第46話 テチス海での勢力争い
リアは紅茶の香りを嗅いだ後、それを口にした。それを見たテンマとツバキは同じように紅茶の香りを楽しんだ後、一口飲んだ。適度な温度で、風味をしっかりと堪能できた。健康的な茶葉の旨味が凝縮されていた。
「ところで、何故、赤神家頭領がタタラ王に会いに来るのでしょう?」
「それは」
テンマが言い淀んだのを見て、ツバキが答えた。
「タタラ王がアカガミ国の修羅を一人討ったからだと思います。」
「ツバキ。」
「だって、いいじゃない。タタラの性格を考えると、赤神ダンテにも正直に言っちゃうと思うよ。」
テンマは慌ててリアに申し出た。
「あの、この事はどうかご内密に。」
「ふふふ。承知いたしました。」
リアはこの場で初めて笑顔を見せた。それによって、雰囲気が一瞬にして華やかになった。
「アメリアも口外しないでね。」
「かしこまりました。」
リアは後ろを振り向いて男に言った。
「あなたも、お願いね。」
「はい。」
「タタラ王はとても勇敢でいらっしゃる。テチス海での紛争は様々な要因が重なって、泥沼と化しております。その一つが、実は二つの大国による水面下での勢力争いなのです。」
「二つとはアカガミ国とスメラギ国ですか?」
「はい。二国は、相手の国に覇権を握らせないため、大陸中で暗躍しております。大国の悪しき論理が混乱の渦を大きく成長させ、周りを巻き込んでいます。その元凶は、敵の敵は味方、という考え方です。歴史を学べば、これがいかに愚かで、誤りで、悲惨な未来をもたらすか一目瞭然なのですがね。」
リアは紅茶を一口飲んだ。リアの所作は優雅で、何をするにも、少しも音をたてなかった。
「テチス海に出るときは、とにかくディープホールに注意して下さい。」
テンマが頷いた。
「どこまでも沈み込む深海の穴、ですか。噂には聞いたことがあります。」
「ヨミ大陸とパンゲア大陸の間にあるテチス海において、東西からくる海流がぶつかる場所があります。その海域の中で、海底に深い穴がぽっかりと空いている箇所があり、海流がそこへと絶えず流れています。一度その本流に飲み込まれると、たとえマーメイドの泳力でも逃れることは出来ません。」
「ありがとうございます。注意いたします。」
「海賊の討伐には案内役が必要でしょう。あなた方の足手まといにならず、船上や、空中や、最悪、海中での戦闘にさえ対応できる戦士ならなお良い。」
リアは隣に佇む男に目をやった。リアの視線に合わせ、テンマとツバキ、アメリアも男に注目した。
「リアさん。それは契約外でしょう?」
男の声はひどく物腰柔らかで、丸みを帯びていた。
「はい。ですから、私を守護する契約は終了とし、新たな契約を結びたく思います。」
「俺は、誰かを殺す契約は決してしません。標的が悪いヒトじゃなければ殺したくありませんから。海賊討伐も、どこまでやれば完了となるのか、終点を明確に出来ません。従って、そのような契約はしませんよ。」
「あら。それでは、契約は無しで報酬は前払い。あなたが悪いヒトだと判断した海賊を討伐するということで構いませんわ。」
男は呆れた声で言った。
「天使のあなたが契約無しの口約束で報酬を払うんですか?俺が報酬を受け取った後、何もせずこの地を去ったらどうするんです?」
「この3箇月の間、ずっとあなたと行動を共にしてきました。あなたはとても真面目なヒトです。責任と義務を放棄しないヒトです。あなたは約束を反故になんてしないヒトです。私はクラングランを平和にしたいのです。」
男は逡巡し、溜め息をついた。テンマがリアに質問した。
「リア様。その方はどちら様なのでしょうか?」
「この者は赤の女王です。男性ですが、そう呼ばれています。パンゲア大陸ではとても有名な戦士なのですよ。旅をしていて、クラングランを訪れて、しばらくの間、私の守護者として働いてくれておりましたの。」
「俺は戦士じゃありませんって。ただの旅人です。分かりました。一週間だけですよ。」
こうして、双竜兄妹は赤の女王を案内役として、海賊討伐をすることになった。
赤の女王はリアの突然の提案に多少の不安を感じたが、海賊が持っているお宝の中で良い物があったら貰っておこうかなと思い、気分を切り替えることにした。




