第48話 赤神家頭領の出立
アカガミ国の城都、レッドガーデンは中央に巨大な天守閣が聳え、赤神家頭領の公邸兼国政の中枢として機能していた。天守閣は天守と呼ばれ、全ての決定は天守から発出されていた。
アガガミ国では全ての判断が赤神家頭領に委ねられていた。立法、行政、司法は頭領の直轄にあり、国の治安維持を担う鳳凰衆や他国での諜報活動を任務とする隠密組織の修羅も、全て頭領の命令により動いていた。
赤神家頭領に権力が集中するアカガミ国の体制の中で、あらゆる決断を迫られる赤神ダンテは仕事に忙殺されていた。赤神ダンテは、分かりにくい説明をとにかく嫌った。限られた時間の中で、正解を導き出すためには、物事を理解することが不可欠である。理解出来ない説明を聴くことは、説明を受けていないことと同じであり、それでは判断のしようがない。
そのため、簡潔で、的を得ていて、十分な考察がされていて、結論が明確な説明を部下に求めていた。その結論を承認するか、しないかが頭領の仕事だと考えており、従って、自分なりの結論を導き出せない部下は全て遠ざけていた。
レッドガーデンでは、防衛上の理由から、天守を除いた建物よりも高く飛行することは固く禁じられていた。それは、赤神家頭領も例外ではなかった。アガガミ国の修羅が長距離を移動する時は、大鷹を利用した。その大鷹の鳥舎は、飛行禁止規定から、レッドガーデンの郊外にあった。
マドリーナ王国に訪問するため、赤神ダンテは水野京爾郎、赤神ダイボス、赤神スース、赤神ナナセを連れて、徒歩で天守から鳥舎へと向かっていた。赤神ダンテは後ろを歩く4人を振り返り、厳しい口調で言った。
「顔を上げよ。国の規範たるお主らが下を向いてどうする。胸を張り、堂々とせよ。」
赤神ダンテは普段からレッドガーデンを歩き回っており、繁盛している露店や、子ども達がどのような遊びに興じているかや、鳳凰衆の働きぶりを観察していた。何をするにも国のことを考え、何もかもを国のために注ぎ、何かしらの新しい発想を常に模索していた。
水野京爾郎はそんな赤神ダンテを信奉し、赤神ダイボスはそんな赤神ダンテの背中を追い、赤神スースはそんな赤神ダンテを心配し、赤神ナナセはもっと遊び回りたいと思っていた。
赤神ダンテがマドリーナ王国到着後の予定を話した。
「タタラ王とは、我と京爾郎とスースの3名で話をする。ダイボスとナナセは必ず別室で待機せよ。」
「はぁい。それにしても、タタラ王っちゅう奴はどんな感じなんかなぁ。格好良かったらええねんけど。」
赤神ナナセの発言に、赤神スースが長い黒髪を耳に掛けて質問した。
「格好良かったら、どうして良いの?」
「え?そりゃ、なんかドキドキしたい気分やから。そんな今日この頃。」
「そうなんだ。」
赤神ダンテが咳払いし、話を続けた。
「バルバレイ領でのマーキュリーの調査より、タタラ王はあのメギドの焔と同程度の魔法を単独で発動できる可能性がある。心せよ。特にナナセ。お主は緊張感が無さすぎる。」
「せやけど、頭領。タタラ王もまさか自分の国でそんなでっかい魔法は発動しないんとちゃう?頭領じゃあるまいし。頭領じゃ。あたし忘れられへんわ。頭領が頭領になる前、天使軍にぶちギレして、太陽の矢を放ちまくって、天使軍もろともアカガミ国の広範囲の土地をべっこべこにしたん。可哀想な大地。あれで、エル大陸との関係を改善する余地が綺麗になくなって、いまだ戦争が続いてるんやもんなぁ。」
「その話は止めよ。」
水野京爾郎が赤神ダンテを庇った。
「頭領があの時、死力を尽くしてくれてなかったら、アカガミ国は崩壊していましたよ。」
赤神ダイボスが同意した。
「そうだ。頭領がいなければ、俺達は全滅してたぜ。」
「まぁね。しぃかぁしぃ、頭領の攻撃に一人、耐え抜いた天使がおったんやから。その娘がまためっちゃ美人で、結構な傷を負いながらも、槍を手に取り、オーラを使い果たしてヘトヘトになった頭領に単独で向かって行ったん。美人にボコボコにされる頭領。ぷぷっ。その窮地を救ったのが、あたしとマーキュリーやねんから。あたし達は頭領の命の恩人やで。」
赤神ダンテは何も言わず、皆に背中を向けて先頭を歩き続けた。
「しぃかぁもぉ、そん時に頭領が取り逃がした美人は、その後、最上級の熾天使にまでなったからね。その娘、ほんまに綺麗やったからあたし名前聴いたもん。あたしは赤神ナナセ、あなたは?って。そしたら名乗り返してくれてん。ハクアエルやって。彼女が熾天使になってから、その1回しか会ってないねん。あれからどうしてるんかなぁ。天使にしておくにはもったいない美しさやったわ。」
赤神ダンテはくるりと振り返り、怒鳴った。
「馬鹿者。アカガミ国の隠密が自ら名を名乗ってどうする?」
「うぐっ。た、確かに。」
他の3人は赤神ナナセに白い目を向けた。前を向いて歩き出した赤神ダンテは宣言した。
「ナナセ。お主は来月以降も継続して、強羅七部衆に任命する。」
「なんでやねん。」
赤神ナナセは驚愕の表情で、叫ぶようにして反射的につっこみを入れた。
「ちょちょ、ちょっと待って。そりゃないって。この一年、強羅として散々頭領にこき使われてきたんやから。あの陽炎の死神の所から、なんやよう分からん道具を盗んでこいとかさぁ。」
「盗んでこいなどと言うとらんわ。奪われた物を取り返してこいと言うたのだ。人聞きの悪いことを申すでない。」
「他にもさ、リュウグウ国の半歩手前まで行って、様子を探ってこいとか、ついでに、スメラギ国に侵入して社会情勢を調べてこいとか。めちゃめちゃやん。スメラギに侵入って、ついでにやることちゃうで。全部、13柱の悪魔絡みの仕事やん。」
赤神ダンテは再び後ろを振り返り、赤神ナナセの両頬を口が尖るまで両手で挟み、顔を接近させて、不敵な笑みを浮かべて述べた。
「何せ、お主は我の命の恩人だからなぁ。我の側近にしてやらんと、お主に申し訳が立たんわ。」
「ふごっ、ふごっ。」
他の3人は同時に、口は災いのもと、と思った。落ち込んだ赤神ナナセはマドリーナ王国の王邸に到着するまで、まともに口を開かなかった。




