第51話 海坊主の条件
海坊主は全身に魔力を練って、大量の海水を纏った。海水は海坊主の身体から上空に向けて、巨人のような形を成し、砂嵐を抱きかかえた。海坊主はこめかみに血管が浮き上がる程に力を込めて海水の巨人を操作し、砂嵐を潰した。同時に巨人も破裂し、周辺に海水が飛び散った。
その時、海坊主が脱力した一瞬の隙を狙い、テンマは風魔を宿した一本の剣を両手で持ち、袈裟懸けに斬り下ろした。海坊主は慌てて金棒を横向けにして防いだが、金棒はすっぱりと左右に両断され、左肩に剣の切っ先が当たった。海坊主は数歩下がった。左肩から胸にかけて縦筋に血が滲み出した。
海坊主の手下達は皆、声を張り上げて、ボス、と叫んだ。
「心配ねぇ。かすり傷だ。」
海坊主は斬られた金棒を見て、砂浜にそっと置いて、練っていた魔力を解いた。それを見たテンマは剣を鞘に戻した。
再び、マーメイド達が波打ち際に戻って来て、その中の一人が水の魔法 水妖を発動し、海水が長い腕のように海坊主へと伸びた。そこには二枚貝が納められており、海坊主はそれを受け取った。貝を開けると軟膏が入っていて、海坊主はそれを斬られた箇所に塗り付けた。
赤の女王の横に立っていた海坊主の手下が叫んだ。
「ボス。もう我慢なられねぇ。全員でこいつら殺っちまいましょう。」
海坊主は赤の女王を見て、視線をツバキに移し、返答した。
「手ぇ出すんじゃねぇ。」
海坊主は椅子まで歩いて行き、ツバキが座っている椅子の二つ隣の椅子にどかっと腰を下ろした。ギシギシと椅子が軋んだ。台座に置いてあったココナッツミルクをごくりと飲み、一息ついた。しばらくして、上半身を起こし、両腕を両膝に置いて、じろりとテンマを睨み、発言した。
「お前らがタタラ王とやらに協力する理由はなんだ?」
「クラングランのリア市長にも聴かれたよ。タタラ王は面白いんだ。圧倒的に強いけれど、偉そうにせず、敵には無慈悲だけれど、命を大切にしている。平和、教育、交通を重視していて、それに俺は賛同している。」
「俺の前で市長の話はするな。」
海坊主はため息をついた。
「タタラ王に税を払えと言うのか?」
「王に払うんじゃない。国に払うんだ。そのお金で学舎や道や船を造る。誰もが読み書き計算を出来るようにして、王国内の往来を活発にする。」
「王はお前らよりも強いのか?」
「そうだ。それに、マドリーナ王国の国防大臣も化け物じみた強さで俺達より上だ。今は、な。」
海坊主は再びココナッツミルクを口にした。
「あのさ」
ツバキが発言した。
「ここのココナッツミルク美味しいね。景色もとびっきり綺麗だし。」
海坊主はツバキを見た。
「あたり前だろうが。それがどうした?」
「この島に飛竜の定期便を飛ばすってのはどうかな?」
「あっ?」
「だから、ココナッツミルクを鱗の民に販売するんだよ。村の皆にも飲ませてあげたい。新鮮な魚介類も食べさせてあげたい。かわりにさ、私達の村で造ったお醤油やお味噌をあんた達が買って。ついでに、観光にも来させてよ。あんた達も鱗の民の村へ観光に来ていいよ。」
海坊主はなんて返答をしたらいいのか分からず、手下達の反応を確認した。皆、どう考えればよいのか分からない様子だった。
「あんた達がのろのろしてると、私達はクラングランや他の島のヒト達と、さっさと商売を始めちゃうよ。」
ツバキは立ち上がり、ウヅキに近づいて首の横を優しく撫でて、囁いた。
「さっきはよく我慢したね。偉かったよ。」
ツバキはさらに中央に進み出て、声を張り上げて話した。
「考えてみてよ。双竜兄妹と海坊主が手を組めば、何だって出来ると思わない?」
ツバキは両腕を広げた。
「バルプロ山脈とテチス海の恩恵をマドリーナ王国に循環させる。そうしたらさ、色んな美味しい物がいっぱい食べられるよ。」
ツバキは風魔を発動し、宙に浮いて、南を指差し、発言を続けた。
「テチス海が平和になれば、海の向こうのパンゲア大陸とも交流を始められる。そうしたらさ、商売の相手はマドリーナ王国だけに留まらず、世界に広げられるよ。どう?わくわくしない?」
ツバキはふわりと浮いたまま風に揺られて移動し、元の椅子に着席した。
「私は、村の皆と一緒に、ここに遊びに来たいんだけどなぁ。」
赤の女王がツバキに賛同した。
「俺も、この島が好き。この椅子に座って、この美しい海を眺めながら、この青い空の下で、イカの醤油焼きを食べたいなぁ。」
テンマがツバキと海坊主の間にある空いた椅子に座った。ココナッツミルクを飲み、棒読みで発言した。
「バルプロ山脈を眺めながら、温泉に浸かるのも最高に気持ち良いんだけどなぁ。」
ツバキもテンマも赤の女王も海坊主の手下達も、固唾を飲んで海坊主の発言を待った。
「条件がある。」
テンマがちらりと海坊主を見た後、前方にある海を眺め、聴き返した。
「どんな条件だ?」
海坊主はココナッツミルクをぐいっと飲み干して言った。
「船幽霊を止めてみせろ。」




