第57話 海蛇レビュラス
テンマは丁寧に自己紹介し、サーペンスにタタラからの連絡事項を伝えた。サーペンスと、そのやや後方に控えていた2人の男は表情の欠いた顔でテンマの話を聴いていたが、副党のカゼラは、今後、海賊行為をしなければマドリーナ王国に迎え入れられ、辺り一帯の治安は王国が保証するという話を聴き、驚いている様子だった。
テンマが話をしている間、錨が引き上げられ、船は港から離れて行った。海蛇党の者達は別の船に乗り込み、党首が乗る船を追った。赤の女王が港の方へ振り返ると、ほとんど全ての船が出港していた。
テンマが連絡事項を伝え終えると、サーペンスは右手に持っていた杖を目線の高さまで水平に持ち上げた。左手で杖の中央を握って左側に滑らせると、刀身が出てきた。
「あなた方は誤解されている。私達は敵同士なのです。」
「党首っ。」
カゼラがサーペンスに思い留まるよう叫び声を上げたと同時に、サーペンスはテンマに、後方にいた2人の男はツバキとリョウコに襲いかかった。また、それを合図に、周りの船から、船尾にいた赤の女王に向けて無数の矢と魔法弾が放たれた。
赤の女王は一瞬にして上空に回避した。赤の女王はいつもの丸みを帯びた穏やかな声を発した。
「俺に攻撃してきた者には容赦しないよ。」
赤の女王は左手首に嵌めている赤黒い腕輪に末那を注入した。そうすると、腕輪は液体に変化して腕から離れ、球体となって宙に浮いた。それは次第に体積を増し、ヒトの頭程の大きさとなった後、尖頭状の固体へと変形した。
赤の女王はそれを矢と魔法弾を放ってきた船に向けて目にも止まらぬ速度で放った。それは海蛇党の船を一瞬にして貫いた。赤の女王は他の船から上空へ放たれた魔法弾を回避しつつ、海に潜った物体を手元に戻して、再び末那を注入し、別の船を攻撃した。
それを繰り返し、テンマ達が乗船している船の周囲にいた5隻の船をあっという間に沈没させた。その光景を見たサーペンスはテンマへ剣撃すると同時にぼやいた。
「はぁぁぁ。全く、どこまでも使えない連中ですね。」
「余所見をするとは良い度胸だな。」
「お互い様でしょう?ご兄妹が気になる様子。」
テンマが想像していた以上にサーペンスは手練れで、お付きの2名の男達も剣と魔法の腕が相当高度であった。
「お前ら、ここらの海賊の者じゃないな?剣の腕、身のこなし、魔力、よく訓練されてる。讐怨亭の者達とも比べ物にならない。何者だ?」
「あんな野蛮な連中と一緒くたにされては困ります。それに、死にゆくあなた方には関係の無いことです。」
サーペンスは魔力を全身に漲らせた。すると、彼の筋肉が爆発的に膨張し、上半身の服が弾け飛んだ。さらに、水の魔力によって剣に海水を纏わせると、テンマに向けて振り下ろした。強力な水圧を伴うその剣撃は、テンマの風の魔法、風魔による風の刃を弾き、テンマは慌ててそれを躱した。
サーペンスの強力なその一撃は船を半壊させた。船に入った切れ込みは、バキバキと音を立てながら次第に広がっていき、船が左右に割れ始めた。
テンマは風の魔力を練り、空を飛んだ。
ツバキは、態勢を崩したサーペンスの部下の一瞬の隙をつき、剣で串刺しにした。しかし、その男はにやりと笑い、腹に力を込めて剣を抜けなくし、ツバキの両腕を掴んだ。
「サーペンス様ぁ。」
「さすが、我が部下、リーマス。見事です。」
サーペンスは魔力を海へと放った。すると、そこから巨大な海蛇、レビュラスが勢いよく海面から飛び出し、顎の骨を外して大きな口を開け、リーマスもろともツバキを襲った。
一瞬の出来事でテンマは腕をツバキの方へと向けたが間に合わなかった。そこへ、レビュラスの末那を感じとっていた赤の女王がツバキの元へと飛んできて、リーマスもろともツバキを押し倒した。代わりに赤の女王がレビュラスに喰われ、レビュラスはそのまま海中へと消えていった。
ツバキはリーマスに突き刺さった剣に風の魔力を放ち、リーマスを海へと吹き飛ばした。そして、沈みゆく船の縁に立ち、海蛇が潜っていった海中を見て、全身に風の魔力を纏った。それを見たテンマが叫んだ。
「よせ。行くなツバキ。」
ツバキは兄の声を聞く間もなく、海中へと飛び込んだ。
「ツバキィィィ。」
サーペンスは2匹目のレビュラスを呼び、宙に浮いているテンマを真下から襲わせた。テンマは風の防壁を造り出し、喰われるのを防いだ。
その時、サーペンスのもう一人の部下を倒していたリョウコが電気を纏わせた手甲型の短剣で、テンマに集中していたサーペンスの首を目掛けて斬りかかった。サーペンスは寸前で避けたが肩に深い傷を負い、全身に電気が走った。
その隙に、リョウコはもう片方の腕の手甲型の短剣で彼の腹部を刺した。サーペンスの分厚い筋肉に阻まれて致命傷には至らなかったが、サーペンスは苦悶の表情を浮かべた。リョウコが両腕の手甲からバチバチと電気を放ちながら、鋭い目付きで言った。
「あんたを殺しに来た。」
リョウコがサーペンスにとどめを刺そうと、転覆しかかっている船の上で一歩を踏み出した時、突然、辺りが一瞬にして霧に包まれた。リョウコが驚愕の表情で声を漏らした。
「しまった。船幽霊か。」
サーペンスは濃霧の中で、テンマを襲わせていたレビュラスを呼び、自身を喰わせて海蛇の口腔内に避難し、海の中へと消えていった。
Dear Worldの番外編、サクラクルクル 全5話公開中。




