第53話 赤神ナナセの提案
赤神ダンテ達はタタラとの会談を終えた後、再び大鷹に乗ってバルバレイ領を訪れた。ナウゼラ・バルバレイと面会する前に、蟲に飲み込まれた街を視察することにした。ヒトがいなくなり、廃墟となった街中は、不気味な静寂に包まれていた。
「タタラ王はどんな感じやったん?」
いつもの口調で、唐突に発せられた赤神ナナセの声は周囲に響き渡った。
「もう。驚かさないでよ。」
赤神スースが赤神ナナセを嗜めた。
「だって、マドリーナ王国を出るまでは白髪のヒトがぴったりとくっついてたし、大鷹に乗ってる時は風で声が届かへんし、気になってたんやもん。頭領、タタラどうやったん?あ、いや、ちょっと待って。頭領が何か言う前に、あたしが先に言うとくけど、あたしはマドリーナ王国と敵対するんは嫌やで。」
赤神ナナセの発言に水野京爾郎が訝しんだ。
「何故、急にマドリーナ王国を慮ることを言うのです?」
「ええぇ?そりゃあ、あれやんか。」
「どれです?」
「あのぉ、なんか礼儀正しい国やったし、なんか色々と、あれやったし。」
「あれだったとは、何です?」
「もうええから、頭領、タタラはどうやったん?」
赤神ダンテは扉が外れた無人の家屋の入り口の前に立ち、中の様子を探りながら、口を開いた。
「タタラ王の印象は、深淵だ。注意深く覗き込んでも、そこには深い闇しかない。底が無く、出口が無く、終わりも無い。まるで、光や空間や時間さえも飲み込む異次元の穴のような存在であったわ。」
廃墟に風が吹いて5人の髪が揺れた。砂が舞い上がり、どこかで家屋が崩れる音がした。
「頭領がそこまで言うやなんて珍しいやん。タタラ王はあたしらの敵になりうるん?」
赤神ナナセの質問に水野京爾郎が答えた。
「こちらが下手につっつかない限り、アカガミ国の脅威にはならないでしょうね。それと、タタラ王より貿易の提案がありました。」
「ほんまに?やったぁ。じゃあさ、王邸のある街にアカガミ国の特産品を販売する店を開こ。そいで、あたしが店員になりたい。出来立てほやほやの国やからさ、多少は危険も孕んでるやろ?でも、強いあたしなら対処出来るし、愛嬌もたっぷりやし、可愛いし、お客さんいっぱい来て繁盛するで。外貨を獲得して、ついでに、ちゃんと監視しとくからさぁ。なぁ、頭りょぉぉう、お願い。」
水野京爾郎が口をはさんだ。
「前例がありませんよ。しかも、監視がついでなんですか?逆じゃないですか。アカガミ国は黄泉統一を掲げていますから、他国に出店するとなると、方針転換を宣言しているようなもので、反対するヒトが多いと思いますよ。それに、誰が可愛いんです?」
赤神ナナセは水野京爾郎のお尻を軽く蹴りながら述べた。
「黄泉統一って言っても、スメラギや他の13柱の悪魔やエル大陸からの干渉がある中で、全ての国をアカガミ国に併合するなんてこと、非現実的やん。元々、統一目標は、全アカガミ国民が平穏に、幸せに生きていくために掲げたもんやろう?それって、全ての国を併合せんでも叶うことやん。例えば、ヨミ大陸の全ての国がアカガミ国の友好国になれば目標達成ってことでええんちゃう?せやから、マドリーナ王国とかバルバレイ領を友好国に認定したらええねん。まずは、マドリーナ王国に出店して、それを試金石にして、その後で本格的に考えたらええんちゃう?そして、あたしは可愛いから。」
「さっきも聞きましたけど、どうしてナナセさんはそんなにマドリーナ王国に肩入れするんです?」
「ああっ、もうっ。しつこいな。分かった、言うよ。あたしは茶々丸が好きになってん。」




