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Dear World  作者: 山波 孝麻
第1章 たたりもっけと餓者髑髏
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第45話 天使の市長

 漁船と二隻(にせき)の海賊船を停留(ていりゅう)させた桟橋(さんばし)には、他の漁師が待機しており、彼らはすぐに漁船に乗り込んで、三日月刀(みかづきとう)で切られた漁師を介抱した。傷を負った漁師は讐怨亭(しゅうおんてい)罵倒(ばとう)した後、テンマとツバキに礼を述べた。


 そこへ、市長代理のアメリアがやって来た。彼女は人間で、純白のワンピースを着ていた。その服はまるでドレスのようであったが、白色に染められた分厚い皮のベルトを腰に巻いており、そこには(はがね)の剣と3本のナイフが固定されていた。細い腕とは裏腹に、(てのひら)には分厚いタコが出来ていた。目付きは鋭く、怒っているかのような厳しい口調(くちょう)で言葉を話した。


双竜兄妹(そうりゅうきょうだい)相違(そうい)ないか?」


テンマが返答した。


「そうだ。」


「連絡によると、タタラ王も参られるとのことだったが、いかがされた?」


「急用で湖都(こと)に戻られた。詳細は市長に会ってから話す。」


「では、飛竜(ひりゅう)を連れて、こちらに参られよ。」


アメリアは(きびす)を返し、すたすたと歩き始めた。テンマとツバキ、ウヅキとサツキが後に続いた。


 市長舎(しちょうしゃ)に行くまでの道は双竜兄妹(そうりゅうきょうだい)飛竜(ひりゅう)見たさに野次馬(やじうま)でごった返していた。市長舎(しちょうしゃ)は白色の煉瓦(れんが)造りで、クラングランで唯一の円形の建物であった。ウヅキとサツキは外で待機した。テンマとツバキは市庁舎の2階へと通され、廊下の先にある木製の扉をアメリアが開けた。


 部屋の奥には大きなガラス窓があって、美しいテチス海を一望できた。中央には白色の円形のテーブルと椅子(いす)が置かれており、壁は本棚で埋め尽くされていた。市長のリアは窓際の椅子(いす)に座っており、隣に男が立っていた。


 リアは長い金髪に碧眼(へきがん)で、背中に大きな白い翼を有しており、アメリアと同じ服装をしていた。テンマとツバキは天使であるリアの魔力に人間や千家(せんげ)とは異なる波動を感じ取った。それは、冬に咲く向日葵(ひまわり)のような、あるいは、嵐の中で少しも波立たない湖のような不均衡(ふきんこう)な質感だった。さらに、リアの眼差(まなざ)しは、まるで特別な波長の光を放射し、形而上(けいじじょう)の世界を(とら)えているかのような異質さを含んでいた。


 一方で、リアの外観はあらゆる景色に溶け込む調和的な均整(きんせい)さで満たされていた。リアは少しも音を立てずに椅子(いす)から立ち上がり、言葉を発した。


「ようこそ、クラングランへ。私は市長のリアと申します。テンマ様とツバキ様ですね?」


テンマは、「そうです」と返答した。


「タタラ王は、赤神(あかがみ)ダンテが湖都(こと)に来訪することになりましたので、急遽(きゅうきょ)王邸(おうてい)へ戻られました。」


リアはほんのわずかに目を見開いたが、(ただ)ちに元の表情に戻った。


「そうでしたか。お会い出来なくて残念です。どうぞお座り下さい。」


テンマとツバキが椅子(いす)に座り、それを見届けた後でリアも静かに座った。


「ところで、あなた方はタタラ王とどの様なご関係なのでしょう。」


「関係と申しますか、私達はマドリーナ王国の警備大臣に就任(しゅうにん)いたしました。従いまして、その役職を(まっと)うすべく、クラングランに、参らせていただいた次第(しだい)です。」


 リアの瞳が(わず)かに左右に揺れた。頭の中では、限りなく凝縮(ぎょうしゅく)された時間の中で、絶え間なく考察が行われた。部屋の扉付近に立っていたアメリアは、(うろこ)(たみ)最強の戦士である双竜兄妹(そうりゅうきょうだい)が新参の王に従っていることに、驚きを隠せないでいた。


「それはとても心強い。クラングランは長年、海賊達と争っております。ここ数年でさらに激化し、本当に困っておりました。海坊主(うみぼうず)海蛇党(うみへびとう)。ハルピュイアにマーメイド。讐怨亭(しゅうおんてい)による海から街への弓術や魔法による攻撃と度重(たびかさ)なる私の暗殺計画。それに、テチス海の天災と呼ばれる船幽霊(ふなゆうれい)。」


ツバキが発言した。


「私達は海賊共を討ちに来ました。それが実現すれば、リア様はマドリーナ王国とタタラ王を支持して下さるでしょうか?」


リアは無表情で席を立ち、再び窓際(まどぎわ)に移動してテチス海を眺めた。それに合わせてリアの背後に立っていた男も窓際(まどぎわ)に移った。しばらくの間、部屋は張り詰めたような沈黙で支配された。


「驚いた。」


リアは少しも驚いた(ふう)な表情を見せずに、ガラスに映ったテンマとツバキを見て口を開いた。


「誇り高き(うろこ)(たみ)であり、大陸に名を(とどろ)かせた双竜兄妹そうりゅうきょうだいがそこまでの発言をするだなんて。」


リアは二人に向き直って質問をした。


「それ程までに、タタラ王は魅力的な人物なのかしら?」


 リアの質問に対し、テンマはタタラの首が(へび)の胴体となって長く伸び、頭は竜となってヒトの首を噛み砕いた光景を思い出した。


 リアの質問に対し、ツバキはタタラに()っこされる茶々丸(ちゃちゃまる)分福丸(ぶんぷくまる)を思い出した。茶々丸(ちゃちゃまる)分福丸(ぶんぷくまる)の頭を()で、茶々丸(ちゃちゃまる)分福丸(ぶんぷくまる)の肉球をつまみ、茶々丸(ちゃちゃまる)分福丸(ぶんぷくまる)とベタベタするタタラに(いきどお)りすら感じた。決して言葉にすることはないが、なんて(うらや)ましいと深層心理が泡を吹いて叫んだ。


 ツバキの心が帰らずの迷宮に埋もれている間、テンマがリアに返答した。


「大多数のヒトは前例を踏襲(とうしゅう)し、変化を(こば)みます。良くて、既存(きぞん)のものを応用したり、改善したりする程度です。タタラ王のように、新しい物事に取り組み、新しい価値観を生み、新しい世界を造りあげようとするヒトは、希少で貴重です。大多数のヒトは新しいことをするヒトに対して怒りをぶつけ、批判し、罵倒(ばとう)し、嘲笑(ちょうしょう)し、欠点を掘り起こし、つつき回して、引きずり落ろします。しかし、タタラ王は負けないでしょう。それだけの強さと信念を持ち合わせております。何より、彼は行動する以上に、楽しんでいる。」


 部屋の扉を軽く叩く音がした。アメリアが扉を開くと、文官の女性が木製のトレイに紅茶を3杯用意していた。アメリアはトレイを受け取り、丸いテーブルに置いた。


「どうぞ、お召し上がり下さい。クラングラン自慢の紅茶です。」


そう言って、リアもテーブルに戻り、椅子(いす)に腰かけた。

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