第59話 海蛇に喰われし者
船幽霊が出現して消えた位置からそう遠くない所で、赤の女王が海面から顔を出し、そのまま空中へと上がった。
「あああぁ、怖かった。」
手で顔の海水を拭い、疲れた表情で、いつもの穏やかな声で独り言を発した。
「海蛇に食べられるのって、最悪な気分。当分、海の中には入りたくない。」
右手の掌を空に向け、軽く腕を上げた。それと同時に、海面から、赤黒い物体で首根っこを縛られた巨大な海蛇、レビュラスが海上へと持ち上げられた。赤の女王はレビュラスの片方の眼をしっかりと見つめ、発言した。
「呪いをかけられているね。二度とヒトを襲わないと約束してくれるなら、解呪してあげるよ。」
赤の女王はレビュラスの頭にそっと触れた。レビュラスは口をパクパクとさせた。
「全の鳴動。呪いよ、弾け。」
レビュラスに纏わりついていた末那が飛散し、サーペンスがかけた呪術が解かれた。
「知覚出来るモノを弾く、選択的斥力、『全の鳴動』。それが俺の技なんだよ。斥力の矢印は常に内から外へと向いていて、一方通行だ。でも、体外に出た自分の血液の中でなら矢印の向きを自在に変更出来る。それが、全の鳴動の応用技、『赤の女王』。力を入れる向きによって、血液は固体にもなる。今、君の首を締め付けている物だよ。つまり、俺は『赤の女王』という技によって、体外に出た自分の血液を自在に操れるのさ。」
赤の女王は、再度、レビュラスに言った。
「決して、ヒトを襲っちゃ駄目だよ。」
赤の女王はレビュラスの首回りの血液を緩めた。レビュラスはドボンと海に沈んだ。そして、一度だけ海中から顔を出して赤の女王を見て、また海に潜り、去っていった。
「もう悪い奴に捕まっちゃ駄目だよぉ。」
赤の女王は空中に浮いた血液を腕輪にして装着した。
「さてと、どうしようかな。ツバキとテンマの末那は感じられないし、はぐれちゃったな。何度か海面から顔を出した時に見かけた不自然な濃霧も気になるし。一度、海坊主の島に戻ろうかな。」
Dear Worldの番外編、サクラクルクル 全5話公開中。




