第50話 テンマと海坊主
海坊主が金棒を肩にのせ、低い声を出した。
「お前ら双竜兄妹がいつかは現れるんじゃないかと思ってたぜ。俺を殺しに来たか?」
「戦いに来たんじゃない。連絡事項を伝えに来たんだ。」
海坊主の手下がぞろぞろと現れ、テンマやツバキ、赤の女王、二頭の飛竜の周りを囲むように集まり、様子を伺った。空からハルピュイアが舞い降り、何名かは上空を旋回していた。波打ち際に、何十名ものマーメイドが顔を出した。
「連絡事項とやらを聴かせろ。」
「竹虎が死んだ。タタラ・マドリーナが王となり、旧竹虎領はマドリーナ王国となった。俺達、双竜兄妹はマドリーナ王国の警備大臣に就任した。山賊や海賊や空賊のような、理不尽な暴力により他者を傷つけ、財産を奪う者は王国の敵として、俺達が討伐する。」
「はっ。偉そうに。何様だ?俺達は何者にも縛られねぇぞ。」
海坊主は金棒を振り上げ、叫んだ。
「ここは、海坊主の島だ。」
周りの者達が一斉に歓声を上げた。ハルピュイア達は甲高い声で海坊主を称え、マーメイド達は水の魔法を発動させて海から何本もの噴水を上げた。
ツバキと赤の女王は、ずずずとココナッツミルクをすすった。
「その通りだ。」
テンマの発言に、辺りは再び静かになった。
「ここは海坊主の島だ。タタラ王も俺達も、お前達を縛るつもりなんてない。ただ、王国を平和にしたいんだ。」
海坊主はテンマの眼を見た。
「警備大臣と言ったな。弱者じゃ、務まらねぇんじゃねぇか?」
そう言って、海坊主は素早い動作で金棒をテンマに振り下ろした。テンマは身を翻してそれを躱し、双剣を抜いた。なおも向かってくる海坊主にテンマは風の魔法、風魔を双剣に宿し、風の刃を放った。海坊主は金棒を振り回して風の刃を相殺しつつ、テンマに突進した。テンマは上空に回避し、空中から何本もの風の刃を放った。
ウヅキが咆哮を上げ、翼を広げた。
「ウヅキッ。」
ウヅキは声を上げたツバキの方へと顔を向けた。
「加勢したら駄目だよ。兄貴なら、大丈夫。信じて。」
ウヅキは翼をたたんだが、心配そうにテンマを見た。
海坊主が持つ金棒は巨体の海坊主の腕よりも太かったが、海坊主は重量を感じさせない程の速度で縦横無尽にその金棒を振るった。
海坊主はテンマが繰り出す風の刃を全て弾いた後、舞い上がっていたテンマが着地するのと同時に、超音波を放射する特殊な叫びを放った。その場にいる全員が反射的に手で耳を覆い、顔を下に向けて目を閉じた。
その隙に、海坊主は魔力を海に練り込み、水の魔法、水妖を発動させた。海水が太い水柱となって立ち上がり、海坊主が金棒を持っていない方の腕をテンマの方へと振り下ろすと、水柱は生き物のようにテンマへと向かっていった。
海坊主は次々に水柱を発生させた。波打ち際にいたマーメイド達は水柱に巻き込まれないよう沖へと避難した。テンマは襲ってくる水柱を走りながら躱し続けたが、最後の巨大な水柱は避けきれないと判断し、風魔による風の防壁で防いだ。
テンマはさらに魔力を練って、発生させていた風を巨大な旋風に発達させ、砂嵐を海坊主にぶつけた。周辺は大量の砂が舞い上がり、海坊主の手下達は手で鼻と口を覆いながら、その場から距離をとった。
ツバキはウヅキとサツキ、赤の女王を含めた範囲に風の防壁を発生させていた。壁の内部は凪の状態で、内と外ではまるで状況が違っていた。
「ありがとう。」
赤の女王はツバキにお礼を述べた。
「構わないよ。ココナッツミルクをご馳走してくれたし。お代よろしく。」
「え?」
赤の女王はツバキに白い目を向けた後、風の防壁の外を見て、首をかしげた。
「それにしても変だな。この前は、トゲの金棒で叩かれることなんてなかったのに。」
「あんたの感覚がワカメのように鈍かっただけだよ。」




