤の女王にとっては、良いわけがないのだ。彼が、もし生きていたら、きちんとお礼を述べて、昼食代を一食分、替わりに払ってあげようと思った。レビュラスに襲われたあの瞬間、風魔(ふうま)の防御壁を展開することで、喰われることを回避出来たと推定したことから、夕食代には及ばないと結論付けた。


 そのようなことにのんびりと思いを巡らせていると、霧が晴れて、ツバキはどさりと落ちた。


「痛っ。もう、霧が晴れるなら言ってよ。」


辺りを見回すと、船の残骸(ざんがい)で埋め尽くされた場所にいた。海上なのか、陸上なのかも分からない程の光景で、船の墓場という表現がぴったりな場所であった。


「もったいない。これをしたヒトは、いったい何がしたいんだろう。」


 ツバキが集中して他者の気配を探ると、(かす)かに魔力が残留している箇所を特定できた。それは、ツバキのいる位置から近くにある船の中だった。その船は年月の経過を感じさせる風化具合を(てい)していたが、他の船と違い、航行(こうこう)出来ない程の欠損した箇所は見当たらなかった。


 ツバキは風魔(ふうま)を発動し、ふわりと浮いて静かに船に近付いて甲板(かんぱん)に降り立った。そして、船内への扉を開き、中を(のぞ)いた。探知した魔力に邪悪さは感じられなかった。


階下へ降りる急な階段を(くだ)り、船内の最奥(さいおう)の部屋へと向けて、ギシギシ音を立てながら歩いた。


ほとんど光が届かない不気味な空間を、ツバキは全くの恐怖感無く、しかし、警戒しながら双剣を(かま)えて進んだ。


奥の扉を開けた時、暗い部屋で、ツバキは何かが動くのを目の(はし)(とら)えた。


「そこにいるのは分かってるんだよ。(うわさ)に聞く船幽霊(ふなゆうれい)でしょう?堂々と姿を現して、この島でいったい何をしているのか、白状しなさい。」


ツバキの声に反応して、部屋の奥から白い(もや)がじわじわと出現した。宙に浮いた(もや)が前に出てくると同時に、(わず)かな光が当たった。ツバキは驚愕(きょうがく)した。


「なっ。ま、まさかあなたが船幽霊(ふなゆうれい)?」


船幽霊(ふなゆうれい)はなおもツバキに(せま)った。


その瞬間、ツバキの顔面から血が噴出した。


ツバキは双剣を床に落とし、手で顔を押さえ、(ひざ)から崩れ落ち、うつ()せに倒れた。

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